18話 沼越え、山越え、ラトゥールへ
アメリア参上!
「ア、アメリアさ〜ん!」
どうやら、助かった様だ。
「危なかったね〜、ギリギリ! 里に戻る途中だったんだけど、逃げてくる冒険者に会ってね! 修平が闘ってるって聞いたから急いで駆けつけたよ!」
えっへん! アメリアは胸を張る。
まぁ、胸はあまりないのだが……あたっ! 叩かれた。
「ありがとうございます。正直危なかったです。来てくれなきゃ死んでました……」
アメリアはウンウンと頷く。
「フロッグヒュドラか〜、"昔は良く王都で見かけた"って長老から聞いてたんだけどね〜」
「え、あんなのが沢山いるの?」
それは勘弁してほしい。
「違うよ〜、もっとかわいいやつ」
アメリアの話によると、普通のフロッグヒュドラは1メートルに満たないサイズで、昔の貴族のペットだそうだ。
何度切りつけても、中心にあるコアを破壊されない限り、全て再生する。
貴族の鬱憤を晴らす為だけに、魔法錬金術で品種改良されて作られたカエルのキメラ。
だからなのか、毒や、炎のブレスとかは吐かないそうだ。
確かに、ペットがブレスを吐いたら危なすぎる。
ポ◯モンかよ!
それが、この湿原に捨てられ、長い期間かけて成長した。
今では湿原の主になってしまった。
元の世界でもそうだが、まさか異世界でも捨てられたペットの問題が発生してるとは……まったく迷惑すぎる!
「五百年程前らしいからね〜」
ご、五百年かよ!
……軽いなエルフ。
それにしても、ヒュドラは長生きだな。
つるは千年、亀は万年、ヒュドラは何年生きるのだろうか……
暫くすると、みんな元の場所に戻ってきた。
「良かった。修平さん無事で……」
「旦那〜、旦那ならやるって……信じてたぜ!」
なんだその間は、ダニエウ! いや、無事じゃないし!
急遽、アメリアがこなかったら死んでるからね!
なんでも、カエルの姿を見かけたら、散り散りに逃げるというのが、この湿原のルールらしい。
「いや、俺は知らないし、まったく聞いてないのだけど……」
誰かは食べられるかもしれないが、他の者は逃げ切り、生き残ることができるという。
結構、シビアな方法だな!
しかし、湿原の主はアメリアが倒した。
これからは心配も無いだろう。
「何体かいるみたいですから、次は気を付けてくださいね♪」
何体もいるんか〜い!
ペットのポイ捨て駄目、絶対!
馬車の荷物を確認し、改めて進む一向なのであった。
アメリアは、凄い勢いで川を逆流して行った。
相変わらず嵐のような人、エルフである。
暗くなる前に、湿原を抜けることができた。
生きてるって、素晴らしいね!
ほどなくして野営地に着くのだが、泥や汗で匂いもキツい。
「なんとかできないもんか……そうだ!」
修平は土魔法を使い、五右衛門風呂を作ることにした。
川は少し離れた場所に流れているので、その近くにポンプを作り、瓶に水を張る。
「自分でやっててなんだが、なんでもありだな土魔法……」
薪はあるけど、そこまでの数がない……
修平はしばらく考え、焚き火に石を入れ、熱する。
瓶をもう一つ作り、熱した石を水の入った瓶に入れ、石により暖まった水を、もうひとつの瓶へと流し込む。
温度調節と手間はかかるが、元の世界の五右衛門風呂も、そんな感じだと思う。
とりあえずは、これでいいんじゃないだろうか。
「汚れを軽く落として、と」
ザップン!
「あ〜極楽、極楽!」
アイアム、ジャパニーズ! アイラブ風呂!
「感無量だな……星が綺麗だ〜!」
修平はしばらく空を見上げながら、風呂に入っていると、リリアが様子を見に来た。
「修平さん! いったい何をしてるんですか?」
「お風呂に入ってます!」
リリアは首を傾げる。
異世界でのお風呂は、一般的ではない。
この世界の住人からすれば、ここまで労力をかけてまで、風呂に入る意味がわからないのだろう。
なんてもったいない!
