閑話 (元、勇者)直文の話
本日2話目です。
俺は勇者、直文!
いや、元、勇者ってとこか。
今からちょっと前に俺に起きた話をしようと思う。
思い出すのも恥ずかしいが、言わなきゃいけない気がするんだ。
ある日の朝、頭が痛くて学校を休んでたんだ。
嘘じゃない! 朝になるといつも頭が痛くなるんだ。
いつもじゃないんだ。
たまたまなんだよ……
とりあえず、気がついたら森の中にいたんだ。
なんだろう、不安なんだが体が今までにないくらい力がみなぎってくる。
ガサッ!
な、なんだあれ? ま、魔物なのか!?
こっちに向かってくる!
「く、来るなって!」
近くにあった木の棒で振り払ったんだ。
ドガァーン!
へ?
その一撃は魔物ごと周辺の木々をぶっ飛ばした。
「なんだ、これは?今のは俺の力なのか?」
実感や手応えはいまいち無いのだが……
もしかしたら、俺TUEEEEなのか?
沸々と喜びが沸き上がる。
「マジか! マジか! 最高だ!」
これなら誰にも馬鹿にされない、無視もされない。
あぁ、生きているって素晴らしい!
「ハーレムとかもいいな! 勇者が童貞とかありえないしな!」
いろいろ試してみないと……
その時の俺は新しいオモチャを与えられた子供のようだった。
誰だってそうだろ?
俺TUEEEEからのハーレムだぜ。
男なら一度は夢見るんじゃないか?
ともかく調子に乗っちまったんだ。
力を震うのは楽しかった。
魔物が"ごみくず"のように吹っ飛ぶ。
使えば使うほど、桁違いな力だと身に染みる。
レベルはあるのか?
強くなっているような気はするんだが。
確認はできないしな、まぁいいか。
おっ、人間だ! 騎士みたいな格好をしている。
第一村人発見! なんつってな!
どうやら爆音を聞いて駆けつけたみたいだ。
街まで連れていってくれるってさ!
助かる、右も左もわからないからな。
街に行く途中、騎士達の話を聞いた。
なんでも海にドでかい魔物がでて困っているんだと。
おっ、強制イベント!
俺の時代きたー! って思ったね。
まさかあそこまで大きいとは思わなかったが。
街に着いたら鑑定してくれるって言うもんで、とある場所に連れていかれた。
凄くでかい屋敷だな。
中からある程度年のとったおっさんと……か、可愛いな!
1人は年は同じくらいかな? 女性が二人いる。
もろタイプだ。顔も似ているからもう1人は母親か?
手に汗が、落ち着け、俺……
「私の名はカレンといいます。森の魔物を倒してくださったと、領民に代わってお礼申し上げます」
声も可愛いな! いいね!
グッドボタンをいくらでも押したい気分だ。
「いや、大したことじゃないさ! なんでも海に魔物が出て困っていると騎士っぽい人に聞いたんだ。俺が倒してやるよ!」
アピールチャンスだ!
大丈夫、俺ならできるはず。
「ありがとうございます! 私共も、とても困っております。このまま海に出れずにいると、この街は廃れてしまいますから」
顔は赤くないだろうか?
俺の為、街の為にもやってやるさ!
鑑定もしてくれるって言うし、必要な物も用意してくれる。
可愛い子にも会えて最高だ。
あぁ、異世界に来て本当に良かった!
「では、こちらの用紙に血を一滴もらえますかな?」
しゃがれた老人が一枚の紙を持ってくる。
俺は言われた通りに紙に血を垂らしたんだ。
志賀 直文 17
力 430
精神 325
器用 360
体力 472
魔力 358
スキル 勇者の称号(未完)、火魔法、光魔法、投擲。
「ゆ、勇者ですと!?」
おぉ、俺、勇者!
どうも初めまして勇者直文です! なんちゃって。
しかし、勇者か最強で最高じゃないか!
