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19話 勇者の現在と魔法の神秘

夕方、ラトゥールに到着しました。

 魔法都市ラトゥール。

王国の魔法ギルドの総本山があるこの街はそう言われている。


 辺境から王都までの中継地点でもあり、どうやら宿場町としても栄えているようだ。


「ようやく着きました、久しぶりにベッドで寝れますね」


 この街で一泊し、また明日には王都に向け向かわねばならないが……


 宿の方はギルドが手配済み。

宿泊費用もギルド持ってくれる。

だが、途中で倒した魔物の素材も、ギルドの取り分となるのだ。


 戦争は儲からない。

冒険者の共通の認識である。


「タダで泊まれるなんて、ラッキーだな!」


 ダニエウ達を除いて。

お前ら、もう少し生きるという事を真面目に考えろ!


「だって旦那、生きてるだけで丸儲けだぜ!」


 さ◯まか!


 明日の朝の集合場所を聞き、各自解散となった。



 修平は、この街にいるという女性に用がある。

ナタリーから手紙、というか紹介状を渡されてるからだ。


 あとは、アメリアから貰ったフロッグヒュドラの魔石だ。

死ぬ思いまでしたのだからといって、彼女が渡してくれた。

本当はギルドの取り分になるのだが……


 リリアも分かってはいるが、見逃してくれている。

犠牲者をゼロで切り抜けたのだ。

感謝の気持ちもあるのだろう。

ありがたいことだ。


 大きさはこぶし(大)くらいある。

ワイバーンの魔石も見せてもらったが、この魔石の半分よりも小さかった。

この大きさなら……凄く、高く売れるそうだ。じゅるり。


 ただ魔石は魔道具作成にも充てられる。

このサイズだと何ができるのだろうか。

死にかけた故に、かなり迷うところである。


 強い武器、特殊な鎧、サポートできる小道具。

色々作れるらしい、手札はあればあるだけ困りはしないだろう。


 とりあえず、修平は女性のいる館へと向かう事にした。


 場所はナタリーに聞いていた。

どちらかといえば街の外れに位置するだろうか、大きさはそれなりなのだが、ひっそりと佇む建物だ。


「ここかな、すいませーん!」


 修平は呼び鈴をならし、暫く待つ。


 すると、紹介状が光りだした。


 急にドアが開くと一体のゴーレムが顔を出す。


 ビクッ!


 その姿に修平は驚いた。

顔はのっぺらの人型なのだが、体が動物の猫なのだ。

そのゴーレムに、くいっと手招きされる。


「お邪魔しま〜す」


 修平は、おそるおそる建物の中に入る。


 中は真っ暗だと思っていたら、いきなり館の灯りがついた。

ゴーレムはひょこひょこと階段を上がり、二階へと行く。

大きな扉の前で止まると、前足で器用に、コンコンと扉を叩く。


「どうぞ」


 声がかけれたので、修平は扉を開け、部屋の中に入る。


 そこにいたのは妖艶な大人の女性だった。

眼鏡がとても似合っている。


「ふふっ、日本人なのね。私の名前は矢吹 梨華。どうぞよろしく!」


 おぉっ、美魔女! ぜひお近づきに!


 突如、背筋がゾクリとする。

後ろを振り替えるが、誰もいない。


 ダイジョウブダヨ……ソンナユウキナイカラネ……

誰にかはわからないが、言い訳するおっさんなのであった。



「ナタリーから話は聞いているわ。大変だったわね……」


 椅子を勧められたので、座る。

すると、先程とは違うゴーレムが、修平にお茶を運んできた。


 今度は純粋な人型だ。

ペコリとお辞儀をして去っていく。

お茶汲み人形かな?


