28話 太くて長いもの
交易所のオアシスで、砂漠に適応するため買い物をすませる。
通貨は……価値は同じだが形が違った。
しかし、返済ボックスの新機能なのか両替することができるようになっていた。
なんでもありだな!
さらに恐ろしいことに、暫く増えていなかったはずの残高が少しずつだが増えていってる。
いったい何が、何がおきているんだ。
い、胃が痛い。
ラクダみたいな魔物もいたので買ってみた。
砂漠での荷物の運搬に役立ってくれそうだ。
もろもろ合計で金貨二十枚ほど。
しかし、財布だけでも自分で持っていて良かった。
出費は痛いのだが……
最近、金銭感覚がおかしいかな? 二百万をこんな簡単に……
「修平さんはお金もちですね、そんな簡単にラダなんて買えませんよ」
そ、そうですよね普通は。
このラクダみたいな魔物はラダというらしい。
なかなか愛嬌のある顔立ちをしているじゃないか。
撫でると喜んでいる。
性格も大人しそうだ。
「よし、お前の名前はラダオだ」
相変わらずのネーミングセンスの無さ。
平常運転である。
アリアムもさっそく乗って遊んでいるが、2メートル位だろうか。
乗る場所が結構高いので、アリアムが落ちないか、おっさん内心はらはらである。
集落に連れていってもらうのでお土産も買った。
最初が肝心だからな。
お土産でハートを掴むぜ!
おっさんは意気込む。
私を砂漠に連れてって!
アリアスは頷く。
「姉も首を長くして待っているでしょうから、それでは行きましょう」
姉もいるのか。
アリアスもアリアムも美人だから姉もさぞかし……鬼人族はエルフと違って胸もあるし、グフフ……う、あぅっ!
ズザザザザッ…………
な、なんでこんなところに流砂が?
あれ? 土を固めれ……
あーーー!
おっさんはなんとか這い上がる。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った……」
「何してるんですか? 行きますよ〜!」
はい、すいません。
出発は日が沈む頃になった。
月が出てるので、夜でも比較的明るい。
角がセンサーの役割もしてるらしく、迷うことはあまりないそうだ。
魔物も出るが、おっさんが手早く処理する。
素材も手に入り、アリアスも嬉しそうだ。
「修平さんはお強いですね!」
もっと褒めてくれてもいいんだよ!
おっさんは誉められてのびる子なんです。
「姉といい勝負ができそうですね」
え、お姉さん……まさかのナタリー体質なんじゃ……
ガクガクガク………
ま、まさかね! そんなことないよね! 顔は美人なんだよね!
一瞬、昔に野営地で見たナタリーのアップ顔を思い出す。
さらに仮眠中に、夢にでてきた。
「勘弁して〜」
ナタリーが悪いわけではないが、おっさんは疲労困憊である。
そんなこんながありながら、時は経ち、集落はもう目の前だ。
「そういえば、水魔法はともかく土魔法の力が弱い気がする。なんでかわかる?」
「実は鬼人族以外この砂漠では土魔法の力が弱くなるんです」
話を聞くと、遥か昔、鬼人族が人に追われ砂漠に行かなければならなかったとき。
これ以上、部族が迫害されないように、始まりの鬼人が自分の死骸を砂に変えて砂漠に散っていったそうだ。
それ故、土魔法に関してのみ、ほかの種族は弱くなる。
エルフまでとはいかないが、鬼人族もそれなりに長生きする種族みたいだ。
その恩恵は、彼等を長きに渡り、この砂漠で生きる為の優位性を与えている。
それでも抜け道はあるのだが。
アリアスにこっそり教えてもらった。
「始まりの鬼人か……」
「私の姉も先祖帰りで始まりの紋様があります」
「え、直系ってこと?」
「いえ、元をたどればみな直系ですから。先祖帰りとは始祖の力が色濃く与えられた者ということですね」
へぇ〜、そうなんだ。
先祖帰りの者は、体の何処かに、必ず始まりの紋様があるらしい。
あのライオンは毛むくじゃらすぎて、どこにあるのか全然気がつかなかったが。
アメリアにもあるのかな?