魔法か、どう使うのだろう?
「魔法ですか? では見本をみせますかな」
老人はそう言うと、庭で簡単な魔法を使って見せた。
小さい火の玉を手のひらにうみだす。
「こうかな?」
「じ、呪文も唱えずに!? 流石ですな!」
じいさんが驚いているが、勇者なんだぜこれくらいできるって。
「凄いです! 直文様!」
へへっ、そうだろ!
俺は"すげー"んだよ!
魔物くらい俺に任せとけって!
この頃の俺はタイプである可愛い子に、いいところを見せようと必死だったのかもしれない。
本当に調子に乗りまくっていたから。
ある程度の訓練をこなした後、騎士達と共に海へと向かう。
訓練は他の者では相手にもならなかった。
魔法の使い方も一通り試した。
「楽勝だって、こんなにつえーんだから!」
騎士達も直文の無礼な言い方に腹もたったが、彼の強さは本物だ。
自分達ではどうしようもない、従うしかないのだ。
海に近づくにつれて、視界にイカの姿が見えてきた。
「あれなのか? ち、ちょっとでかすぎじゃね!」
「クラーケンですな、ここしばらく船が出れずに困っております」
今はまだ街自体には被害はないが、いつまでも無いとは限らない。
「槍を貸してくれ!」
衛兵の持っていた槍を借りると、クラーケンに向かっておもいっきり投げつける。
「おらぁっ!」
槍はクラーケンの胴体へと突き刺さる。
それなりにダメージがあったのか、少しふらつくと怒ってこっちに向かってくる。
「フレイムランス!」
空中に浮かんだ炎の槍、その数五本。
炎の槍はクラーケン目掛けて襲いかかる。
「おらっ、焼きイカになりやがれ!」
全て命中するとクラーケンは海に沈んでいった。
「やったのか?」
途端に激しい水しぶきが上がる。
「なんだ!? あれは……竜か?」
その竜の口には、焼けただれたクラーケンが挟まれている。
まだ死んでいないのかバタバタしてはいるが、竜は構わず振り回し咬み千切る。
衛兵は膝をつく。
「終わりだ、あんなのにかないっこない! みんな死ぬんだ!」
皆、絶望している。
そりゃそうだろう、俺だって一市民なら絶望してたさ。
だが、俺は勇者なんだぜ!
諦めたらそこで試合終了なんだよ!
「あんたらは住民の避難を、あれは俺に任せろ!」
俺は竜にむかってフレイムランスを唱えた。
竜のほうも直文を敵と認識したのか、こちらに一直線にむかってくる。
口を開けタメ動作にはいる。
「ブレスも吐くのか! シールド!」
光のシールドと水のブレスがぶつかり、激しい水しぶきがあがる。
「ヒートウエポン!」
フレイムランスでは表面で弾かれる。
槍に炎を纏わせて投げる。
「こっちにこい!」
槍は竜の胴体真ん中に当たると深い傷を作る。が、竜は長い尾を振り回し港の倉庫ごと凪ぎ払う。
「がはっ! 糞が! おとなしくくたばりやがれ!」
竜と直文は至近距離で打ち合う。
…………
…………………
そこから一時間ほど経ったか、闘いは終了した。
まさに死闘と謂われる戦いだった。
結果はギリギリだったが直文が勝利した。
満身創痍、右腕は変な方向に曲がり、左足は動かない。
身体中、痣だらけ、魔力枯渇で意識も落ちそうだ。
「あ〜〜もう一歩も動けね〜〜」
大の字で倒れている直文の元に、カレンが急いで駆けてくる。
「直文様、ご無事ですか? あぁ、こんな姿になって! 速く! ヒーラーを速くお願いします!」
そこで気を失った。
勝てて良かった、こんなに頑張ったのはいつ以来だろうか……
気がついたときには屋敷のベッドで寝てた。
今何時なんだ? 暗いようだが……
