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24話 おっさん勇者誕生

 見渡す限り真っ暗だ。


あれ? 俺はいったいどうしたのだったか……

勇者の魔法を防いでから、魔力の使いすぎで……


……


あぁ、そのまま気を失ったのか。

ここはどこだろう? 夢か?

なにも見えないが……


 暗闇の中から、頭に直接響く様な、誰かの声が聞こえてくる。


「やぁ、ようやく会えたね」


 修平は、声の聞こえた方向に、おぼつかない足取りで歩いていく。

徐々に暗闇にも目が慣れてきた。

かなり暗いが、見えなくもない。


『お前は誰なんだ? 俺の知っている人なのか?』


 修平は、声を出そうとしたが、出ない。

仕方がないので、頭に喋りたい事を思い浮かべると、返答が返ってきた。


「会うのは初めてだね」


『俺に何の用がある?』


「そうだね、まずはお礼とお詫びかな」


『初めて会う人に、お礼やお詫びをされる謂れはないと思うが……』


 ん、なんだろう? 何かあるぞ……


 修平は暗闇の中、目を凝らす。


 すると、そこには一本の大きな柱があり、人が埋まっている。

見た目は女性のような……いや、男性のようにも見える。

いうならば、中性的な人物が柱に埋まっていた。


「じゃあ順を追って話そうか、まずは勇者を倒してくれたことに感謝する」


『俺が倒した訳じゃない。倒したのはライオンだ。』


「謙遜するね。最後の魔法を防げなかったら、みんな全滅してたと思うよ」


『それはどうも』


 しかし、勇者は確かにヤバい奴だったが、それだけだ。

誰か知らないが、感謝される謂れはない気がする。

戦争を止めたからなのか?


『そもそも、いったいお前は誰なんだ?』


「僕は一応、この世界を任された神さ」


神だと……

普通は転移の時に会うもんじゃないの?

なんで今更……


「とにかく、彼、志賀直文を倒すということが重要だったのさ。これから君には、本来の勇者の力が戻る」


『なんですと?』


「本来なら、二十二年前に君はこの世界に来るはずだったのさ」


『梨華先生やカイって人と同じ時期に?』


「そう、この世界の魔素が関係するのだけれど、光が強くなると影も伸びるように、ある期間のサイクルで魔王が生まれてしまうんだ。これは世界創世から変わらないシステムでね」


 だが、なんで今更なのか?

こっちは既に、いい歳のおっさんなんだが……


「転移させるには君の世界のエネルギーが重要でね」


『ふむ』


「君の世界ってさ、バンバン資源やらエネルギーとか使っちゃうでしょ」


『ま、まぁ、そうだな』


「エネルギーが少し不足して、肝心の勇者である君が来れなかったんだ」


『な、なんてこった。まさかの、俺にもTUEEEEハーレムルートが存在していただと……』


 修平はその場に両膝をつき、項垂れる。


「落ち込むとこそこ? でね、世界の歪みを抑える為に、時間稼ぎで僕が支えているってわけ。じゃないと世界がもたないからね」


『で、俺にどうしろと?』


「そうだね。おそらく、そろそろ現れると思うのだけど……君には魔王を倒してほしい」


『えー、返済終わらせて帰れるんじゃないんですか? それに魔王を倒す仕事なら、ハーレム大好き勇者、直文君でもよかったんじゃない?』


「彼はね、もともと資質があってこの世界に来たわけじゃないんだ。例えば、大型車のボディに軽自動車のエンジンを積んだとする。見た目は大きくて性能も良さそうに見えるけど、エンジンが小さいから力を発揮することはできない。それと同じことなのさ」


 神様が困惑した顔をしている。

おそらく、今回の件はかなりイレギュラーなのだろう。


「それにボックスによる返済は、君の世界とこの世界を繋ぐパイプみたいな物でね、今回の転移に使ったエネルギーにも当てられているんだ」


『だから、増えたりしていたのか?』


「いや、それは予想外だったんだ。戻れるのは本当なんだけど、その時に何もないのでは悲しいでしょ! 頑張ったご褒美というか、こちらで上手く操作するつもりだったんだけど……」