「へ〜〜」
リリアは羨ましそうに、風呂に浸かっている修平を見ている。
体は軽く拭いたとしても、気持ちは悪いのだろう。
リリアには一通り説明をして、おっさんの香りがする残り湯だが、入るかを聞いてみた。
「いいんですか?」
ええ、いいんですよ!
ぐへへ、ラッキースケベ……
リリアには、外から見えなくなるように、壁から、仕切りから、全て作らされました。
キラリ!
これは涙じゃない! 星が瞬いただけなんだ!
結局、他の冒険者も交代で入ることになった。
風呂上がりのリリアが、皆にこの話をしたのだ。
みんな、歓声をあげ、湯船に浸かっている。
"アイラブ風呂"が浸透するといいなぁ、と思うおっさんなのであった。
焚き火を絶やさない為の薪は、みんな喜んでわけてくれました。めでたし、めでたし。
次の日。
「さっぱりしたので気分がいい。やはり風呂は最高だ!」
これだけ人数が多いなら、テントを張って、スチームサウナもありだな、と。
色々考えるおっさんなのであった。
今日は山越え。
アメリア並みの風魔法、水魔法の使い手ならば、川を下って行くこともできるのだろう。
だが、無い物ねだりをしてもしょうがない。
「これ、トンネルとか作れば楽になりそうだけど……」
そうはいっても、安全管理が難しいかもしれないが……
馬も坂が大変そうだ。かなり力を入れて、登っている。
「トンネル? よくわからないですけど、ここには大型の魔物は居ませんからね! 坂がちょっとキツいくらいですね」
リリアは今日も元気だ。
修平はうらやましく思う。
でも、最近、君はそんなフラグ立てまくりなんで……
「下がれー、ワイバーンがでたぞー!」
なんなの、このコント感。
修平は空を見上げる。
そこには、三匹のワイバーンがこちらの様子を伺いながら、悠々と旋回している。
二匹は少し小型なので、親子なのかもしれない。
リリアの話によると、このワイバーン、ブレスは吐かないタイプで、しっぽの先に毒トゲがあるそうだ。
生き物を毒で弱らせて、生きたまま補食するらしい。
なにそれ、怖い。
飛び道具はクロスボウしかない。
故に、ワイバーンが降りてこないと、こちらからはなかなか手が出せない。
魔法も距離があり威力が弱くなる。
空はあちらの領分なのだ。
お互い、膠着状態が続く。
「らちがあきませんね、警戒しながら進みましょうか」
リリアはそう言うが、うーん、なにかいい手がないものか……
こちらの人数が多い為、ワイバーンは襲ってこない。
しっかりとついては来てはいるのだが……
このままだとら馬がストレスでキツそうだ。
馬の疲労が目に見えてひどい。
修平は思いつく。
なにかの漫画で見たことがある。
圧縮した空気で石弾をとばして、敵を打ち落とす。
あれならば砲台と弾を土魔法で、圧縮して、発射をする風魔法。
二行程なので、多分できるはず。
ジャーン!
修平は腕にはめてみた。
「おぉ、カッコいい!」
色も黒いメタリック調にしてみたのだが、なかなかいい出来である。
横でリリアが"また何かやってるよ"、という冷たい視線を送ってくるが……
ロマンだよ! そんな目で見ないで!
「いっくぞー!」
砲台と弾の間に圧縮した空気を固定する。
ためて、溜めて、タメテ、発射!
結果から言うと、一番大きいワイバーンの羽を突き破り、一体は地面に落とすことに成功した。
落ちたワイバーンは、他の冒険者達により始末された。
残りのワイバーンは逃げていったのだが……その代償は大きかった。
「痛い、痛い、痛い! 助けてリリアたん!」
修平は、反動で腕が折れてしまった。
ヒーラーが回復魔法をかけてくれている。
「あー、そういえば砲台を地面に固定すれば良かったのか……」
相変わらず、どこか抜けているおっさんなのであった。
山越えも終わり。
それからは何事もなく、順調に行程を進めることができた。
いよいよ、魔導師の街ラトゥールに到着である。
チートなのはアメリアでした。