24.5話 不思議なスーツケース?
ちょっと強引に割り込みました。
話は少し遡る。
王都クーデター後、迅速に獣人との和解が締結し、西大陸の東方にも互いに往き来出来るようになった。
すると様々な依頼が冒険者ギルドに舞い込んでくる。
戦争が終わった事で滞っていた依頼も多数ある。
その内の一つに、最近発生した地震により発見されたという、古代の地下遺跡への調査依頼がある。
未開の遺跡であり、一攫千金を求め、沢山の冒険者達がこぞってその場所に挑んだ。
結果、上層五階下までは難なく進むことができた。
しかし、その階にある門を誰も越えることができず、未だにそれより下の階は調査が進んでいない状態であった。
その遺跡は王都から向かったとしても、そこまで遠い距離ではない場所にあった。
おっさんはエルフの里に向かう前であり、ドランの街の冒険者達は街に返る前だった。
その少しの空いた時間に、一度挑んでみようということになったのだ。
五階より下には行けないとは聞いていたが、ダニエウがどうしても行きたいと言うので仕方なくだ。
地下五階までは物色され、ほぼ何も残っていないらしいのだが。
こいつらはお金が無いから、必死なだけなのだろう。
もっと堅実な依頼を、確実に達成した方が稼げると思うのだが。
「前の時みたいに、金貨の山がでるといいなぁ」
人間、一度でも楽を覚えると元には戻りにくいものである。
おっさんは大きくため息を吐く。
「お前ら、見た目は山賊みたいだが、遺跡探索なんてやったことあるのか?」
この世界にダンジョンは存在しない。
なので、遺跡の中は魔物がポップすることはないのだが、トラップ自体は存在する。
盗賊のスキルが必要なのが定番だろうが。
こいつらときたら……
「初めてだ、ワクワクするぜ!」
「旦那の魔法でちゃっちゃと進んじゃおう!」
丸投げかよ!
魔法でなんでもできると思うな!
他の者による探索で、道中は隅々まで調べられている為、既に目立ったトラップも解除されており、問題になっている扉までは難なく来ることができた。
やはり、金目の物も、何も、残ってはいなかったのだが。
だがこの扉。
「押しても駄目、引いても駄目、壊す事もできないか」
前の冒険者達も壊せないかを試したのだろう。
扉にはそれなりに傷ができている。
一応おっさんも試してみた。
かなりキツく土の柱をぶつけたのだが、やはり無理だった。
「でも時代に合ってないというか、元の世界でもこんなに頑丈な扉なんて無理じゃないか?」
木材でも鉄でもない、材質も不思議なのだが、この形も見たことか無い。
まるで、そう、近未来的な……
「旦那でも無理なことがあるんすね」
お前ら俺の事なんだと思っているんだ。
そんなご都合主義の主人公じゃないんだよ!
「でもなんだか"モヤ"が見えるんだよな〜」
今まで何度も経験した白いモヤ、微妙な隙間からかすかに見える。
そういえば強力な磁石って機械を壊したりできるのか?
変異、錬成、むうぅ!
はい、無理でした。
「静脈認証とか、網膜認証とかの読み取る機械もない。これ、どうやって開くんだろう?」
扉をまさぐりながら色々調べてみるが、やはり何もない。
おっさんは何も無さすぎて、ついつい油断していた。
「あだっ!」
錬成し、持っていたネオジウム磁石に指を挟んでしまった。
おっさんの指から血が流れる。
その血が扉に降りかかる。
すると、扉が音を立てて動き出す。
「ほぇ?」
ついつい、間抜けな声を出してしまう。
「旦那! 流石、旦那だぜ!」
ダニエウが喜んでいるが、なぜ開いた?
血がキーワードなのか?
血液型? 勇者の資格とか?
考えてもわからないな。
四人はおそるおそる、中へと入ってみる。
内部は三つの部屋で構成されているみたいだ。
右、左、まっすぐ、どうやら罠は無さそうだが。
まずは右の部屋へと入ってみる。
中はぼろぼろだった。
いったいどれだけの年月が経っているのか、紙らしき物があったのだが、手で掴んでみると粉々に崩れ落ちる。
ダニエウ達も部屋をあさり物色しているが、めぼしいものは無いようだ。
皆、がっくりと肩を落としている。
気を取り直し、次に左の部屋に入る。
部屋の真ん中にでかめのスーツケース?みたいな物が置いてある。
調べてみるが、鍵穴は、ない。
どこも開かない。
持つとかなり軽い。
振ってみるが、中から音はまったくしない。
中は何も入っていないのだろうか?
あっ、スーツケース?に血がついてしまった。
それにしても、これはなんなのだろう。
とりあえずは持って行くことにする。
他には何もないようだ。
最後に真ん中の部屋に入る。
そこに遺体らしき残骸がある。
服を着た骨みたいなのだが、崩れており、ほぼ原型を留めていない。
だが"モヤ"はこれから出ていたようだ。
微かにまだ残っている。
持っていたスーツケース?にまとわりつくのだが、しばらくすると消えてしまった。
この部屋もやはり金になりそうな物は何も無い。
「なんだよ〜これじゃ借金が返せねぇ!」
どうやらダニエウ達はスーツケース?には興味がないようだ。
扉と同じ材質ならかなり硬いとはと思うのだが。
しかし、売るにしても価値が分からない物ではどうにもならない。
店で売ったとしても、結局のところ二束三文にしかならなそうだ。
他に下に行く階段もない。
扉は開いたままになっていた。
探索を終え、ギルドに報告を済ませる。
後日、探索者を送るそうだ。
おっさんは宿屋の部屋に戻る。
「あっ、そうだ! どうせなんだし返済に当ててみるか!」
スーツケース?を返済ボックスにいれてみ……
あれ? 入らない。
なんで?
この大きさだから持っていくには邪魔になる。
「じゃあ、マジックバックに」
何故かこちらも入らない。
なんだこの不思議なスーツケース?は。
意味がわからない。
これからエルフの里に行かなければならないのに、どうしようか。
しょうがないのでダニエウ達に預ける事にした。
なんだか捨てるのは絶対駄目な気がするのだ。
こうして不思議なスーツケース?はダニエウの元に置いていかれる事となった。
おっさんはレオニアルと共にエルフの里へと向かって行った。
そしてダニエウ達は相変わらず酒場で酒を呑んでいる。
もちろんツケなのだが。
代金はリリアが立て替えていた。
リリアも頭が痛い。
ダニエウ達は一応これでもドランの冒険者なのだ。
王都の酒場に迷惑をかけるわけにはいかない。
仕方がないと思いつつも、呆れ果てている。
一方その頃。
誰もいない部屋で無機質な音声が流れる。
『……勇者を感知しました、休眠モードを解除します』
『エラー、休眠状態が長かった為、エネルギーが不足しています』
『魔素の吸収を開始します。目覚めるまでの時間は……』
しかし、誰もその音声に気づいていないのであった……