今度会ったら見せてもらおう。
「アリアス、並びにアリアム。只今戻りました!」
どうも、おっさんも失礼します。
と、礼をして抜けようとしたのだが、警備の者に止められた。
「この方は危ない所を助けて頂いて……」
慌ててアリアスが説明してくれている。
まぁ、いきなり人間のおっさんが来たらね、そりゃ怪しいわ。
「もう大丈夫です、すいません修平さん」
いえ、お気になさらずに。
どうやらこのまま家に案内してくれるみたいだ。
家は姉妹三人暮らし。
アリアスはスキルに錬金術があるため、薬を作り、売って生計を建てており、姉は戦士として集落を守っているそうだ。
良かった、お父さんがいたとして。
「お前は娘のなんじゃい?」
とか言われたらどうしようかと思った。
「ただいま! 姉さん今帰ったわ!」
奥から女性が出てくる。
「あんたは妹のなに?」
姉パターンだった。
アリアスが説明してくれる。
修平が説明してもいいが、どうみても弁明する怪しいおっさんにしか見えないから……
「そうだったのか、ありがとう妹を助けてくれて!」
結果、お姉さんも美人だった。
良かった。本当に良かった。
名前はアリエル。
出るとこ出て、引っ込むとこは引っ込む。
いいじゃないですか〜〜〜〜
ぅ、アリアスの視線が痛い。
話が始まりの紋様の話題になると。
「これのことか?」
キュロットをまくりあげ、今にもお尻が見えそうに……暗い。
こ、こらアリアム。
目を隠すんじゃない!
「もう姉さん! 恥じらいを持ってって、いつも言ってるでしょ!」
「え〜、めんどくさいよ」
アリエルはがさつ系女子だった。
両親は何年か前に、集落を守るために魔物と戦って亡くなったそうだ。
北東の方から何十年に一度、ばかでかいサンドワームが来るらしい。
ある程度ダメージを与えて倒そうとしても砂の中に逃げられてしまう。
故に未だ討伐にいたっておらず、住民を悩ませ続けている。
「今度でてきたら、あたしが殺ってやるけどね!」
脳筋だな。
砂に潜られないようにさせないと。
少し考えておくか……
「まぁ何も無いところだけどな! 部屋は余ってるし、ゆっくりしてってくれよな!」
とりあえず、修平はアリアスの近所にお土産を配る。
最初は不審がられて門前払いもあったが。
アリアスから聞いた、鬼人族の好物でもある。"ヤミルの甘露"
オアシス近辺でできる果実を、サンドアントの蜜に漬け込んだ物だ。
1瓶、銀貨十枚、なかなかのお値段である。
こういう地道な作業が鬼人族の心を掴むのだ。
人間だって捨てたもんじゃないんだぞと。
噂も広がりつつあり、徐々に受け取ってもらえるようになってきた。
それは、十七件目を回った時だった。
「強襲! 強襲! サンドワームだ!」
声のする方角を見てみると、遠くからでもわかる巨大な物体。
太くて長い、男なら心地よい響きだが、今は意味が違う。
全長50メートルは在ろうか、地響きを立ながら此方へ向かってくる。
確かにあんなものに襲われ、凪ぎ払われたら何も残らないな。
修平は先程思いついた作戦の準備に、早速とりかかることにした。
その間も潜ったり、出てきたり。
威嚇か、品定めが目的か……この集落の周りををぐるぐる回っている。
「いた! アリアム、ちょっと手伝って!」
アリアスは水と風しか適正がない。
アリエルは細かい作業は向いてなさそうだ。
アリアスから聞いた抜け道とは、魔力を練るときに鬼人族の手助けがあると、魔法を普通に使う事ができるということであった。
初めての共同作業ですね。
ケーキ入刀か!