おっと、カレンがいる。
寝ているな、そっとしておこう。
体は……全部治ってるし、異世界半端ねぇな。
少し頭はクラクラするが、問題ないか……
「最初の強制イベントにしては難易度高すぎだろ」
「ううん……」
あっ、起こしちまったか。
「な、直文様、どうですか? 痛いところは御座いませんか?」
慌てるカレンも可愛いな。
あー、俺完全にこの子に惚れたかな。
ハーレムなんて俺には手に負えねぇわ。
それからカレンと恋仲になるまでにはそんなに時間はかからなかった。
指輪を送ったら凄く喜んでくれてさ、幸せってこうゆうものなんだなって思ったんだ。
でもそれも長く続かなかったんだ。
海が少し落ち着いたんで、違う大陸から来た船が港に停まってた。
なんかの宗教団体? 宗教国家? 難しいことはわかんねぇけど。
その一団が領主の屋敷に訪れた。
影から見てたんだが、一人だけ女性がいた。
綺麗系っていうのか、整った顔立ちで、回りを魅了するような怪しさももっている。
妖艶っていうか、まぁ、俺にはカレンがいるから関係ねぇけど。
どうやら暫くこの街に滞在するみたいだ。
すると女性のほうから俺に近づいてきた。
名前はサラっていうんだと。
どうでもいいとは思ったが無下にするのもな、一応美人だし。
多分、当たり障りのない会話をしたと思う。
あんまり覚えてないけど。
サラとは次第に会う時間が増えていった。
なんでだろうな、よくわかんないんだが。
なぜかカレンが泣くんだ。
「私のことはお嫌いになりましたか!」
そんなこと思ってない。
「俺はお前だけだって! 心配すんなよ!」
そう言葉をかけるんだが、どっか行っちまった。
女心はよくわからん。
そんな話をサラにすると。
「あなたは勇者なのです、たくさんの女性に寵愛を与えてもよろしいかと……」
いや、昔はそう思ったときもあったさ、今はカレンがいるからどうでもいいんだ。
何日か経ったか。
サラがこう言うんだ。
「王都に行き、勇者と名乗りをあげましょう」
なんだかな、もう勇者なんてどうでもいいんだが。
カレンと幸せなら俺はそれでいいんだ。
なのにカレンはというと。
「直文様には勇者の使命があります、私の事など、どうかお気になさらずに王都へと行ってください!」
そうは言ってもな〜
「カレンは俺と一緒に行ってくれないのか?」
そう言っても。
「私では役不足なんです……」
どうしてそんな事を言うんだ。
いったい俺にどうしろっていうんだよ!
その2日後だった。
カレンが死んだ。
海辺を散歩中に魔物に襲われたらしい。
サラが近くにいたが間に合わなかったと、なんでこんなことに……
カレンは手の中に指輪を握りしめていた。
俺は目の前が真っ暗になった。
もう、どうでもいい。
勇者とか異世界とか……もう俺には関係ないんだ。
領主が塞ぎ混んだ俺を気の毒に思ったのか娼婦を何人かあてがってくれた。
ヤってる間は哀しみを忘れられる。
俺は猿みたいに腰を振った。
サラも献身的に支えてくれた。
おかげで少し気持ちが楽になってきたんだ。
ガキみたいに当たり散らしても優しく包んでくれる。
サラの言うことを聞いて王都に行くのもありかもな。
それをサラに伝えると、喜んで。
「英断です。勇者なのですからそれなりの地位も貰えましょう」
さらに、男心をくすぐる言葉を言う。
「王都には亜人の奴隷もいるみたいですよ、楽しみですね」
そうだな、最近ここの女共にも飽きてきた。
新しい女を求めて王都で"はめ"を外すのもアリだな。
今の俺を見たらあいつはなんと言うだろうか?
