エピローグ
翌朝、好天。
今日はいよいよ、違う大陸へと旅立つ。
元の世界でも、海外なんて新婚旅行でしか行ったことがない。
不謹慎だが、ちょっとワクワクする。
転移陣は異空間を魔方陣に乗って移動するそうだ。
ド◯えもんのタイムマシンみたいだな。
まさかのお約束で途中で落ちたりしないよね。
あっ、ヤバい! 自分でフラグを立ててしまった。
「今までそういった事故は確認されておりませんよ」
最初に案内してくれたエルフだ。
名前がないと可哀想だな、よし、君の名は案内エルフと命名しよう。
どうやら、彼も旅に同行してくれるらしい。
後ろには他にも3人のエルフが待機している。
後日にはなるが、他の里にも要請し、各地を回ってもらうそうだ。
現在、レインツリーのまわりは十人のエルフが呪文を唱えており、木に埋め込まれている魔石に魔力を送り込んでいる。
花梨ちゃんも見送りにきてくれた。
「おじさん、体に気をつけてね!」
「花梨ちゃんも元気でね」
癒される〜。
最近、近くでバトル馬鹿がいるから余計にそう思える。
「今度会うときはイグアナマスターになっているから!」
ポケモ◯マスターみたいだな。
「頑張ってね、俺も頑張るから」
そう答え、花梨の頭を撫でる。
流石に長老は見送りにはこれないが、アメリアのお母さんは来てくれた。
「しっかりね! 上手くいったら里のエルフパブに連れていってあげるから、ふふっ」
エ、エルフパブだと!
何故に昨日、連れて行ってくれなかったのだ!
口惜しや〜!
じーーー!
まぁ、パフパフはできないかもしれないが。
ドゴフゥ!
本気で叩かれた。
旅立つ前に死にそうだ……
ちょっとだけ、アメリア母も呆れている。
「馬鹿なこと言ってないで、ほら、準備できたみたいよ」
見るとレインツリーが淡く光だしている。
「わぁ〜、綺麗だねー!」
なんと幻想的なことか、花梨ちゃんも口を開けて驚いている。
こんな平和で普通な日常を守らないとな。
おっさんは心にその思いをしまい、魔方陣へと乗る。
「では、行ってきます!」
「また、やろうぞ!」
二人のおっさんと四人のエルフを乗せて、魔方陣は消えた。
木の光も徐々に薄くなっていく。
「いっちゃった……」
花梨は少し寂しそうだ。
「大丈夫、またすぐに会えるわよ……」
そう言い、アメリア母は少女の頭を優しく撫でるのであった。
同時刻、王都、王宮内。
「ん、そろそろ出発みたい」
アメリアが呟く。
「わかるのか?」
「魔力の流れがね、こう、ビューって感じるというか、でもなんだかいつもと違う感じがする〜」
アメリアは紋様持ちだからか、遠くからでも感じることができるそうだ。
その"なにか"が何かは、よくわからない。
今までにはない、とても不思議な感覚だという。
「勇者様だからではないのですか?」
アンジェリカとカイは書類の山と格闘している。
戦後の事後処理で大忙しだ。
その後ろで、アンナはというと。
パシャ、パシャ!
「はぁはぁ、書類と闘っている姫様も素敵です!」
侍女のアンナは土下座して、修平からスマホとモバイルバッテリーをもらっていた。
おっさん曰く、目から血の涙を流し迫ってくる姿は、夢に出るほど鬼気迫るものがあると……
「くぅ、バッテリーには限界がある! この姿を写しださねば、プリンターを今度はプリンターを下さい、お願いします! 神様どうか!」
アンナはいつもの平常運転であった。
そのアンナを見てアンジェリカはため息をつく。
「前からこんなだったかしら……」
不安げな顔でカイを見る。
「しかし、気にはなりますね、何事もなければいいのですが……」
「獣王もついていることだ、大丈夫だろうよ」
そして会話が終わると、二人はまた書類の山へと作業にかかる。
気にはなるが、こちらもやることは山積みなのだ。
同時刻……とある場所。
その場所は、まだ朝だというのに暗闇に包まれている。
「転移魔力を感知しました。命令により作戦をプランBに移行します」
「了解した。ディノ、そちらはお前に任せる。殲滅せよ、私はこれを壊す」
統率された動き、ディノと呼ばれたものはゆっくりと動き出す。
「リンネ様の名において失敗は許されない。各隊速やかに行動せよ!」
すると、そこは瞬く間に炎に包まれた。
炎は揺らぐ、まるで泣いているかのように。
「人でなければ人にあらず、帝国に逆らう者には死の鉄槌を!」
轟音と血の匂いが辺りに充満する。
どのくらい経っただろう。
暗闇が晴れ、光が差し込む。
するとそこには大きな結晶体を残し、他は跡形もない。
全てが無くなっていた。
そして場面はおっさん達に戻る。
最初はスムーズだったのだが、しばらくした時、急に辺りが明滅する。
「ちょ、これもいつも通りなんですか?」
エルフ達も狼狽している。
「いえ、私達も何度も利用していますが、こんな経験は……」
ピシッ!
足元の魔方陣にヒビがはいる。
「なにやらきな臭いかんじがするのぉ」
そんな呑気なこと言ってる場合か!
「これ、落ちたらどうなるんです?」
案内エルフは言う。
「人が落ちた経験はないのですが……」
物が落ちたことはあるらしく、遠く離れた土地で見つかったそうだ。
「まさか、どこに落ちるか分からないのか? 地中とか、海のど真ん中とかだったらアウトじゃないか!」
そうこう言っている内にヒビが大きくなる。
あまり時間も無さそうだ。
「どうすればいいんだ……」
エルフ達も少し落ち着いてきたのか、各々の考えを述べる。
「そうですね。とりあえず固まりましょう。ひとりよりも生存確率が上がると思いますから」
希望的観測ではあるが……
畜生、フラグは立ててしまった自分が憎い。
まさかこんなことになるなんて……
その時、異空間内が大きく揺れる。
そして足元の魔方陣か一部、砕け散った。
揺れた衝撃でモブエルフがぶつかり、修平が1人だけ吹っ飛ばされる。
レオニアルが咄嗟に、修平の持っていたマジックバックを掴む、だが。
「くっ、駄目か!」
しかし、バックは無情にも修平の肩からすり抜ける。
「押すなよ、絶対押すなよ! とか言ってないからね〜〜〜〜!」
叫びを響かせて、一人のおっさんの姿が一瞬で何処かに消える。
この世界の何処かに飛ばされたのだろう。
「あーー! 勇者さまーーー!」
いきなりの出来事に、他は誰も動けなかった。
レオニアルは自身を落ち着けるように、鬣を撫でる。
「な〜に、あやつなら多分大丈夫だろう。一応、勇者じゃからな、多分? 大丈夫……のはずじゃ……」
ちょっと考え込む。
いつもの修平を思いだした為か、顔は冷や汗ダラダラになってはいるが。
「そうですね。まずは自分達の事をなんとかしましょう!」
気を取り直し、互いに手を繋ぎ離れないようにする。
そして、魔方陣は完全に砕け散り、全員の姿がその場からかき消えた。
まるでそこには何もなかったように……
……そして時は経ち……
「な、なんじゃこりゃ〜! どこだよ、ここは!」
おっさんは砂漠にただ1人で立っていたのだった。
これにて2章は終わります。
挿し絵とか入れようかとペンタブで頑張ってるのですが…………才能が無さすぎて怖い。
評価も少し増えてました。
紙メンタルなんでゆるやかな気持ちで読んで頂けると幸いです。
ありがとうございました。