それはともかく、いくつかの強力磁石を作り出す。
アリアムは魔力が枯渇してしまったのか、ぐったりしているが。
アリアムのことはアリアスに任せた。
「よし、こっちの方を奴に飲ませる!」
片方の磁石を持ってサンドワームに近づこうとするが。
「お、重い! そうだラダオに!」
ラダオに積みこみ、一緒に向かう。
途中でアリエルに会う。
「あたしの邪魔するなよ!」
何か作戦はあるのか?
「がーって殴って、だーって倒すんだよ!」
イ◯ラちゃんか!
ちょっとダニエウを思い出したよ!
懐かしいな!
「俺の作戦は……………」
説明はしたが、いまいちわからないみたいだ。
「あんたは勝手にやんな! あたしはあたしで勝手にする!」
ダメだこりゃ!
古いな!
仕方ない、こっちはこっちでいくしかない。
何人かの戦士が攻撃を加えているが、弾力があるのか悉く弾かれる。
アリエルの武器は鬼だけに棍棒みたいだ。
だが土が固まり、牙をつくる。
見た目が某アクションゲームの大剣だ。
その牙は弾かれずに傷を作る。
しかし、あの大きさの体にしてみれば、所詮かすり傷のようなものだ。
敵の攻撃に対しては土壁を作り、まともには受けず、いなして威力を少なくしている。
訓練はしてきているのだろう。
慣れた動きが見てとれる。
だが、これでは……じり貧だ。
「あいつにこれを食わせないと……」
どうするかを考えていた時だった。
「あっ、ラダオーーー!」
パニックになってしまったラダオが、サンドワームから逃げようと駆け出してしまった。
「あーーー!」
いい餌が来たと思ったのか、サンドワームはラダオごと飲み込んでしまった。
血飛沫が舞い上がる。
な、なんということだ! 悲しい。
ラダオ、君の事は忘れない!
「ちくしょー! 軽自動車くらい買えるんだぞ!」
お金の問題か!
おっさんは涙を流しながら、磁石へと魔力を全開で通す。
あらかじめ蒔いておいた、もう一方の磁石と共鳴し、サンドワームの体が砂漠に固定される。
サンドワームも必死に逃げようとはするのだが、体の丈夫さが仇となっている。
磁石が体を突き破らずに、ピッタリとくっついて離れないのだ。
「ラダオの仇ーー!」
チェーンソーを剣に纏わせ、凄いスピードで切り刻む。
鬼人族達も各々の武器を使い、修平が作った傷ができた所から、刃を食い込ませ、肉を切り裂く。
生命力がかなり強く、なかなか倒れなかったのだが……
ドォドーンッ!
地響きを立てて横たわり、遂に動かなくなる。
「ラダオーーー! 仇はとったどーー!」
修平の勝鬨が響き渡る。
鬼人族達の雄叫びもこだました。
泣いている者もいる。
長きに渡る、因縁の相手を倒したのだ。
嬉しくないはずがない。
「父ちゃん、母ちゃん! 仇はとったよ……」
アリエルも泣いていた。
そうか、こいつがそうだったのか。
「うぉーーー! 恩人さんを胴上げじゃーー!」
おっさん、鬼人族達に胴上げされる。
うぉーー、うぉーー、うぉーー!
ちょ、高い、高いって!
「やべぇ、上げすぎた皆、はなれるべ!」
おいっ! 鉄板か!
ボスッ!
砂漠に逆さまで刺さりましたとさ。
犬神家か!
サンドワームを倒した吉報は、集落にあっという間に広がり……
おっさん、時の人である。
サンドワームは食べれて、なかなか美味しいらしいのだが。
おっさんは全力で遠慮したのだった。
キュロット(スカーチョの短いやつ)だそうです。
着衣のほうがそそるときもあると思います。