草葉の陰で泣いているかもな。
もうどうでもいいけど……
王都に着いたら最初こそ疑われたが、土産に持ってきた竜やクラーケンの魔石を見て王様も考えを改めたみたいだ。
しっかし、最近、まわりに豚みたいな顔したおっさんが集まってくる。
すげぇブヒブヒと、ほんとうるせぇ。
新しい奴隷が欲しいだの、戦争しようだの。
サラがいなかったらぶちギレて殺してたかもな。
ほんとサラ様々だ。
あいつはいい女だ。
のらりくらりかわされてヤらしてくれないのは玉に傷だが、魔法も格闘もそれなりにこなす。
まぁ、それでも俺にはかなわないんだが。
そんなサラが、
「直文様、亜人どもに勇者の力を見せつけてやりまょう」
なんて言うもんだから、亜人の村を一つ滅ぼしてやった。
たくさんの亜人の女も手に入った。
女共が泣いている姿をみると楽しくなる。
なんでだろうな、あいつが泣いていた時は、あんなにも苦しかったのに……
最近、考えるのが億劫になってきた。
そういえば、あいつって誰だったか。
あー、全く思いだせん!
まぁ、それくらいのことだ。
たいした事でははないんだろう。
パレードか、めんどくせぇがサラが勇者の威光とかなんとか? 言うからな。仕方ねぇ。
そしたら急に襲われやがった、こっちは勇者だぞ。
こいつら馬鹿じゃねえのか!
なんだこいつ?
つえーな、竜以来か、こんなに強いやつは。
はっはっは、どうせ俺には叶わねぇ!
全て吹き飛ばしてやる!
あとはサラがなんとか上手くしてくれるだろ。
なんだこの壁?
マトリョーシカ? わけわかんねぇ。
かまわねぇ、おら! 吹っ飛べ!
あー、終わったか……久々に疲れたな。
なに? なんで死んでねぇ!
くるな、ライオン! がぁっ!
熱い、血がとまらん、これが死ってやつか……
まぁ、仕方ないわな、好き勝手やったんだ。
うん、なんだ? ポケットに何か入ってるな。
これ、は? 思考も、おぼつか、ないな……
なんだ、これ、ゆ、び、わか。
あぁ、思い、だし、た。
なん、で忘れてた、んだろう。
ごめん、なカレン、今、俺もそ、っちに行、くから。
体が光に包まれた。
次に気がついたら病院のベッドの上だった。
「あら? 目覚め、先生! 気がつきましたよ先生! 早くきてください!」
どこだここは?
「ここは***病院です。首に大ケガをして運ばれたんですよ! かなり傷が深くて、多分助からないって言われてたんですよ!」
興奮冷めやらぬといった感じだな。
先生も駆けつけ、様子をみる。
「うん、脈も安定してるし問題ないかな」
しばらくして女性が一人、入ってくる。
よく見たら母親か。
「良かった、良かった!」
泣くなよ、恥ずかしいだろ。
それにしても長くて、なかなかに恥ずかしい内容の夢だったな。
あれ? なんか持ってる、指輪?
あぁ、あれは夢じゃなかったのか。
ちくしょう、俺はなんで……
「なに? どこか痛いの? 先生呼んでこようか?」
なんだ、あ、俺、泣いているのか……
ああああああぁ!!
1ヶ月くらい治るのに掛かった。
ようやく家に帰って来れた。
母親はまた引きこもるんじゃないかと、内心ハラハラしてるみたいだが。
もうそんなことはしないさ、カレンに笑われてしまうから。
俺はこの世界で強く生きていく。
その時までカレン、待っててくれよな!
昼だというのに空に星が輝いた。
まるでその決意を祝福するかのように……
神様「こっちの手違いで迷惑かけたからね、彼女とはまた会えるよう、魂をここに。こちらの神にお願いしないとね」
従神「あなたも、いつもそのくらい真面目に世界を管理して下さい」
彼のことは本編ではあまり語られなかったので少し長くなってしまいました。
根っからの悪人ではなかったと思っていただければ幸いです。