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22話 おっさん新しい装備を買う (そこまでしてとは言ってない)

 修平が与えられていた、宿の部屋のベッドへ、そっと少女を寝かす。


 おっさん達は部屋の外で待機だ。


 モブBは鼻息が荒かった為、隔離して更に、縛っておいた。

少女の為、一応の安全対策である。


 リリアが少女の身体をくまなく調べる。

どうやら、多少衰弱はしている様だが、目立った傷などは無いようだ。


「もう、大丈夫ですよ」


 リリアから声がかかり、修平は部屋へと入る。


 少女は目が覚めた様だ。

しかし、かなり怯えている。


 それはそうだろう。

見知らぬ場所、知らない沢山の人。

幼い身で、戸惑わない方がおかしい。


「あれ? わたし、怖い人達に捕まってて」


 どうやら少女は、まだ頭が混乱しているみたいだ。


「隙をみて逃げだして、走って……人の良さそうなおじさんに……」


 修平は少女に向かって、軽く手を振る。

すると少女は、こちらに気がついた。


 少女は少し落ち着いてきたのか、周りを確認するが、ダニエウ達を見て、ビクッと体を震わせた。


 仕方ない。

まぁ、ダニエウ達の見た目が、山賊に見えなくもないから……


「何があったか話せますか?」


 長き、沈黙。


 そして、少女がおそるおそる、少しづつ話し出す。


「いきなり、たくさんの人間が襲ってきて、わたしはお姉ちゃんと一緒に、ご飯の準備をしていて、二人組の男の人に捕まって、

それを止めようとした隣のおじさんが、切られて、血がたくさん流れて、あああっ!」


 慟哭。


 リリアは少女を優しく抱きしめる。


「大丈夫、大丈夫ですよ。ここには貴女に危害を加える人はいません。疲れたでしょう、ゆっくり休んでくださいね」


 リリアはゆっくりとした口調で、優しく少女の背中をさすり続ける。


 安心したのか、少女はゆっくりと目を閉じると、暫くして寝息が聞こえてきた。

余程疲れていたのだろう。

とりあえずは、リリアが面倒を看てくれるそうなので、修平達は部屋を出る。


「はぁ、旦那〜やるせないっすね……」


 ダニエウでさえ、そう思うのだ。


「戦争なんてろくでも無いんだよ」


 進んでやる奴の気が知れない。

しかも、この戦争、"おとしどころ"がわからない。

王国としても始めた手前、後には引けず。

共和国側からすれば負けたら奴隷落ち。

引くわけがない。


 一冒険者のただのおっさんでは、どうする事もできないのだが……

このまま、流れに身を任せるしかないのだろうか?


 その夜、修平はダニエウ達と馬小屋で寝ることになった。


 リリアと少女に部屋を譲ってしまったので……


「ど、どうしてこうなった……お、俺も、い、一緒に……」


 バタンッ!


 エガオデ、ドアヲ、シメラレタヨ……カナシイネ






 深夜、とある人気のない場所。


 そこに灯りはない。

暗闇の中、数人の人影が集まり、小声で会話をしている。


「……首尾は……」

「了解した、では……」


 それは、手早く確認を済ませると、影となり、散り散りに走って行く。


 すると、その場に静寂が再び訪れる。


 まるでそこには、初めから何も無かったように……





 そのころ、おっさんはというと。


「痒い、ダニエウらのイビキがうるさい……」


 なかなか眠ることができないのであった。


「ち、ちっきしょ〜〜〜!」





 次の日、曇天。


 リリアは部屋で、少女と一緒にまだ休んでいるようだ。


 修平は魔石の売却のお金を、リリアから受け取った。


「昨日、お渡ししようかと思ったのですが……色々ありましたからね……」


 そうですね。

まぁ、結果オーライだけどね。

偶然だけど、少女は救えたのだから。


「戦時中でなければ、もう少し高く売れたそうなんですが……」


 いや、おっさんが売ろうとしても"ぼったぐり"に遭いそうなので……

確実に売れる手段があるならその方がいい。


「はい、どうぞ。無駄遣いは駄目ですよ!」


 し、信頼がないな。


 金額が金額なので、しょうがない。


 なんと、金貨五百枚!

