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20話 梨華先生と能力向上

梨華に拉致され、魔法の特訓をすることに……

 朝、晴天。

しかし、おっさんの顔はやつれていた。


「け、汚されちゃった……」


 冗談はさておき、昨晩、修平は大変な事に気がついた。


 なんと、返済額が五百万も増えていたのだ。

連絡が全くとれないので、確認の仕様がない。


「ま、まさか、オレオレ異世界詐欺!」


《回想》


「ごめん俺だけど異世界にとばされちゃってさ〜」

「悪いんだけど、戻る為にさ〜、五百万かかるって言うんだよ〜」

「早めに指定の口座に振り込んでくれない?」


「え、すぐには無理?」

「無理はこっちだって〜、異世界は命が軽くてさ〜」

「俺なんかさ〜、軽く死んじゃいそうなんだよね」


「助かったわ〜、多分すぐに帰るから、警察とか連絡しないでね」


《回想終了》


 あ、あり得そうで怖い。って流石にそれはないか……


「元の世界の俺は、行方不明扱いになっているのだろうか?」


 考えても仕方ないのだが……

しかし、心労で胃に穴が空きそうだ。

異世界、なんと恐ろしい所なのだろう。


 昨夜、梨華から話を聞いた後。

梨華がボックスに関して実験をしていた。

その結果、色々分かったことがある。


 まず、ガラクタだろうが物であれば返済にあてれる。(金額はたいした額にはならないが)


 生きている物は無理。

(ネズミで試してみたが、後から無事、取り出すこともできた)


 人型ゴーレムは物として扱われた、(当然か)


 その際、魔石も一緒になくなって梨華に怒られた。(え、俺のせいなの?)


 離れても、修平から一定距離を保ち、浮きながらついてくる。(他の人から見たら、軽くホラーだな)


 消すのは言葉じゃなくても、自分(修平)の意思だけでできる。


 自分(修平)は入れない。


 どんなに攻撃を受けてもびくともしない。


 試しに、屋敷の地下にある実験場を使い、梨華の使う複合魔法の最大出力を放ってみた。

見てるこっちが死ぬかと思った……


 かなり強めの結界は張ってはあったのだが……


 ピキッ!


「あ、あぶね〜、ひびが入ったぞ!」


「凄いわね。これって神器の類いかも。それにしてもガラクタ捨てるのに丁度いいわね!」


 梨華は、いらない物を次々とボックスに放り込んでいた。


 ゴミ箱か!


 少しは足しになったが、それだけだった。(ゴーレムの魔石が一番高かった)


 返済額、逆に増えすぎ問題である。



 そんなこんなで朝になり、修平は集合場所に着いた。


 皆、だいたい集まっているようだ。


 じーー!


 リリアがじと目でこちらを見ている。


 揉み手をしながら、厭らしい笑みを顔に浮かべ、ダニエウが近くに寄ってくる。


「旦那、旦那! ゆうべはおたのしみでしたね!」


「どこの漫画のタイトルだよ! 朝まで魔法の特訓だよ!」


 ボックスの検証が終わった後、どうやら梨華は満足したみたいだ。


 修平が一息ついていると、奥の方から梨華が、たくさんの瓶を胸に抱えてくる。

色とりどりの液体の入ったビン、中身を聞くのが怖い。


 そして梨華は喋りだす。


「なぜかはわからないんだけど、異世界人である私達はね、魔法の発動がエルフに近いみたいなの。この世界の人はなんていうか、呪文と魔法のイメージがね、固定観念にとらわれているっていうか……だから、イメージの訓練しましょ!」


