閑話 月形 美鈴(修平の妻)の話
私の名前は月形 美鈴。専業主婦、38歳です。
子供は長男と長女の二人。名前は修都、17歳。美緒、15歳。
そして愛犬の柴犬が一匹います。名前はタロウ。
私の夫は現在、建築会社に勤務しております。
ここからの話は最近私に起きている、"世にも奇妙な物語"です。
それはある朝のこと……
いつものように夫にゴミだしをお願いし、夫はそのまま出勤しました。
私は家事をこなし、いつものようにお昼ご飯を1人でたべてました。
リビングの電話が鳴ります。
私は何の電話だろうと思いました。
「##会社の***です。月形 修平さんの奥さんでしょうか?」
あら、どうやら夫の会社からのようです。
「いつも主人がお世話になっております」
私は定番とも言える挨拶を返しました。
すると、相手方から驚きの発言が出たのです。
「修平さんですが、会社の案件で急に海外出張が決まりまして、すでに現地に向けて日本を発っているんです」
私はびっくりしました!
寝耳に水とはこの事ですね。
なんとか倶楽部でいうと、きいてないよ〜ってとこでしょうか。
私は慌てました。
「すいません、事が事だけに理解が追い付かないのですが……夫はいつ戻ってこれるのでしょうか?」
車の車検も近々控えています。
家事以外は、すべて夫に任せてばかりなのでとても困りました。
すると、会社の方はこう言いました。
「それがいつ戻ってこれるかわからないのです。
向こうの現場が落ち着けば大丈夫だと思われますが………」
なんということでしょう。
というか、なんの用意もしていませんが夫は大丈夫なのでしょうか、とても心配です。
行き先を聞くと南アフリカだそうです。
遠いですね、流石についていくのは無理そうです。
治安も日本に比べると良くはないのでしょう。
不安です。
会社の方は言いました。
「後日、家に届きましたカードをご自由にお使いください」
会社の経費で落としてくれるそうです。
何かあったら連絡してくれとも。
正直助かります。
長男の塾もそろそろ行かせようかと夫とも話し合っており、これならなんとかなりそうです。
家の方は蓄えもさほどありませんので。
何日か経ちました。
いきなり居なくなるのは寂しいものですね。
今生の別れではありませんが、いつ会えるかも解りませんし。
お正月は帰ってこれるのでしょうか?
夫の実家にも顔を出さないといけませんから。
また、お昼頃に電話が鳴ったのです。
まさか、夫の身になにか!?
「すいません、***銀行の担当の※※※※です。月形 修平さんはおられますでしょうか?」
あら、家のローンを組んだ銀行です。
「すいません。夫は今、海外に出張中でして……会社の話ですと、いつ戻ってこれるかわからないのです」
なにか問題でもあったのでしょうか?
「いえ、私共の銀行で家のローンを組んでいただいておりますが、急に三千五百万も返済されていたので……」
は?
きいてないよ〜〜パート2です。
三千五百万? 流石にありえません。
「なにかの間違いでは?」
「いえ、名前も月形 修平さんになっております。南アフリカからの送金ですね」
まさか会社のお金を横領でもしてしまったのかと、ちょっとでも疑ってすみませんでした。
しかし、南アフリカからですか……
金山やダイヤモンドの鉱脈でも見つけたのでしょうか?
銀行強盗なんて……まさか、ありえないですね。
見たまんま、あの人は小心者ですから。
いえいえ、これでも誉めてるんですよ。
慎重なのは良いことです。
あの人は本当はやればできる人なんです。
それにしても凄いですね。
これなら早目にローンを終わらせて、老後の蓄えが少しはできそうです。
それから、また何日か経ちました。
修都と美緒は夫がいなくてもあまり変わらないようです。
タロウは寂しそうですね、私もです。
昼頃、また電話が鳴りました。
もしかして、もう払い終わったのでしょうか!
あの人は思ったよりもできる男なのです。
私の胸は期待に高鳴ります。
しかし、電話の主は無情にもこう告げたのです。
「すいません奥さん。あなたの旦那が会社でミスをして、損失を出してしまったんです。補てんのためにどうしても五百万必要なんです。あなたの旦那が会社を首になってしまう。助ける為にこの口座に振り込んで下さい。時間がありません! 早目にお願いします!」
な、なんということでしょう!
やはり、あの三千五百万は真っ当なお金をではなかったのでしょうか?
私の頭はパニックです。
まさに、思考の洗濯機や〜です。
……どうやらパニックは継続しているようです。
急いで銀行に行きました。
会社から支給されたガードを使い、直ぐ様、五百万を指定の口座に振り込みます。
"これでなんとかなって下さい!"そう思いながら家に帰りました。
すると、娘が帰ってきていたので、今までの話を聞いてもらいました。
「それって詐欺じゃないの! 会社に連絡したの?」
はっ! まったく頭が回っていませんでした。
急いで最初に電話をくれた会社の方に連絡します。
「そのような事実はありませんね、どうかしましたか? あれっ? 奥さん? 奥さ〜ん!」
目の前が真っ暗になりました。
なるほど"膝から崩れ落ちる"とはこういう感じなのですね。
ごめんなさい、修平さん。
美鈴はやってしまいました。
あなたがこんなにも頑張っているというのに……
さらに数日が経ちました。
あなたに会いたい……
美鈴はもう限界です。
落ち込んで街を歩いていると、いきなり声をかけられました。
最初は不審に思いましたが、その方は親身に話を聞いてくださり、少しは私の心の重りも軽くなった様な気がします。
あぁ、宗教って素晴らしい!
この前、運気が上がるというツボを買わせて頂きました。
それからというもの、体の調子も良くなった気がします。
息子や娘からは、お母さん、正気に戻ってだの、目が怖いだの言われますが……
今度は特別に最高級のお札を持ってきてくれるそうです。
楽しみですね。
どうやら、悪霊を家に寄せ付けない効果があるとか。
少々お値段はお高いですが、家族の安全や心の安らぎをお金で買えると思えば安いものです。
あなた、大丈夫です。
美鈴は家を守ります。
お金なんて大した問題ではありません。
大事なのは、家族と、あなたがいつ帰ってきても変わらない家。
ドキドキ!
あ、愛してます、あなた……
キャッ! 言っちゃった!
なんだか恥ずかしいですね!
異世界
修平「なんだか、モーレツに嫌な予感がするんだけど……」
日本
修都、美緒「お父さん! 早く帰って来て〜!」
僕の嫁も詐欺に合いそうになったことがあります。ひとりで考えないで周りに相談することが大事だと思います。