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プロローグ

 暑い…………


 歩き始めて、既に四日目。

ひとり魔方陣から飛ばされて、気がついたら砂漠にいた。

しかも、運の悪いことにマジックバックが肩から外れて、レオニアルが持っているはずだ。

いや、海の真ん中に飛ばされるという"オチ"がなかっただけ、それはラッキーだったのか……

もう、おっさんにはよくわからない。


 前勇者がいなくなり、新たに勇者になったときに、何故か覚えていた水魔法。

今はこの力でなけなしの水を生み出して命をつないでいる。

「しかし、なぜ水魔法なのか……」

もうひとりの勇者が使っていたのは火と光の魔法だった。

なのになぜか新しく覚えていたのは水魔法だった。


「システムがよくわからない……それにしても暑い……暑い」

 いくら魔法を行使しても、もともと水の精霊の恩恵の少ない土地では、できることが限られてくる。

コップ一杯分の水を作り出すだけで、かなりの魔力を持っていかれる。


 夜はまだいい、もともと冬が近かったせいで多少なりとも防寒の対策をしていたから。

しかし、逆に昼は……

火傷をしないために服は脱ぐこともできず。

土魔法で日陰を作り、休み休み進んでいる。


 スマホを変態侍女に取られたのも痛い。

コンパス機能が使えたかも知れなかったが、無い物ねだりは仕方がない。

太陽の位置を見て、おおよその方向に進んでいる。


 食べ物は最初は我慢した。

今はでかいサソリの魔物の肉を調理して、なんとか食いつないでいる。

鉄板は土魔法で作れる。

日光でジュージューと焼く。

食べたら味はまあまあなんだ。

ただ見た目が……ね。


 おっさんは虫食許容派ではなかった。

元の世界のタレントは凄いと思う。

仕事とはいえ、サソリよりもグロい物でも食べないといけないのだから。


 王宮で見せてもらった世界地図。

そこで見た、東大陸南西側一帯に広がるアルナー砂漠。

おそらくは、そこにいるであろうということは理解できる。

問題は砂漠の広さだ。

西の大陸くらいあるのだ、広さが。

適当に歩いただけでは、決して抜けることができないと思われる。

更に、この地獄のような環境で。


「人恋しい……誰かと会話したい」

 精神衛生上もよくない。

おっさんは基本、寂しがり屋なのだ。

見渡す限りの砂、砂、砂。

いつ終わるかわからないという恐怖。

しかもいきなり魔物に襲われるときもある。

おっさんの気配感知は研ぎ澄まされていった。



五日目の昼。


ピクンッ!


ガバッ!


 外套をはねのけ起き上がる。

「今、どこか遠くで人の声が聞こえた!」


 常人には風の音くらいにしか聞こえないだろうが、極度に過敏になっている気配感知に、今までとは違う音が引っかかる。

「人、人、ひとぉ〜〜〜!」

寂しがりメーターが振り切ったようだ。

音のした方がへと駆けていく、それはもう凄いスピードで。


 どうやらサンドリザードンの群れに追われているみたいだ。

フードを被った人が二人が、群れから必死に逃げている。

しかしあのままでは、(それ)ほどかからずに追い付かれるだろう。

サンドリザードン、ひょろ長い体に鋭い爪を備えたトカゲである。

ええ、食べましたとも。

サソリよりは見た目が精神衛生上いいと思いまして。

しかし、食べるところは少なく、さらに固かったのだ。

はっきり言うと不味い。


「お前の肉はお呼びじゃない! チェーンソー!」


 修平はいきなり魔物の群れに飛び込み、サンドリザードン達を切り刻んだ。

魔物もいきなり横から襲われたため、統率がとれていない。

今の今まで獲物を追っていたのに、いつのまにか自分たちが獲物になっているのだ。


「ひゃっは〜! 砂漠がお前らの血を欲しているぜ!」

 周りから見るとただの危ない人である。


 そして魔物達は数分とかからず肉塊と化した。

「今宵の我が剣も血に飢えておるわ…………」

もうなにがなんだかわからない。

フードの二人組もドン引きである。


「あの、助けて頂いて……」


 フードの人が言葉を掛けようとしたのだが、いきなり現れたおっさんが泣いていたのだ。

「会話……文明って素晴らしい! おっと貴重な水分が……」

……

……………


しばらく時が止まった。

うん、ザ・ワー◯ドでもいたに違いない。


本当に危ない人だと二人組も思ったのか、早々と逃げ出そうとするのだが。


 今まで泣いていたおっさんが、一瞬で二人組の前に立ち塞がる。

「逃がさないよ!」

発言が犯罪者のそれである。


二人組が大きな悲鳴をあげて、その場に立ち尽くす。

その顔には諦めが見えた。

それから……誤解を解くのに数十分の時間を要したのであった。


「迷子なんですか?」

 はい、この世界にきてからというもの迷子になってばかりです。

人生は迷路みたいですね。

なかなか出れません。

「私の名前はアリアス、もう1人は妹のアリアムです」

フードをはずす。

なかなかに綺麗な顔立ちだ。

だが額に……角がある。

ふむふむ、なるほど鬼人族というのですか。

この世界は色々な人種がいるのだなぁと感心する。


「私達はオアシスのある集落に戻る最中だったんです。気を付けてはいたのですが、リザードンの群れに見つかってしまって……」


 なんでも砂漠の夜に咲く"月花草"をとりに行っていたのだとか。

薬の材料になる草だそうで満月の日にしか咲かないそうだ。


「そういえば昨日は満月だったか、気持ちに余裕がなくてね。とても困っていて……できれば俺も集落に連れていってもらえると助かるのだが……」


 少し考えた後、アリアスは快く了解してくれた。

「なにもないところではありますが」

いいえ、人がいるだけで満足です。


 そうして三人は集落に向かうのであった。


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