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23話 パレードとクーデター

 パレード当日、昼、晴天。


 天気にも恵まれ、街は人混みに溢れかえっている。

道ゆく道も、かなりの混雑気味だ。

一目、勇者の姿を見ようと、大勢の市民が集まって来ている様だ。


 現在、リリアの指示により、ドランの冒険者達は指定の場所で待機している。


 修平はミーニャと一緒にいる為、リリアに許可をとり、別行動をとっている。

現在の位置は、広場の端。


 修平は人ができるだけ少ない所を見つけ、場所を確保した。

ミーニャ、修平はフードを深めに被り、目立たない様、静かに佇む。


 パレードのルートは、城から街の中心にある大広場まで進み、式典を済ました後、城へと戻る。


 冒険者達はその後、ギルドの指示により、配属場所が示めされる予定だ。


 周囲から音楽が聞こえ始める。


 修平の手を、ミーニャがギュッと握ってくる。

彼女の緊張感が、こちらまで伝わってくる様だ。


 パレードが近づくにつれ、民衆のざわめきが大きくなる。


 もうそろそろだろうか……

勇者が乗っていると思われる、大きめの馬車が遠くに見える。


「なっ!」


 一言で言い表すと、悪趣味。


 四頭の馬に引かれた馬車は、遠くからでも見えやすい様、作りが大きく、三段仕立てになっている。


 その馬車の前列には、裸にされた若い獣人の女性が、鎖に繋がれているのだ。それも何人も。


 中には羞恥に耐えるように下を向いている者、涙を流し項垂(うなだ)れている者、様々いるが……


 修平は、咄嗟にミーニャの目を隠す。

流石にこんな光景は、ミーニャには見せられない。


 一番上にいるのが勇者だろうか?

若い男が一人、その横に、にこやかな笑顔をした女性が一人。


 しかし、横の女性もよく耐えれるものだ。

同性の者が、人とも思えない、こんな仕打ちを受けている。

普通に考えれば、正気の沙汰とは思えない。


 いったい、何を考えてるんだ?

公衆の面前で、他には小さい子供達も見ているのだ。

教育上よくないだろうに……


 その光景を唖然と見ている内に、馬車は広場の中央に着いた。


 暫くして、衛兵が勇者の口の近くへと、何かを持ってくる。

あれは、声を大きくする魔道具だろうか?



「あー、テステス。俺が勇者である直文だ!」


……やはり、あいつが勇者なのか。


「今、我が王国は獣の国と戦争をしている。だが、大丈夫だ! 俺がいる限り負けはしない! 獣の奴等など、俺が蹂躙してやる!」


 あの男の、その溢れんばかりの自信は、いったい何処から来るのだろうか……


「獣が人間に逆らうと、どうなるかを思い知らせてやろう! どうだ! 見ての通り、奴隷も望みのままだ!」


 直文は、女獣人の鎖を強く引っ張る。


「俺についてこい! お前らにも勝利の美酒を飲ませてやろう!」


 そして、その鎖を手繰り寄せ、一人の獣人の胸を鷲掴みにする。

かなりの力で掴まれたのか、女性は痛みにより、顔を歪ませる。


 しかし、我が王国とか……

いつからお前の物になったんだよ!


 ツッコミどころが満載なんだが、どこからどう見ても、悪役のそれだ。

今の発言も、頭が痛くなりそうなものばかり……

直文の発言に同意して、一緒に騒いでいるのも、荒くれ者や、馬鹿っぽい貴族の奴ばっかりだ。

周りの普通の住民はドン引きだよ。


 これが、勇者とは……

称号って何の意味があるのだろうか?

ダニエウ達の方がよっぽどマトモだろうに……


 修平は、直文のあまりの愚かさに油断していた。


 その隙に、ミーニャが修平の手を外し、目の前の光景を見てしまう。


「あっ、ダメ! 子供には見せられないよ!」


「お姉ちゃん!」


 なんですと!


「お姉ちゃんを離して!」


 どうやら、今、直文に胸を掴まれている女性が、ミーニャのお姉さんらしい。

だが、この状況は不味い。


「おいっ! そこのお前!」


 ビクッ!?


「ヤバい、見つかったか?」


 どうすればいい? 逃げるしかないのか?

今なら、まだ顔は見られていないだろうか?

しかし、このままでは……


 その時だった。


 ドォーン!


 どこからか爆発音が鳴り響く。

豪音のした方を見ると、城の方からもくもくと、白煙が立ち昇っていた。


 なに、なに? なにが起きたんだ?