「あの、梨華さん。俺、明日の朝にはこの街を出発するんですが……」


「そこ、文句言わない! 私を呼ぶときは先生をつけて呼びなさい! このイメージがどのくらいの魔力を使うとか、ちゃんと知っておかないと、いざっていう時に危険よ!」


 ゴーレムが大きな(かめ)を持って、やってくる。


「さあっ、体に染み込むまでやるわよ!」


 梨華は次々と持ってきたビンを(かめ)の中に空ける。

ビンの中身を全て入れ終わると、長い棒で混ぜ始めた。

しゅわしゅわと色とりどりの煙が(かめ)から出始める。


「あの、り、梨華先生。錬金スキルなんて持ってなかったですよね……」


 凄い勢いで、梨華は液体を混ぜている。


「俺、あれ飲むの? 飲まなきゃいけないの? 死んじゃうよ!」


「大丈夫、大丈夫、安心して! 人間、そんなに簡単には死なないから!」


「全然安心できないよ!」


 倉庫の方からゴーレムがわらわらとやってくる。

そして、梨華による地獄の特訓は、朝方まで続くのだった。



 そして今に至る。

修平は少しポーション酔い気味だ。


 現実って世知辛い。

哀愁漂う、おっさんなのであった。


 別れる際に、梨華には餞別にいくつかの魔道具を貰った。


 結構、高価な物もあり、修平は"絶対売るな"と釘を指される。


 魔力を底上げする指輪。鑑定ができるルーペ。魔法抵抗のある外套。


 助かります。恩はいずれ、返せたら返そう。


 ここより更に北東に向かい、宿場町をいくつか経由した先に目指す王都がある。


 隠したい所は、だいぶはしょったが、経緯を説明するとリリアの機嫌も治ってきた。


 しかし、まだ異世界人ということは伏せておいた。

勇者の件もあることだ。

壁に耳あり、障子に目あり、横にダニエウありだ。

こいつらはすぐに噂を拡散する。

歩く広告塔だから……


「それは大変でしたね……」


 そうなの慰めてリリアたん。


「まぁ私には関係ありませんけど!」


 あ、あれ? まだ怒ってらっしゃる。


「旦那もやるな〜、朝までしっぽりなんて!」


 ダニエウ! お前は話を真面目に聞け!


「今の話の中で、どこにしっぽり要素なんてあったんだよ!」


 相変わらず、あまり人の話を聞かないダニエウであった。



「旦那、あれを見てくれ!」


「久しぶりに声を聞いたな、モブA。」


モブAの指差すその先を見ると、小さな森があった。

修平は目を凝らすと、かすかに砂煙が見える。

よく気がついたものだ。


 どうやら、オークの集団がこちらに向かってくるようだ。


 数は三十体程。

その中には、上位種であるハイオークもいるみたいだ。


「どうしよう、旦那! 逃げようよ!」


「モブBよ戦え! 戦うんだ! 勇気を見せろ!」


 お前がそんな感じだから、ヴァニラちゃんに逃げられるんだぞ!


 とはいえ、数はそれなりにいる。

このまま、乱戦は避けたいところだ。

隊列の後ろもようやく気づいたのだろう。

冒険者達が、徐々に騒がしくなってきている。


「俺がやる! 憂さ晴らしだ、ストレス発散だよ! 梨華先生仕込みの暗黒(気持ち)魔法をぶつけてやるぞ!」


 オーク達はその勢いのまま、こちらに向かって突進してくる。


 二メートル近い巨体だ。

直接当たったら、こちらもタダではすまないだろう。

オークまでの距離は今、四十メートルくらいか。


土柱の林(春はタケノコ)!」


 グサッグサッグサッ!


