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17話 フロッグヒュドラ

 湿地帯、ドランの街の北東に位置する、広大な湿原。


 王都まで行くには避けて通れない場所でもある。


 迂回しても行けなくはないが、北の山脈か南の渓谷、どちらも大型の魔物の群生地帯を通ることになる。


 こちらは総勢60名の冒険者の団体なのだ。

臆病な小さい魔物は、そもそも近寄ってもこない。

数は脅威だ。魔物も本能で、それは理解しているのだろう。


「そろそろ涼しくなってきたな……」


 ドランの街は比較的南に位置するため、冬もあまり雪は降らない。

だが、王都やヘベル、ガズはそれなりに積もるそうだ。

雪の中での行軍はごめんだ。

早めに王都へと着かないといけない。



「手柄をたてて、英雄王におれはなる!」


 ダニエウは相変わらず元気だ。

この行軍には、もちろん三馬鹿トリオも来ている。


「税金も安くしてくれるらしいし、いいことづくめだな!」


 おい、モブA。

そんな額、真面目に働けばすぐに払えるぞ。


 ダニエウ達はこの中でも、浮いている。


 それはそうだろう。

本当は誰しもが、戦争など行きたくはないのだから……


「旦那なら魔法を使って、凄まじい数の功績を上げれるだろ!」


 確かにハリケーンを使えば、かなりの被害を敵に与えることも可能だろうが……だが、その後はどうする?

体がフラフラな状態で前線にいたら、それこそいい的だ。


 それに、獣人とは本当に敵なのだろうか?

外の形が違うだけで、人と何が違うのか。

なにより、大量虐殺なんて嫌なのだ。


「俺は"ぼそぼそ"とするのが好きなんだよ」


 勿体ないって感じで、手を広げ、ダニエウ達は前の方に行く。


 やれやれだ。


 湿原に入って間もなく、前から怒号が聞こえる。


「アシッドタートルだ!」

 

 膝宛とかの材料の元か。


 なんだかでかくないか? 3メートルはありそうだ。

異世界ってデカイのがテンプレなのだろうか?


 リリアが近づいてくる。


「修平さん、あれで普通サイズですよ。口から吐き出す酸は広範囲に撒かれるので、こちらにも飛んで来るかもしれません。気をつけてください!」


 しっぽが以外に長く、振り回しによる攻撃も危険だそうだ。


 修平は盾を確認し、万が一に備える。

今いるのは隊の中心、まん中ぐらいなのだが、前線には行きたくないのだ。

小心者なので……


 流石にここまでは来ないだろうと思っていた。


 あれ? なんか飛んで来るんだけど。


 修平はとりあえず、盾で受ける。


「ぐふっ!」


 ダニエウが飛ばされてきた。


 おいおい"英雄王におれはなる"じゃなかったのか。

そんなんじゃ"ワン◯ース"も見つけられないぞ!


 冒険者達は湿地のぬかるみに加え、吐いてくる酸にも苦戦しているようだ。


 誰かが魔法の火球を放つが、アシッドタートルは首を引っ込め、火球を甲羅でうける。


 魔物にしては賢い。

敵の動きは速くないが、どの攻撃も決定打に欠けている様だ。


「修平さん、なんとかなりません?」


 リリアたん、え、俺? うーん……下からひっくり返してみるか?

見た感じノ◯ノコみたいだし。


二本の土柱(ツーニョッキ)!」


 右の前足と後ろ足周辺に高い土の柱を作り、アシッドタートルを一気に跳ね上げる。


「更に二本の土柱(ツーニョッキ)!」


 一回転しないように、ひっくり返ったところで動きを止める為、別の土の柱を作る。

アシッドタートルはひっくり返ったまま、土の柱に囲まれた。

足掻いてはいるが、元に戻る事もできず、身動きが取れない。


「うん、完璧! ノコノ◯の完成だ!」


 しかし、凄いなこの剣。

魔法の発動までが、前よりもかなりスムーズになっている。

流石、高かっただけはある。金貨九枚、九十万だよ!


