25話 おっさん二人旅
魔王、ある時は体の大きな魔物。
ある時は形の無い悪霊らしきもの。
ある時は人の形をした何か、など時代により様々な姿で現れる。
共通しているのは世界に厄災をもたらすということだけ。
今代はまだ魔王がでたという、そういう話は出回ってない。
しかし、魔王は元の世界にいるのかもしれない。
返済額が何故か一千万増えていた。
おかしい、頑張って生きているはずなのに!
神様! せめて増えた理由を教えてほしい!
返事はしてくれないのだが……
王都で3日間の休息期間を設け、体を休めてから出発する。
まぁ、その間も色々あった為、あまり休めてはないが。
現在、レオニアルと共に西のエルフの里に向かっている最中だ。
それにしても、ついていくので精一杯だ。
しなやかな無駄のない動き、流石は獣の王といったところか。
「そういえば、獣人の王様でもある、レオニアル様がこっちについてきてしまって、国の方は大丈夫なんですか?」
戦力としては申し分ない。
むさいおっさんが二人になってしまったが。
「呼び捨てでよい。なぁに、ワシは代表ってだけさ。国は元々賢いやつが政治とかはやってくれていた。それに後釜も最近できたのでな」
レオニアルは脳筋だった。
ちょっと前に、王宮で世界地図を見せてもらった。
西の大陸の他に、東に位置する場所に更に大きな大陸がある。
今はその大陸を目指し、進んでいる最中だ。
エルフは各地の里に転移魔法陣で繋がっているらしく、今回はアメリアの紹介で、特例ではあるが転移陣を使用させてもらえることになった。
西の大陸は断崖絶壁の崖に囲まれており、船で上陸するにはヘレナから入るしかない。
ヘレナは港としても運用はされてはいるが、海にも魔物は出る為、大陸間を頻繁に往き来することはあまりない。
この世界では、リスクを取ってまで海にでる必要性はそこまでないのだろう。
今回はそれ故、安全策をとってエルフの里の転移陣を使う案になったというわけだ。
なにより、おっさんは船酔いが酷い。
できることなら船には乗りたくないのだ。
「後釜ですか?」
彼にそう言わしめるのだ。
余程の人物なのだろう。
「彼の名は山本さんだ」
へ?
「獣人じゃなくて人間なんですか?」
レオニアルは首を振る。
「ワシも始まりの獣人の血を濃く受け継ぐ、などといわれておるが、その言葉は彼のほうがふさわしいわ! ガッハッハ!」
どうやらネコの獣人(?)らしい。
名前が山本さん。
お付きが一人いるらしいのだが、その人は人間だそうだ。
それってまさか………
「異世界がどうとか言ってませんでした?」
名前からして、恐らく転移者(?)だろう。
イグアナのいぐりんは巨大化した。
ならネコは人化したとしてもおかしくない。
おかしくない? のか……
「なぁに、些細なことよ。獣人は力なくして支持は得られん。彼なら上手くやれるだろうさ」
しかも、かなり強いらしい。
変わったことがありすぎて、物事をあまり不思議に思わなくなりつつある。慣れって怖い。
梨華は王宮の書物を調べると言って残り、ドランの街の人達は準備が終わり次第街に戻るそうだ。
それ故におっさんぶらり二人旅……誰得だよ!
旅足は速い。
二人とも身体強化を使い移動しているのもあるが、なんと! 王宮の宝物庫にあったマジックバックを頂けた。
異世界物では定番のマジックバックがまさかの国宝指定とか、なかなかお目にかかれないわけだ。
おかげで荷物の心配はあまりしなくても良くなった。
ふぅ、今までの荷物の重かったこと。
リュックも限界が近かったので助かります。
ありがとうございます、姫様。
足取りが軽い為、一気にラトゥールを抜け湿地帯の手前の野営地まで来ることができた。
「ふむ、なかなかに速いな」
「そうですね、早速、テント張りますね」
流石はマジックバックだ。
大型の荷物も軽々と出すことができる。
今日はここで一泊し、明日には湿地帯を抜ける予定だ。
前回はもう少しで死にかけたが、今回は"やつ"に出会っても逃げれそうだ。
「ここの湿地には奇妙なヒュドラがでるそうだな」
なんで笑ってるのかな?
「ふっはっ、血が騒ぐのぉ」
の、脳筋な上にバトルジャンキーだった。
リリアたん、君の普通が、懐かしい。
修平、心の俳句である。
そして夜はふけてゆく。
次の日、湿地を抜けるために進むのだが……
ほら、ライオンがフラグたてるから……
おっさんたちの前にフロッグヒュドラがいる。
前よりはサイズは小さいが、それでも五メートルはある。
「あの魔物は再生します。本体の真ん中にコアがあるそうです」
レオニアルは片方の手を横にひろげ、修平を制する。
どうやら、レオニアルが一人で殺るつもりだ。
「ふんっ!」
はやいっ! 三本、首が落ちたと思ったら本体に攻撃を……
あ、倒した。
え〜〜獣王、半端ないって!