「クーデターだ!」


 誰かが叫ぶ。

住民はパニックだ。

皆、我先にと逃げていく。

倒れる者、泣き叫ぶ者。

衛兵も、もみくちゃにされ、身動きがとれない。


 どうやら、直文も混乱している様だ。


 横の女性と何やら話しているのだが、ここからでは流石に聞き取れない。


 刹那、人混みの中から四つの影が馬車に向かい。直文へと飛びかかる。

皆フードを深く被り、顔は見えない。

直文も咄嗟に武器を構える。

だが、四対一。

フード達も手練れらしく、直文も苦戦を強いられている。


 更にフードを被った者が二人飛び出てくる。

その二人は、馬車から馬を切り離し、その場から逃がす。


戦闘中の四人は、馬車から直文を引き離すように、上手く立ち位置を変えながら、戦闘を続けている。

直文は押され気味だが、それでも互角に戦っている。


 直文の横にいる女性は、この戦闘に手を出すつもりはないみたいだ。

自身に結界を張り、少し離れた所で大人しく見ている。



「あぁ、うざってぇ! なんだてめぇら!」


「ふんっ、獣より劣る畜生に名乗る名など無い」


 一人のフードが答える。


 五人から、馬車が一定の距離が開いた。

すると、更に二人のフードを被った者が、馬車へと駆けつける。

どうやら、今のうちに、鎖に繋がれた女性の獣人を助け出そうとしているらしい。


「駄目です! 奴隷紋の首輪が!」


 だが、所有者の許可がなくては、この場から連れていく事さえできない。


 戦闘が上手く運んでないのか、とうとう勇者がキレた。


「面倒だ! サラ、自分の身は自分で守れよ!」


直文は女性にそれだけ告げると、直文の持っている剣が光輝き、そのまま横に大きく一閃。

その攻撃により、フード達が少し距離をとる。

その隙を直文は逃さない。


「インフェルノ!」


 直文の発音と共に、広場が炎の波に包まれていく。


 修平は焦る。


「馬鹿な! 住民もまだ近くにいるんだぞ!」


 しかし、炎は瞬く間に広がっていく。


 修平に水魔法は扱えない。

このままでは、一番近くにいる、獣人のお姉さん達がヤバい。


「アクアシール!」


 大きな水の膜が、逃げ遅れた住民や、残された獣人たちを包み込む。


 そこにいたのは……


「梨華先生!」


「ギリギリセーフね! アメリアに言われて急いで来たのよ! 感謝なさい!」


 直文の近くにいた、フード達はまともに炎を喰らう。


 被っていたフードが燃え落ち、隠れていた姿が見えてくる。


「一応、それなりの耐火の外套なのだがな……」


 そこにいたのは、金色の(たてがみ)(なび)かせた獅子、英雄王レオニアルであった。


 現獣王、レオニアル。

今まで見た獣人達とは違い、見た目が二足歩行のライオンだ。

先祖帰りによって、始まりの獣人の血を色濃く残しているそうなのだが。


 しかし、なぜここに?


 梨華が修平の元へと、走りながら近づいてくる。


「詳しい話は後で! 修平、ボックスに彼女達を!」


「返済ボックス? えっと、今調子悪……あれ? 治ってる……」


 修平は梨華に言われるがまま、ボックスの中へと獣人達を入れる。

暫くして、修平は彼女達をボックスから取りだす。

すると、服は元々なかったのだが、首輪も綺麗に無くなっていた。


 ほわほわたた〜ん!