貯蓄みたいなものだろうか、積み立て預金みたいな。

なんか、詐欺っぽいけど……


「でね、言い難いのだけどね、本当に増えているんだ」


『へ? な、なにが?』


「借金が」


『な、なんだって〜〜!』


「まさかの斜め上を行く、これは僕も本当に予想外だった」


『何があったんだ! 理由を俺に教えてくれ!』


「ごめん、教えるのはタブーなんだよね」


『もんげ〜〜!』


「ボックスに返す度に、僕にもエネルギーがくるからさ。これからも頑張って返済は続けてね。大丈夫、いつかきっといいことあるよ」


『いつかっていつなんだよ! ち、ちっくしょ〜!』


「そ、そろそろ時間かな。僕に力が戻れば、きっとまた会える時が来るからさ! が、頑張って!」


 パチン!


 神が指を鳴らす。

すると、修平の立っている、足下の地面がいきなり消えた。

そして、修平は暗い闇へと落ちていく。


『ちっくしょ〜、同情するなら金をくれ〜〜〜!』


くれ〜〜〜

   くれ〜〜〜〜〜

      くれ〜〜〜〜〜〜


 暗闇に修平の嘆きの叫びが木霊したのだった。


 修平の意識が戻ってくると、梨華の声が聴こえてくる。


「修平! 修平! あっ、目が覚めたわ!」


 おっさん、現実に帰還する。謎はすべて解けた(嘘)。


無茶苦茶気になる。

いったい向こうの世界で何があったんだ〜!


「大丈夫? 凄い汗、悪い夢でも見てた?」


ある意味、凄い悪夢だよ。

俺が勇者? 笑えないよ。

おっさんだよ、もうすぐ40でアラフォーだよ。


 レオニアルが修平に近づいてくる。


「ふむ、お主のおかげで助かった。あれから勇者の遺体もきえてしまったが」


どうやら直文は、光に包まれて消えてしまったらしい。

もしかしたら、元の世界に戻ったのかもしれない。


「今って、いったいどうなってるんだ?」


 どうにも展開が速すぎて、頭がついていっていない。

いきなり神様が出てくるとか、自分が勇者になるとか……

とりあえず、梨華に現況を聞くことにした。


「このクーデターは、前から計画されていたみたい。私は少し前に来たアメリアから聞いてね。さっきも言ったけど、ラトゥールから急いで来たのよ」


 レオニアルが城の方を眺める。


「カイが今頃、エルフ達と城を制圧しているはずじゃ」


 だから、城の方で爆発が起きてたのか。


「今回は同胞も無事に済んだ。お主のお陰だ、修平殿。感謝する」


はっ、そうだ! 忘れてた。

裸の獣人のお姉さん方の姿を、もっと目に焼き付けとかないと!


しかし……皆、既に服を着ていました。

ざ、残念と思ってないんだからね!


「おじさん、ありがとう」


「いいんだよ、ミーニャ。君の笑顔がすべてだ」


 修平は、優しくミーニャの頭を撫でる。


 悲しくはない、悲しくはないのだ。

皆が無事ならそれでいいのだ。


 梨華が呆れ顔で、修平を見ている。


「もぅ、とりあえず城に向かいましょ」


「そうですね、梨華先生」


 修平は相変わらずの、平常運転なのであった。




 王城の広間が血に染まっていく。


 宰相を始め、有力な貴族も次々と首をはねられた。

そして、王も例外ではない。


「何故このような事を! カイ様! お答え下さい!」


カイと呼ばれた男は、被っていたローブのフードを外す。


「アンジェ、気づいていたのか……」


「声でわかりますっ! どうして? どうしてなのです!」


「俺は国の、こいつらの為に生きているのではない。大事なのは守るべき国民であり、隣の隣人だ。こいつらは己の事しか考えていない」


 そしてまた、カイは違う男の首をはねる。


「こいつらは馬鹿だからな。俺が国を離れたら、何かしら動くことは分かっていた。水面下では着々と準備はしていたのさ。エルフにも協力をもとめ、レオニアルにも話を通してな。まさか戦争まで起こすとは思ってもみなかったが……」