あれ? これで返済が終わるのでは? と、思ったのだが……


 ボックスが不具合なのか、何故か返済ボタンが消えていたのだ。

ちょっと、意味がわからない。


「この先、俺は本当に元の世界に帰れるのだろうか……」


 仕方がないので、以前の計画通りに装備を整えようと思う。

王都は各地から、色々な素材も運ばれてきており、品物も質がいいらしい。

これなら珍しい掘り出し物も、中にはありそうだ。


 ちょっと不謹慎だが、修平は期待に胸が膨らむ。


 おっさんだって、男の子なのだ。


「おら、ワクワクしてきたぞ!」


 最早、末期である。



「ここか、リリアから聞いた店は……」


 リリアは以前、本部にも勤務したことがあるらしい。

ドランのギルドマスターは養父にあたり、彼が任命された際に、一緒にドランへと移住したそうだ。

家庭事情が複雑そうなので、詳しくは聞かないでおいたのだが……


「こんにちは〜!」


 修平は意気揚々と、店のドアをくぐる。


「いらっしゃいませ〜!」


「あれ? この声は……どこかで……」


「あ、どうも、かもネギじゃなかった、お得意様!」


 おいっ! 本音が駄々漏れだよ!


 そこに居たのは、ドランの街の武防具店だった店員だった。

修平はずっこける。


「私、ルミルって言います。お客様、以後、お見知りおきを!」


 嫌な予感を察知し、修平はゆっくりと後ずさる。


「本店より、辺境での売り上げを認められましてね。かねてより希望していた本部に異動になりまして、自分が優秀すぎて怖いですね! いや〜めでたい、めでたい!」


 この人、何も聞いてないのに自分で言っちゃったよ!

しかも、その売り上げって、ほぼ俺じゃないの?

さっき、"かもネギ"って言ってたよね!


 修平は更に一歩、後ずさる。

まるで警察に見つかった犯人の様に、悪いことなど、何もしてはいないのだが……


 ジリジリ……


 その場に緊張が走る。

額から冷たい汗が流れ落ち、修平は目上をさっと拭う。


「あれ? あの人、どこいっ……!」


 な、なんだと! いつの間に背後に!

はっ! 既に入ってきたドアが、店舗用ゴーレムによって抑えられている。


「逃がし、じゃなかった。何かお探しでしょうか〜?」


「……うっ。ちょっと資金が入ったんで装備を……」


 言い終わらない内に、ルミルは凄い勢いで、奥へと駆けていく。


 なんだろう、デジャブを見ているようだ……嫌な予感が頭をよぎる。


 しかも、スゴい音が奥から聞こえてくる。

まさか、在庫一斉処分とか考えてないよね……


 ルミルが戻ってきた。

興奮の為か、それとも急いだせいなのか、ルミルは息を切らしている。


「お待たせいたしました! 以前、頭の守りは矢避けのまじないがついた蜂がねでしたが、これは遺跡から発掘されたマジックアイテムです。見た目はただのピアスですが、耐物理、各属性耐魔防御結界、もちろん矢避けも付いてます。軽いし、丈夫で壊れにくい! 他にはないお値打ち品です。なんと金貨七十枚安いですね!」


「えぇー! いきなり金貨七十、な、七百万!」


「お次は、最近入荷したワイバーンの皮と、五百年物のヒュドラの皮の特殊な部分を用い、作りました。このレアハードレザーの鎧。裏地にはエルフの魔法技術で編んだミスリルメッシュ仕様です。凄く軽い、まるで羽のようですね! 現在、着られている鎧の数段上をいく性能です。戦争って怖いですね、これは買うしかないですね!」