 一瞬の出来事だった。


 そこには竹林のように、尖った土の柱が乱立していた。


 既に二十体ほどのオークが死んでいる。

だが、敵も簡単には諦めてはくれない様だ。

オークもゴブリンと一緒で人を拐い、孕ませるのだ。

生かしておく理由はない。


 オーク達は、土の林を迂回して二手に別れ、修平に襲いかかる。


「チェーンソー!」


 修平も剣に風の刃を纏わせ、片方のオークの群れに突っ込む。


「ヒャッハ〜! お前らの血は何色だ〜!」


 修平は疲れすぎて、灰テンションである。


 梨華から教えて貰ったのだが、魔力を体に巡らせるイメージをもつ。

すると、自身の身体能力があがるのだ。


 魔法に適正がなくても、身体強化は達人クラスになると当たり前のように使うらしい。

修平はまだ充分には扱えないのだが。


「それでも、オーク位ならなんくるないさ〜」


 なぜに沖縄弁。


 三十秒程で片方のオークの群れを始末する。

残りは五体。


 流石に劣勢と悟ったのか、オーク達は逃げようとするのだが……時既に遅し。


「飛べない豚は只の豚なんだよっ!」


 ちょっと意味が違うと思われる。

ともかく、オーク達は跳ね上げられ、切られて落ちていく。


「ふっ、またつまらぬものを切ってしまった……」


 最早、意味がわからない。


 ダニエウの開いた口が塞がっていない。

なんとも間抜けな顔だ。

しかし、戦闘体制に入った他の冒険者達も驚いている。


「だ、旦那。強くなりすぎじゃねぇーか! ビックリして漏らしそうになったぜ!」


 昨日の地獄の特訓に比べれば、こんなもの屁でもないのだ。


 あと、ダニエウ、その歳で漏らすな。


「昨日か、思い出したくない。こ、怖いよ……ゴーレムがゴーレムが……」


 修平はトラウマになっていた。


 そんなこんなで、オークの後始末を終え、先へと進む一行であった。


 しかし、梨華も言っていた。

最近、魔物の数が多い上に、大型種や上位種、更に希少種までも出てくる。

いつもと違う、何かがおかしいと……


 確かに辺境でもゴブリンの異常繁殖。

アンデッドの大量発生など、おかしな事が続いていた。

なぜだかわからないが、今までより漂う魔素が濃くなっているらしい。


 梨華も調べてみると言っていた。

修平が気にしてもしょうがないのだが……


 夕方、一つ目の宿場町についた。


 流石にここまで来ると、各地の街からの冒険者達も、ちらほら見かけるようになってきた。

町中のそこいら中で、騒ぎの声が聞こえる。


「面倒事はもういい、早く休みたい……」


 修平は疲れきっていた。


ドンッ!


「おいお前らっ! ぶつかってきてどういうつもりだ!」


 ダニエウが町中を歩く、ゴツい男の肩にぶつかったみたいだ。

しかし、お前たちもテンプレが大好きだな。


 すると、ダニエウが言う。


「ここにいる旦那を誰だと心得る!」


 水戸◯門か!


「旦那! ちゃちゃっとやっちゃってください!」


 どこの用心棒だよ!


「こっちとしては、勘弁してくれると助かるんだが……」


「うるせぇ! ああー、いてーな腕が折れちまった。こりゃ慰謝料をたっぷり貰わねぇとなー」


 当たり屋かよ……


 どこの世界にも、こういう馬鹿はいるもんだ、と。


 修平は機嫌が悪い。

昨日はあまり寝てない上に、特訓で体はへとへとなのだ。


「なんだお前ら、俺にケンカ売ってんのか?」


 ダニエウの顔が青ざめる。


「だ、旦那がきれた!」


 モブAの顔が青ざめる。


「血の雨が降るぞ!」


 モブBの顔が青ざめる。


「早く逃げないと!」


 いや、きれてるのお前らのせいなんだけどね。


「はい、はい、そこまでです。あなた達も冒険者なのでしょう? あなた方のギルドに報告しますよ? いいんですか?」


 リリアが来て、その場を納める。


「チッ!」


 当たり屋どもは、舌打ちをしながら去っていった。


「ふぅ、修平さん。面倒事は極力控えてください!」


「え、俺のせいなの?」


 後ろを振り替えってみると、そこには既にダニエウ達の姿はなかった。


 あいつら……もう怒る気力も残っていない。


 精根尽き果てた、修平であった。




 その夜、修平は泥のように眠る。


 暗い、なにも見えない。


 でも何かがそこにあるような……


((もうすぐ会えるかもね))


 誰に? わからない。


((そのときになれば分かるよ))


 なら、いいか。


 再び修平は、意識が闇の中に落ちていくのであった。



 リリアの朝は早い。


 食料の調達や、他のギルドへの連絡など、それらを出発前には終わらせないといけないからだ。

昨日のうちに素材の売却等は終わらせてある。

リリアはかなりできる女なのである。


「おはようございます! 修平さん、よく寝れました?」


「おはようリリア、おかげさまでね。体の疲れはとれたけど、なんかスッキリしないんだよなー」


 頑張りすぎなんですよ、と労られる。


 でも、なんだろう。

大事な事を忘れているような……


「もうすぐで出発ですからね〜!」


 顔でも洗ってスッキリするとしよう。


 そして、1日が始まる。


 ここからあと数日の行程で、王都には着くのだが……


 修平の口からは、重いため息が漏れる。

王都に着くと、とうとう戦争に参加することになる。

戦争、平和な日本では無縁だと思っていた。

自分はそこで一体なにが出来るのだろう。

このまま旅だけ続けばいいのに……


 そう思わずにはいられない、心労で胃に穴が空きそうな、おっさんなのであった。


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