21話 おっさんと少女
王都。人口が百五十万人程、王国最大の都市である。
冒険者ギルドの他、ほとんどの西の主要ギルドの本部もここに集結している。
まさに、物、人、金、欲望、様々なモノが集まる場所。
ドランの街の冒険者達もようやく到着した。
街を出て、実に10日目の事であった。
戦況は共和国側に一旦切り込み、いくつかの町を落とし、本陣は撤退。
そこからは国境ラインで、一進一退といったところらしい。
街には賑わいはあるが、民に明るさはない。
異様な雰囲気、逆に物々しさが際立っている感じさえする。
「ようやく着きましたね。私はギルド本部に顔をだしてきます。みなさんは宿の方に向かってください。私が合流するまでは待機でお願いします!」
リリアの顔が引き締まる。
色々な業務を兼任しているのだ。
あまり無理はしないでもらいたいものである。
冒険者達は言われたとおり、宿へと向かう。
宿は小さいながら、一軒まるまる貸し切りのようだ。
修平は二階に個室を用意してもらった。
一応、王都に来るまでの功績を考慮され、優先してくれた様だ。
「おぉ、これが王都か! 初めてきたぜ!」
しかし、なぜ、ダニエウ、お前らが部屋にいるのだ?
せっかくの個室が台無しだ。
「だって、部屋が足りなくて、"お前らは馬小屋で"とか言われたんだぜ!」
「お似合いだよ。旅の途中を振り返ってみろ!」
「旦那、皆一緒な部屋で寝ようぜ!」
断固拒否する! ベッドは大きいやつが一つしかないのだ。
ダニエウ達と一緒に寝る……考えただけで寒気がする。
「俺は考える事があるんだ、馬とでも戯れててくれ……」
お前らにかまっている暇はないんだよ……
修平は考え込む。
リリアの予想していた話では、まずはガズかヘベルに配置されるのではないかと。
しかし、わからんな……
そもそも前回の戦争でも、後半は泥沼していたはずだし。
超火力の古代兵器みたいな物があれば別だが、勇者ひとりで国を相手なんて……まさか、できないよね?
そもそも、勇者のポテンシャルがわからない。
なんていうか、それって魔王なのでは?
ハーレム大好き魔王、エロ漫画に出てきそうだな。
考えが、浮かんでは消える。
しかし、馬鹿な貴族……実は何も考えてなさそうで怖い。
なにやら下が騒がしい。
どうやらリリアが、ギルド本部から帰ってきたようだ。
「とりあえず、三日後に全ての街のギルドが集まるので、昼にパレードを行い、軍の士気を高めるそうです」
戦時中にパレードとか……頭沸いてるのか?
「それまでは自由行動とします。皆さん、はめをはずしすぎないように、特に修平さん! 気をつけて下さいね。ダニエウさん達の監視をお願いしますね!」
「え、俺が? 聞いてないよ〜〜!」
真面目に生きているつもりなのだが、おっさんの信用はあまりないらしい……
ところかわって……王宮内、大広間。
「さすが勇者様、後武勇、知識、どれをとっても素晴らしい! 我が娘のことも是非ともお願いしたいものですな!」
勇者が来てからというもの、王宮では毎日のようにパーティーが開かれている。
パーティーでは勇者に媚びをうる貴族が後を絶たず、彼の勇者はご機嫌な様だ。
「はっはっは! そうだろう、そうだろう! 俺にかかれば雑兵などモノの数でもない」
勇者、志賀 直文は増長していた。
わけがわからないまま、異世界にとばされた。
ラノベで片寄った知識は持っていたが、サバイバル等の経験は皆無だったが、出会った魔物に対し、力を奮う。
だがその力が桁外れだった。
現実離れしている力だ。
そして直文はこう思う。
これは俺TUEEEEできるのではないかと。
夢にまで見ていたハッピーハーレムルート。
男なら誰しも望むのではないだろうか……
「これ以上は直文様が疲れてしまいますわ。皆様、そろそろ……」
一人の若い女性が、直文から肥え太った貴族達を引き離す。
そして二人して、どこかに消えていった。
その光景を離れた所で見ていた女性がいた。
名をアンナ。
アンナは転生者だ。歳は22。
彼女は幼い王女の侍女をしている。
アンナは頭が痛い。
馬鹿な貴族達が、こぞって勇者に媚びを売る。
国の事を考えてない貴族達が、なんと多いことか、と。
もっとも、今、まともな貴族達は幽閉され、隔離されているのだが……
アンナは小声で呟く。
「王は宰相の傀儡、カイ様は他国で捕縛」
まさに打つ手なしだと……
「あの女も要注意ね。宗教の何て言ったかしら? 聖女なんていわれているけど、勇者を唆す悪女! 勇者も勇者よ! ハッピーハーレムルート? 頭に蛆でもわいてるんじゃない?」
アンナはなかなかに辛辣である。
一介の侍女の発言など、たかが知れている。
そんな事はよく分かっているのだ。
転移者と違い、アンナの身体能力は、この世界の一般レベルしかない。
ただ、前世の記憶が残っているというだけ。
「魔王がいるなら、裏で笑っているでしょうね」
アンナは姫を連れ、部屋へと戻る。
姫様、名前はアンジェリカ、13歳。
乙女ゲームでも、よく出てくるような名前だ。
だが、姫様は可愛い、可愛いは正義だ。彼女の事だけは死んでも守る!