「ふんっ! 再生だけではものたりんな。もっとブレスとか気合いで出してこんかい!」
更に、ダメ出しをしていた。
いくら前よりは弱かったとしても、獣王強すぎない!
勇者なんかいなくても、あなたがいればなんとかなるんじゃないの。
「今のお主なら儂と同じくらいはできるのではないか?」
おっさんは首をブンブン激しく振る。
いや無理無理。
「できると思うのだがな〜」
うん、獣王の基準がおかしい。
とりあえず魔石を取り出して、使える部位を切り出し、バックに詰める。
ふぅ、前回見ていたからか、作業はスムーズに終わったな。
少しでも返済に充てないと。
こまめにボードを見るクセをつけてチェックする。
まぁ、仮に増えていても絶望しかないのだが……
夕方、ドランの街に到着した。
道中、かなりの数の魔物にも遭遇したのだが、レオニアルの頭の中は"ガンガンいこうぜ"らしい。
現れる魔物を次々と屠っていた。
それのおかげか、少し体が強くなった気がする。
これがパワーレベリングか。
ライオンが勝手に倒しまくる為、おっさんの出番がないだけなのだが。
「十五日くらい経つか、よつやくの帰還だな」
ようやく、ドランの街に着くことができた。
この街では冒険者ギルドに挨拶をして、いつもの宿で一泊するつもりだ。
「あっ、ナタリー!」
「修平、おかえり! 早かったね。話はギルドから聞いたよ、まさかあんたが勇者なんてね」
まさか、だよな。
ギルド上層部と一部の人以外には、修平が勇者だということは伏せてある。
前の勇者がちょっと"あれ"だったためだ。
おそらく、この大陸の民衆は勇者というものに対して、あまりいい感情をもっていないだろう。
それに、いきなり新しい勇者が誕生しました。と言われても混乱するだろうから。
勇者のバーゲンセールか。
「横にいる、それがアレかい?」
獣王をアレ呼ばわりですか……
確かに、こんなとこにいるのもおかしいのだが。
一応、レオニアルはフードを深くかぶり、顔を隠している。
いきなり歩くライオンがいたら、みんなビックリするからね!
「一度戦ってみたかったのさ、なぁにすぐ済むよ。ちょっと裏まで面かしな!」
どこのヤンキーですか?
おい、そこの獣、嬉しそうな顔しない。
うーん、展開が早い。
明日にはエルフの里か。
花梨ちゃんは元気かな〜
たくさんのエルフか、みんなペッタンコなむ……
ゴフッ!
いきなり植木鉢が落ちてきて頭に当たったよ!
普通、リアルに死ぬから!
防具を変えといて良かったよ(汗)。
翌朝、森の中。
ドカッ! バキッ!
「はっはっはっ、なかなかやるな!」
エルフの里に向かう途中、いぐりんに乗った花梨ちゃんに遭遇した。
何故かバトルに発展してるのだが……
リアルポケ◯ンみたいだな。
「いけ、レオニアル! 鋭い爪で攻撃だ!」
「いぐりん! 冷たい吐息!」
どこからか怒られそうなので、冗談はここら辺で終わりにしておこう。
いぐりんは更に成長しており、水のブレスまで吐いていた。
もうイグアナは関係ない気がする。
しかし、この獣は闘ってばかりだな。
「おいっ! レオニアル、そろそろ行かないといけないぞ!」
獣王は頷くと、大人しくなる。
「楽しくなってきたのだが仕方あるまい、ではな!」
うむ、なんと癒しがないことか。
女性フェロモン(花梨ちゃんでは幼すぎる)もたりない。
誰か助けて!
花梨ちゃんと別れ、アメリアに聞いていたエルフの里の入り口へ着いた。
どうやらアメリアから貰った、このアクセサリーが入るためには必要らしい。
入口の見た目は、普通に木が生い茂る風景にしか見えないのだが。
クンクン……
レオニアルは周りを嗅いでいる。
「匂いもせんな、幻術か、うまく隠しよるわ」
アクセサリーが光ると道ができた。
おぉ、ファンタジー!
しばらくすると数人のエルフが道案内に来てくれた。
「アメリアから聞いております、どうぞこちらへ」
ふぅ、この大陸での旅もそろそろ終わり、次のステージに進もうとしている。
それなりに頑張っていると思う。
ちょっと感慨深い。
始めの頃よりは、逞しくなったおっさんなのであった。
おもしろ枠がいないと書いててつらい。
ダニエウ君帰って来て!
もう少しで2章もおわります。
実は化け文字は勇者の残りカスでした(笑)