 そ、そのワイバーンとヒュドラ、俺たちが倒したやつじゃ……


「すごい、こんな鎧見たことない、な、なんと金貨百五十枚! お値打ちすぎて涙がでてきます。くぅ〜〜!」


「ち、ちょっと待って!」


 予算オーバー過ぎるでしょ……


「小手とブーツも裏地がミスリルメッシュで補強してあるやつでいいとして……」


「お、お〜い!」


 ルミルの目が血走っていて、怖い。

どうやら、修平の声は届かない様だ。


「肘宛、膝宛はアダマン製、盾もアダマンか、うーん、お金足りるかな……」


「駄目だ、この人! 俺の話を全然聞いてくれない!」


「武器は、魔法使うならミスリルがいいよね。発動体つきのやつはこれね。うん、間違いない!」


 いや、少しは返済にもあてないといけな……


「イヤァ〜〜〜〜〜〜〜!」


 結果からいうと、合計金貨三百八十枚。


 ピアスに鎧と小手とブーツ。

武器はミスリル仕立ての特殊加工ロングソード、魔法発動媒体もついている。

どうやら、盾と肘宛と膝宛は、今持っているお金では足りなかった様だ。


 恐るべしアダマン製。


 なんだろう? 途中から記憶が曖昧なんだが……


 洗脳? ハハハッ、まさかね……


 イチオウ、マケテハクレテルンダヨ……ホントウナンダヨ……

コレナラ、イエガモウイッケンカエチャウネ……




 相も変わらず、押しに弱いおっさんなのであった。


 おかげで、既に装備は一流の冒険者のそれである。

ランクは、まだD止まりなのだが。



 時間は昼過ぎ、修平は他の買い物も済ます。

明日にはパレードがある。

とりあえず修平は、一度宿へと戻るのだが……



 修平の装備を見て、リリアが長いため息を吐く。


「修平さん、無駄遣いは駄目って言いましたよね!」


 イヤ、これは無駄では……ゴメンナサイ……

上手く生きるって、なんて難しいのだろうか。


「彼女、落ち着いてますよ、話しますか?」


 リリアは諦めたみたいだ。

だって、おっさんなんだもの。

これが平常運転だから、仕方ないのだ。


 修平もゆっくりとした口調で、少女に話しかける。


「どうかな? 体調におかしなところはない?」


 できるだけ、にこやかを心がけて、怪しいだろうか……


「あ、ありがとうございます。えっと、助けて貰ったのに名前も言ってなくて……わたし、ミーニャって言います」


 少女はペコリと頭を下げる。

こんなに可愛い子を泣かすなど、悪人許すまじ!


「お姉ちゃんとは離ればなれになっちゃって、次はお前の番だって、怖くなって。お姉ちゃん、お姉ちゃんに会いたいよ……」


 ミーニャは涙を流しながら語る。


 おろおろ、迷子の仔猫ちゃんではないが、修平は困ってしまう。


 リリアが言うには。


「言い方は悪いのですが、既に売られてしまっているとなると、再び会うのは……少し難しいかもしれませんね」


 リリアは拳をギュッと握っている。

彼女の責任では無いのだが、一人の人間として、少女に申し訳ないのだろう。


「リリア、これからこの子はどうなるんだ?」


「王国の法律では、"獣人に人権はない"ってことになっています。見つけたら国に届けるように、と」


 リリアは首を左右に振る。


「できれば、内密に国元へ帰せればいいのですが……」


 戦時中の今では、それは限りなく無理に等しい。

更に、例え帰ったとしても、そこに居場所があるかどうかもわからない。


「お父さんとお母さんは?」


 ミーニャは首を左右に振る。

物心ついた頃には、既にお姉ちゃんと二人きりだったらしい。


 これは……どうすればいいのだろうか?


「私は、法には反しますが、このまま保護したいと思っています。こんな事は間違っていると思いますから……」


「おっさんはリリアに一票」


 ダニエウ達には、修平が箝口令を敷く。


「君たち、しゃべったら……ワカルヨネ……」


 ダニエウ達は、顔を青ざめながら頷いていた。


 まぁ、最初から比べるとこいつらも変わってきている。

おそらくは大丈夫だろう。


 一応、念のためではあるが、頭もスッポリ隠れるフードつきの外套も買ってきた。

時期的には冬も近い事だ、見た目は怪しくはないだろう。

ミーニャの可愛さは隠せないかもしれないが。


 パレードの最中はどうしようか?


「ミーニャは部屋で待ってる?」


 ミーニャは首を激しくブンブン振るう。


「わたし、なにも知らないから……だから、今なにがおきてるのか知りたい!」


「そうか……ならば一緒に行こう!」


 リリアは仕事の関係で、一緒には居れない。

だが、ミーニャは俺が必ず守る!

そう心に誓う、ちょっとカッコいいおっさんなのであった。


「ネコミミは正義、モフモフしてぇ〜!」


 修平の手は"わきわき"と、しているのだが……


 バンッ!


 リリアには、頭を叩かれましたとさ……



 そして次の日。

パレードが始まるのであった。


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