そう心に誓う、アンナなのであった。
「アンナ、なんとかしないとね……」
しかも、アンジェリカは賢い。
現状を把握し、戦争のことも憂いている。
だが、所詮は幼い姫。
力はまだ無いようなものだ。
「お母様が死んでから……お父様は変わられてしまったわ。宰相であるガーベナのいいなり。このままでは国が滅びてしまう……」
「ひ、姫様! なんという凛々しいお姿! アンナは一生ついていきます!」
(ああっ、ここにスマホがあれば! このお宝映像を永遠に残しておけるのに! 神よ、あなたを恨みます! スマホ! カムバッ〜ク!)
ちょっと痛い女、それがアンナの本性なのであった。
話は修平へと戻る。
とりあえず、ヒュドラの魔石は換金することにした。
その金を使い、装備のグレードをあげる。
今でも充分な気持ちもあるが、できることはできるうちに、だ。
物が物なので、そんなに簡単に売れるものだろうか?
リリアに聞くと、王都ではオークションがあり、毎日、開かれているそうだ。
「そちらは私に任せてください! 知り合いもいますので」
なんと頼もしい。
魔石の売却は彼女に任せ、王都を探索してみよう。
と、でたのも束の間。
「……あれ?」
「……うーん?」
困った。完全に迷子である。
目新しいものを追っているうちに、随分奥まで来てしまった。
王都は道が要り組んでおり、先に進んだり、戻ったりしていたのだ。
既に宿の場所も、何処だか分からない。
時間はもう夕暮れ、徐々に辺りは暗くなり始めている。
「どうしよう……」
ドンッ!
「キャッ! ご、ごめんなさい!」
少女がいきなりぶつかってきた。
だが、よく見ると、少女の頭には、可愛らしい二つの耳がついていた。
「ネコミミ? コスプレ?」
「まてぇ! コラァ!」
怒号を叫びながら、見た目の怖い男が近づいてくる。
改めて少女をよく見ると、首には首輪がつけられており、首輪からは鎖が垂れ下がっている。
着ている服も、粗末な生地のぼろぼろな服だ。
少女は修平の陰に隠れる。
体は震えている。
どうやら、やってきた男を見て、怯えているようだ。
「へっへっへっ、逃げたって無駄なんだよ!」
ザ、悪役って感じだな。
「旦那、そいつはオークションに出すんでさぁ。こっちに渡して貰えませんかねぇ、若くて処女、変態貴族に高く売れそうなんでねぇ!」
まだ奴隷契約はしていないと、ほぅ……
修平の目が鋭くなる。
「お前の物は俺のもの、俺のものも俺のものだ」
どこのジャイ◯ンだろうか。
「ふざけんな! ぶっ殺す!」
そりゃ怒るな、俺でも怒るわ。
怒り狂った男は、修平へと殴りかかろうとする。
だが、遅い!
「ふんっ!」
「があっ!」
男の腹にワンパンした。
男の体がくの字に曲がり、その場に倒れる。
どうやら男は、気を失ったようだ。
「外道に手加減は必要ない、ふっ、正義執行!」
決まった!
しかし、女の子は安心したのだろうか?
壁に背を預け、気を失ってしまっていた。
き、期待なんてしていないんだからね!
しかし、ただ今絶賛迷子中なのだが……
そうだ!
修平は閃いた。
高い所なら分かる筈、ならば、空から探そう、と。
修平はマグネットを設置し、空へ高く飛び上がる。
魔法の発動までのスピードが、前より更に上がっている。
梨華との訓練の成果が如実に出ている。
修平は前に見える屋根に、次々と土を投げる。
屋根の材質も石造りだ。
問題は無いだろう、多分。
設置、解除、設置。
繰り返し、屋根から屋根へ。
マグネットは解除し、ただの土へ変える。
おぉ、漫画でよくある光景かも。ちょっと怪盗っぽい……
「お、覚えてる場所だ」
修平は宿の近くの広場へと、軽やかに着地する。
「帰ることはできた。それより、この子はどうしようか……」
気を失っていたので、そのまま少女を連れてきてしまった。
しかし、"おっさんが少女を抱えている"、この危ない光景に加え、さらに少女は、首輪まで着けているのだ。
誰がどこから、どう見ても、犯罪臭がプンプンする。
「と、とりあえず宿に戻ろう!」
修平は人目を避けながら、宿へと戻ることにしたのだが……
「げっ! ダニエウ!」
運悪く、ダニエウに見つかってしまった。
「おいてけぼりなんて、さみしいじゃないですか! だ、旦那! そんな趣味があったんですかい!」
「馬鹿を言うんじゃありません!」
修平は必死に否定する。
「見損ないましたぜ!」
と、モブA。
「人助けだよ! 善意だよ! 俺はロリコンじゃない!」
「な、仲間なんだな!」
と、モブB。
「つ、通報しなくちゃ!」
お巡りさ〜ん! こっちです! 変質者がここにいま〜す!
そんなこんながありながら、四人で宿へと戻ってきた。
どうやら、リリアも既に帰って来ているようだ。
「修平さん、またですか……」
なに、その"いつも問題起こしてる"みたいな眼差しは!
誤解だよ! 向こうから勝手に降りかかってくるんだよ。
俺は無実なんだよ〜〜〜〜!
良い事をしている筈なのだが、何故か毎度責められる。
少々、やるせない気分のおっさんなのであった。
帝国を共和国に変更。
調べたら、まちがってました。
学がなくてすいません。
タイトルを少し変更しました。
モブBが身請けしたヴァニラちゃんは実は合法ロリでした。