2話 ローン返済ボード
沢山の死体が横たわっている。
衛生上本来ならば、焼いたり、埋めたりをした方がいいのだろうが……
「スコップもないし、っていうか、ウプッ! はぁはぁ、また吐きそうなんだけど……」
修平はぶつぶつ呟くと、男達の鎧や武器などを外していく。
「南無阿弥陀仏。死人に口無し。俺が生きる為に、あなた達の道具は再利用させていただきます」
武器をまだ、ひのきの棒シリーズしか持っていない。
修平はそれらの装備を、順次自分へとはめていく。
体格が近いからか、それらは問題なく装備することができた。
「結局なにも解決してないし、ってなにこれ?」
男たちの死体からうっすら白いものが浮かび上がる。
それはゆらゆら揺らいだあと、ある方向へ向かって飛んでいった。
「気味は悪いが、今は手がかりがないのが現状だ。とりあえず付いていってみるか……」
それはそこまで速いスピードではなく、問題無くついていくことができた。
歩くこと10分くらいだろうか、途中に小川も流れていた。
これで、水の確保も目処がたった。
ようやく喉を潤せる。
「これは洞窟なのか?」
どうやらここは、先ほどの盗賊達の棲みかのようだ。
白いモヤは洞窟の入り口周辺で漂うと、霞みの様に消えてしまった。
おっさんアイ!
修平は何も起きないか、しばらくその場で観察する。
「中にお仲間がいたらヤバいな。俺が殺したわけじゃないのだが……うーん、でも、おもいっきり装備をパクってるしなぁ」
しかし、このまま見ているだけでは、らちが明かない。
修平は勇気を振り絞り、こっそりと進んでみる。
どうやら、入り口近くには誰もいないようだ。
おそるおそる中に向かって進んでみると、奥の方から、か細い鳴き声が聞こえてくる。
誰かいる。声をかけるべきなのか……
「誰も戻ってこない……このまま死んじゃうのかな、アーニャみたいに乱暴されてから殺されるのかな……誰か助けて……」
どうやら、捕らわれているらしき女の子が一人、歳は10代前半といったところだろうか。
そういえば、言葉はちゃんと通じるだろうか?
聞くことはできるが、話すことはできるのだろうか……
「敵ではなさそうだし、なんとかなるかな……」
未だに声をかけるだろうかことができない。
おっさん、ヘタレでビビり極まる。
勇気、今必要なのは勇気なのだ。
「あー、あー、大丈夫か君?」
修平は手をあげ、ジリジリと近づいてみる。
見た目は完全に不審者であり、現代なら通報ものである。
「俺は怪しい者じゃない」
普通に考えれば、自らを怪しい奴だとは、誰も言わないのであるのだが。
それはさておき……
「おじさんは誰? あなたもあいつらの仲間なの?」
確かに盗賊の装備をパクっている為、見た目は仲間に見えなくもない。
修平は慌てて弁解する。
「あいつらは死んだよ、なんか緑色の怪物と戦ってね。そこにたまたま居合わせたんだよ」
とりあえず、持っていたショートソードを使い、少女の手を縛っていたロープを切る。
「君は? 他に誰かいる?」
少女は下を向いて、大粒の涙を流す。
「みんな死んじゃった……」
「そうか」
すっごい重いやーつ。
こういう時は何ていったらいいのか、分からんな……
沈黙が続く、だが、いつまでもこうしてはいられない。
「君は街までの道を知っているか? おじさん実は迷子なんだ」
自分で言っいて情けない話だが、解決策がない以上、この少女に聞くしかないのだ。
「連れてこられた方角はなんとなくわかるから、街道まで出る事ができれば、なんとかなるかも……」
賢い、おっさんより頼りになりそうである。
周りを見渡す。
「なんか色々あるな。おっ、これはこの世界の貨幣かな?」
安堵し、心に余裕ができてくると、少し奥の方に乱雑に置かれた袋や道具が見えた。
袋の中身を出してみると、じゃらじゃらと細かい硬貨がそれなりの数入っていた。
「今さらだけど、これでローン返済できたらな〜」
借りたものはきっちり返したい、こんな状態なのに律儀な事だ。
「ローン返済オープン〜、なんちって!」
独り言をぶつぶつ呟くおっさん。中々に危ない。
ティロティロ〜ン!
軽快な音が鳴ったと思ったら、目の前に銀色のボードが浮かんでいる。
「なにこれ?」
そこには、金額四千五百六十三万という数字と、返済という文字が書いてある。
更に下の欄には、返済のススメという文字が。
「この金額はおそらく……住宅ローンの残高か。それにしてもこれは?」
わけがわからないので、返済のススメという文字に触れてみる。
すると、違う文字が浮かび上がる。
借りたお金はきっちり返しましょう。
返済をするには、出てきたボックスの中にお金や物を入れましょう。
すると、あら不思議。日本円になって、あなたの口座へと振り込まれます。
全額返済完了すると、あなたは元の世界に戻れます。
ぶっちゃけると、勇者を召喚したらさぁ、隙間から数人紛れてこっちに来ちゃったんだよね。
ごめんねテヘッ、ペロリン!
ps.簡単に死ぬと後味が悪いので、身体能力は少し上げ、ちょっとだけ特殊な力を与えておきました。
君が死んだら保険金でちゃんと返しておきますので、心おきなくこの世界を楽しんでね。
「……ふざっけんな! だったら、もっとチートな力をよこせコラ〜!」
おっさん、血管が切れそうである。
血圧が高血圧予備軍なので。
「はぁ、はぁ、はぁ、納得はできんが、これは納得するしかないのか……」
「おじさん大丈夫?」
いきなり切れるおっさんに、少女はドン引きである。
「ごめんね、情緒不安定で……」
少女は首を傾げている、おっさんは若年性更年期ではないのである、多分。
「とりあえず、手持ちの物で返済してみるか、通貨の基準がわからないし……」
おっさんは手に入った盗賊の持ち物を使い、返済してみることにしたのであった。