とても、とても目には毒なのだが……いい意味で。


「成功ね! 上手くいくか、賭けだったけどね!」


 修平は思考が追い付かない。

その横で、ミーニャがお姉さんと抱き合っている。


「うん、感動の再会だねって、そうじゃなくて……」


「梨華先生、状況が速すぎて、訳、わかめです!」


 その間も、直文とレオニアルの戦闘は続いている。


「獣の王か! お前を()れば終わりじゃねぇか!」


「そう易々と、殺られてやるとは思うなよ」


 激しい剣の応酬、互いに凄まじいスピード。

修平の目では、ギリギリ追い付けるくらいだ……


 直文もかなり強いが、レオニアルは剣だけではなく、自身の牙や爪を巧みに使い、直文を容赦なく追い詰める。


 どうやら他の三人は、二人のスピードが速すぎて、まったく手が出せていたない。

邪魔が入らぬ様、周囲を警戒するに留まっている。


「なら、手加減は無しだ! サラ!」


 サラは、新たに直文へと結界を張る。


 レオニアルは幾度も結界に攻撃を加えるのだが、かなり強力なのか、なかなか結界を破れない。

その間、直文は力を貯めている素振りをみせる。


「大技の予感がするぞ、これはヤバい!」


「消し飛べ、ホーリーブレイク!」


「あの馬鹿勇者、この周辺一帯、更地にする気かよ!」


 梨華も急いで結界を張ろうとするが、広範囲故、発動に手間取っている。


 レオニアルはその場から瞬時に飛び、少し離れた場所で防御に集中する。


 そして間もなく、辺りは光に包まれていく……






 時は少し遡る。


 王宮内、勇者を城から送り出し、戻ってきた後に催される夜の晩餐会の準備で、みな慌ただしく動いている。


 アンジェリカは、それをため息まじりに見ている。


「姫様はパレードについていかなくていいんですか?」


 アンジェリカは呆れた顔でアンナを見る。


「あれにですか、冗談も休み休み言いなさい」


 アンジェリカは、"お前は何を言っているんだ"と、そんな顔でアンナを見つめる。


「そんな目で見つめられると……アンナは、アンナは、はぅっ!」


 アンナの変質者の様な仕草に、アンジェリカはまったく気づいていない。


「あれは害悪です。早目になにか手を打たないと……」


「素敵です、姫様! アンナ、感じちゃいます!」


 アンナは興奮し過ぎて、体がふらつく。


「今頃は広場に着いているでしょうか? アンナ? 聞いてますか?」


「アンナは、アンナはもう……だめです」


 バタンッ!


 アンナは鼻血を出して、その場に倒れてしまった。


「アンナ!?  なぜ? 誰か、誰か来て下さい!」


 ドォーン!


 突如、爆発音が鳴り響く。


「えっ? 何が……」


 アンジェリカは、いきなりの出来事に戸惑う。

呆然としているのも束の間、いくつもの影が窓を突き破り、城へと入ってくる。


「敵襲! 衛兵、衛兵〜!」


 城内は、一気に大混乱に陥る。


「死にたくなければ動くな」


 アンジェリカの前に、ひとりの人物がいつの間にか立っていた。


「その声は……」


 侵入者達はフード付きのローブを着ており、姿がはっきりとは判らない。

だが、かなりの手練れなのだろう。

殺されてはいないみたいだが、次々と衛兵達が無力化されていく。


 暫くすると、城で一番の大きな広間へと、全員が集められる。

宰相も、大貴族も、そして、王までも。

アンジェリカ達もその場所へと誘導される。


「こんなに簡単に侵入を許すなんて……」


 そんな事ができるのだろうか?

アンジェリカは、ふと、疑問に思う。


 しかし、貴族達はそれどころではない様だ。


「こんなことをしてタダで済むと思っているのか!」


 一人の肥え太った貴族の男が、大声でわめき散らしている。


 アンジェリカは眉をひそめる。

今の状況を分かっているのか、と。

相手に命を掴まれているというのに、なんと馬鹿な事だろう。


 すると、空気も読める者がいないのか、太った貴族に追随する様に、他の貴族達も騒ぎ立て始めた。


「そうだ! 勇者の直文様が戻って来られたら……」


 そこから先の言葉は、永遠に聞こえてくることはなかった。

貴族の男は、首が胴と"おさらば"していたが為に。


「騒ぐな、早く死にたいなら別だがな……」


 首領らしき男は、他の者に指示をだし、命令する。

すると、ローブの者達は素早い動きで、城内へと散って行く。


「……何故なのです、あんなに忠臣であられたあなたが……」




 場面は修平に戻る。


 直文の体が、眩く光だした瞬間だった。


土壁三重障壁(マトリョーシカ)!」


 修平は咄嗟に、直文を囲むように、三重の壁を展開したのだ。


「出来るだけ、固く、硬く、カタクッ!」


 一瞬で壁は、光と共に砕け、破片は周囲に飛び散った。


 修平はその場に倒れる。

魔力を使い過ぎによる、魔力枯渇で体に力がはいらない。


 いったい、どれだけの威力だったのか……

壁は壊されたが、どうやら皆、無事なようだ。


「糞が! 糞が! 糞がぁ〜〜!」


 直文も、これで決まると思っていたのだろう。


 先程使った魔法、強力故に連発は出来ないのだろう。

直文は片ヒザをついている。

サラの方も、かなり強力な結界だったのか、顔には疲労が見える。


「終わりだな……」


 レオニアルがゆっくりと直文へ近づく。


「来るんじゃねぇ! 俺は強いんだ! 無敵なんだよ! てめぇらも俺の言うことを聞きやがれ!」


 既に、言っていることが支離滅裂だ。


「同胞を殺めた罪、その命で償え!」


 レオニアルの牙が勇者の首に食い込んだ。


 直文から、激しく血が吹き上がる。


 ビクッ、ビクン!


 直文の体が細かく痙攣し、その場へと倒れる。



「こちらは終わったな、城はどうなったか? あの男の事だ。問題はなかろうが」


 レオニアルは城のほうを見ながら呟く。

まるで"心配などしていない"といった感じだ。


 しかし、何故か誰も気づいていなかった。

いつの間にか、サラがこの場所からいなくなっていたことに……


 ミーニャや梨華先生の声が、遠くの方から聞こえる。


「むぅ、後はまかせた……」


 そして、修平の意識は闇の中に落ちていくのだった。


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