「さて、何が聞きたい? 私の知っている事なら、教えてあげれるわよ!」


 聞きたいことは山ほどある。

勇者の事とか、魔法や異世界の事とか。


「そうね、では順を追って話をしましょうか……」


 まずは勇者の事から、と、梨華は話し出す。


 最初は港街である、ヘレナへと現れたらしい。


 丁度そのころ、海には大型の魔物が多数出現しており、とても困っていたそうだ。

それを勇者の男が圧倒的な力で退治した。


 ヘレナの領主は勇者を歓迎し、王都へと紹介したそうだ。

最初は半信半疑だった王も、もたらされた魔物の素材、魔石。

そして、その実力を目の当たりにし、勇者を王都に迎えいれた。


 だが、問題だったのは勇者の女癖だ。

まずは領主の娘を手込めにしたと思ったら、次から次へと女に手をだす。

なまじ力がある分、誰も文句を言えず、王までもが容認した。


 それをチャンスと感じたのだろう。

第一次獣神戦争以降、禁止されていた亜人の奴隷を得る為、一部の貴族が勇者へと取り入り、戦争を起こすという暴挙にでたのだ。


「前回の戦争前に連れてこられ、隷属された者や。今は密輸という形で、亜人の奴隷はいたのだけれど……」


 人間の欲望は限りない、か。

やれやれ、頭が痛くなる話だ。


 俺TUEEEEからのハーレムか。


……


…………


 う、うらやましくなんてないんだからね!



 暴挙を止めようとした貴族もいた。

しかし、幽閉され、その中には殺された者もいたそうだ。

話だけ聞くと、無茶苦茶な話だな。


「ナタリーから聞いた、カイって方はどうしたんです? ナタリーの話から察するに、そんな事を許しそうに無いと思いますけど……」


 梨華は首を横に振る。


「タイミングの悪い事に、カイは共和国側で会談中だったの。

悪い貴族からすれば、絶好のチャンスだったわけね……」


 起きてしまった事はもうしょうがないが……


 しっかし、勇者よ、もうちょっと考えようよ!

ダニエウって奴みたいになっちゃうよ!


「カイは共和国に捕まったわ。それはそうよね、相手からすれば会談中に戦争をしかけられたのだから」


 状況は最悪だな。


 獣王レオニアルは義に厚い人物なので、おそらくは殺されてはいないであろうとのこと。

カイとの連絡は、未だに取れていないそうだ。


 勇者は王都で豪遊暮らし、たまに前線に出て、戦場で暴れるお仕事。

奴隷もはべらして、さらにハーレム……


 死ねばいいのに……


「ちょっと! 心の声がもれてるわよ……」


 まぁ落ち着こう。

冷静だ、俺は冷静だ。

最近、自家発電もできていないが、俺は冷静だ!


「だから、心の声が漏れてるってば!」


 元気だな、おっさん。


 閑話休題。



「まぁ勇者に関してはそんなところね………」


 梨華はこちらを見つめる。

なにやら瞳が潤んでいる。

なんだろう? 少しチリチリする。

危険とはまた違う、修平にとって初めての感覚。


 こ、これはワンチャンあるか!?


「面白いスキルね、見たことないタイプだわ」


 違った……


「これをやると、かなり目が乾くのよね」


 どうやら、鑑定紙に準ずるスキルを持っているらしい。


 わ、わかってたんだからね!


 シリアスになれないおっさんなのであった。


「ちょい運って何かしら、ゲージがいまほぼゼロね」


「む、前は30はあった筈……」


 その間に起きたのは……

ヒュドラ戦で死にかけた事が理由なのだろうか? 

常に確認はできない為、はっきりとはわからない。


 確かに、今まではなにかしら上手くいっている気がする。


 最初、ゴブリンの巣の近くに転移し、危険な森にいながらも無事だった。

財宝を見つけて、返済もかなり進んだ。

フロッグヒュドラに殺されかけながらも助かった。


 なにかの理由でゲージが貯まり、どういう基準はわからないが、使うと消費される。


 そんな感じだろうか……


「生存本能、これも見たことないわね。異世界人は変わったスキル持ちが多いのだけれど……」


 梨華は考え込む。


「あとは土魔法、風魔法と」


 普通は他の人のステータスなんて見えない。

なんだか、丸裸にされているみたいで少し恥ずかしい……


「これも文字化けして読めないわ、気になるわね」


 最後の文字化けは、やはり読めないらしい。


「わからないのは気にしてもしょうがないわね、他は? 何かない?」


「こんなのがあります、返済ボックスオープン!」


 ビクッ!