 その場に残っているのは、アンジェリカとアンナだけになっていた。


「騎士団も宮廷魔導師団も大体こちらについたよ。こいつらの息のかかったやつらは無理だったがね」


 カイは積まれた死体を指差す。


「国の建て直しだ。アンジェ、お前にそれが出来るか?」


 カイは真顔でアンジェリカを見詰める。


「できます。いえ、やってみせます! カイ様、どうか私に力を貸してください!」


 カイは満足そうに頷く。


「蛆は粗方掃除したとはいえ、まだまだ問題は山積みだからな……」


「素敵、姫様! アンナは一生離れませんよ!」


 空気をまったく読んでいない……場違いな、アンナだった。

そして、鼻息が凄まじく荒い。


「やれやれ……」


 カイは長いため息をつくのだった。




 ミーニャ達は獣人の仲間が保護してくれた為、修平は梨華、レオニアルと共に城へとやって来た。


「お〜い! 梨華、こっちこっち!」


 アメリアが城の入り口で待っていた。


「あっ、アメリア! そっちはどうなったの?」


「こっちも粗方終わったよ〜、ちょっと散らかってるけど……」


 修平達は城に入る。

だが、散らかっているとは?


「う、グロい」


 まだ片付けが終わってないのだろう。

血の匂いが蒸せ返り、死体が所々に置いてある。


 よかった、ミーニャ達を置いてきて。

俺でもトラウマになりそうだよ。


「カイ〜〜〜、来たよ〜〜〜〜!」


 奥の広間には、壮年の男と可愛いらしい少女と……

"はぁはぁ"言ってる怪しい女がいた。


 お巡りさん、犯人はこいつです。


 冗談はさておき、ここもグロいな。

正直、吐きそうなんだけど……


「場所を変えよう」


 カイが先導し、違う部屋へと移動する。

途中、彼の部下らしき人物が何人か来ていたが、指示をだすと何処かへ駆けていった。

クーデターは成功したみたいだが、これからが大変だろう。


「さて、レオニアル、そっちはどうなった?」


 事後確認ってやつだな。


「勇者は、こちらの修平殿や梨華殿の力もあり、倒すことはできた。その後に消えてしまったので死亡の確認はできてないが」


「消えた? 大丈夫なのか?」


 確かに致命傷ではあっただろうが、死体を確認できなかったので、死んだかどうかはわからない。


「多分、元の世界に戻ったのかも?」


 全員の視線が修平に集まる。


 暫くして、最初にカイが口を開く。


「む、君は? アメリアの話に聞いていた人物だろうか?」


「はい、月形 修平といいます」


 そして闇の中で、自称神様から聞いた話を、ここにいる皆に聞いてもらう事にしたのだ。


「にわかには信じられないが……」


 まぁ、そうですね。

俺も他人からそう言われても、なかなか信じれないだろう。


「レオニアル、お前はこれからどうする?」


 黙って話を聞いていた獣王は、暫く考えていた後、ニヤリと笑みを浮かべる。


「魔王か、おもしろそうじゃな。ついていくのも一興か」


そんな"世直し旅"みたいに言われても、こっちは困るんですけど。


 カイはアンジェリカの方を一瞥し、言う。


「俺はアンジェを支え、この国を建て直さねばならん」


 な、なんだと、まさかの光源氏ルートだと!


 アンナが割り込んでくる。

しかも、まだ鼻息が荒い。


「姫様のいるところが私の居場所です!」


 いや、お前には何も聞いていない。


「あたしもカイと一緒かな、負けないよアンジェ!」


 どうやら、アメリアも残るらしい。

カイ、モテモテだな。

くっ、ホコリが舞ってるぜ!


 おっさんの目には、光るものがうっすらと浮かぶ。

梨華は、とりあえず王都に残るらしい。


「私は独自のルートで調べてみるわ。何か分かったら、ゴーレムを飛ばすから……まかせて!」


 獣のおっさんと、勇者のおっさんの二人旅……


「いったい誰得なんだよ、勘弁してよ〜〜〜〜!」


 相も変わらず、女運のないおっさんなのであった。


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