 梨華は驚く、それも仕方ない。

いきなり目の前に、でかい箱が現れたのだ。


「何……これ? これってアイテムボックス?」


 やはりこの世界にも、アイテムボックスはあるのだろうか?


 とりあえず、修平は今までの経緯を説明する。


「ビックリね。ナタリーからの話では、ちょっと分からないことが多くてね。帰れるってのも初めて聞いたかも……」


 梨華も最初は帰りたいと思っていた。

しかし、異世界に来て既に二十二年。

今さら戻っても、という感じらしい。


 いきなり拉致されたようなものか……

梨華がいなくなった当初は、世間で騒がれたのだろうか?

あまりにも昔の事なので、まったく覚えてはいないが。



「興味があって色々調べててね、神話とか過去の異世界人の話とか」


 過去にも異世界人と思われる人は、度々現れてるらしい。

だが、生きて話に残る人は少ないそうだ。


 私達は運がよかった、と梨華は言う。


 最初、梨華はこの街に、カイはエルフに保護された。

だが、もしかしたら他にも来ており、既に亡くなっている人がいるかも知れないという。

命が軽いこの世界では、確かにありえる話だ。


「神話とかも気にはなるんですが、魔法について細かく教えてもらっていいですか?」


 修平はイメージだけで魔法を使っているが、他の人は魔法を使うとき、呪文を詠唱しているのだ。

これは、"異世界人あるある"なのだろうか?


「とりあえず、私だけ見るのはフェアじゃないわね」


 そう言うと、梨華は一枚の紙を出してくる。

そこに書かれていたのは、梨華のステータスだった。


矢吹 梨華 42


力   120

精神  483

器用  321

体力  150

魔力  595


スキル 火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、回復魔法

並列思考、魔力ブースト、鑑定、魔女の嗜み


「おお〜、見事に魔法特化!」


 42歳か、そんな歳には見えない。


「魔女の嗜みというのは、魔物を倒すと人は魔素を吸収するでしょう。それが増幅され、吸収されるみたいなの」


 ピチピチブーストか。しかし凄い。


 魔法を5系統も使えるのか、魔女っていうより、これだと賢者だ。


梨華の話では、そもそもこの世界の魔法は、精霊に呼び掛け、特殊な現象を起こす、というものらしい。


「精霊魔法ってエルフが使うものでは?」


 修平は思う。

アメリアが使う魔法は、自分達とは桁が違う気がする。


「私達はそう思いがちなんだけど……」


 精霊に対し、呪文で語りかけるか、直接語りかけるかの差だそうだ。

途中の行程がスムーズにロスなくできれば、それだけ威力も上がる。

エルフ達が強いのはそういう理由がある。


「まぁアメリアは別格だけどね、あの子は始まりのエルフの紋様(もんよう)持ちだから」


 さらっと凄いワードが出た。

始まりのエルフか……ペッタンコだけど。


 ガンッ!


「あ痛っ、いきなり"たらい"が落ちてきたぞ!」


 ベタか!



 あれ? 梨華さん、なにやら目が怖いんですけど……


「それでねぇ〜、不思議の塊である君にはねぇ〜、色々実験に付き合ってもらおうかな、ふふふ!」


「あれ? そんなキャラでしたっけ?」


 梨華は、どうやら知識欲が旺盛らしい。


「大丈夫、大丈夫! 君のギルドが泊まっている宿には、ちゃんと連絡しといたから!」


 パチンッ!


 梨華は指を鳴らす。

すると、二体のゴーレムがやってきて、修平の両脇を掴む。


 な、なにが大丈夫なの?

今から俺の身に何が起こるの?

明日の朝には出発するんですけど?


 イ、イヤァ〜〜〜〜〜!


 おっさんは更に色々出来るようになったのだった。


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