 周囲は静まり返っている。

修平は、ふと、周りを見てみる。

すると、皆、唖然としているのだ。

無理もない。

今まで十人がかりで戦っていた。

それでも、かなり苦戦していたのだ。


「今です! 甲羅の裏は柔らかい、皆さんチャンスですよ!」


 リリアが声をだすと、冒険者たちは我に返り、アシッドタートルに止めをさす。


「流石ですね!」


「あ、はい……」


 うーん、なんかここにきてチートっぽいな。

本当は、あまり目立ちたくないんだけどね……

え、待って! 前線配置なんてイヤァ〜〜〜〜!


 修平はダニエウ達と一緒に、最前線に立たされましたとさ。



 湿原の中にも野営地はある。

しかし60人もの団体だ、かなり狭い。


 虫も多い、修平はなかなか眠れない。

久しぶりにスマホの電源をつける。

イヤホンを着け、音楽をかける。


 家族は今頃、何をしているのだろうか?

お父さんは劣悪環境で単身赴任だよ、悲しいね。


 思いに更けながらも、夜は過ぎていくのであった。



 二日目。


 今日中に湿原を抜け、次の野営地まで行く予定だ。


 しかし、泥臭い。あ〜、お風呂に入りたい。

異世界は温泉とかないのだろうか?


 修平は昨日に引き続き、今日も前線に立たされている。

リリアも一緒にいてくれるのが、せめてもの救いだろうか。


 みな泥まみれで、体力も奪われていく。

周りを見ると、限りなく士気も低い。

こんな状態で魔物に襲われたら……ヤバイな。


「ひさびさ、ですけど、しんどいですね……」


 簡単な作りの街道もあるのだが、馬車を最優先にするので、他の者はどうしてもきつくなる。


「時期が悪いですからね、早く抜けないと……湿原の主が出てくるとヤバいですから……」


 なんでも湿原の主は、冬眠前に活発に動き出すのだとか……


 リリアたん、それ、フラグって言うんだよ……


「おいっ、あれを見ろ!」


 冒険者の誰かが声を上げる。

やはり、フラグはビンビンだった。

修平はその方向を見てみる。


「ん、大きなカエル? あまり強そうじゃないのだけど?」


 しかし、何故かみんな散り散りに逃げ出す。


 馬車もほったらかしだ。

リリアも逃げる。ダニエウ達も逃げる。


「なんなの、何が起きるの? 誰か何か言ってくれ!」


 修平が戸惑っている間に、一人、ポツンと残されてしまった。


 暫くすると……


 ザパァッ!


激しい水しぶきが上がり、視線を遮る。

すると、元の場所にはカエルがいなくなっていた。


「何が起きた?」


 首裏がチリチリする。

生存本能が危険だと知らせる。

なんか……ヤバい。


 修平はすぐさま、自分の足元に磁石盤を生み出す。

ブーツの裏には、既に同じ極の磁石を装着してある。


 修平は磁石の反発力を上手く使い、空高く飛び上がる。

更に風の魔法で、その場を離れる事に成功する。


「練習はしておいたけど……高い! 怖い!」


 今まで自分が立っていた場所に、何かが凄まじい勢いで食らいつく。


「なんだあれは?」


 そこに見えたのは顔がカエルの八本首のヒュドラだった。

ヒュドラは修平を獲物に見据え、八本の首を全て修平に向ける。


「こいつがこの湿原の主なのか?」


 様々な色のカエルの首。毒々しい模様の皮膚。

口からは長い舌がチロチロと、更に奥には短いが、鋭い牙が幾重にも見える。


 修平はフワリと地面に降り立つ。


「どうするのが正解なんだ?」


 先ほどのスピードを見る限り、逃げ切れるとも思えない。

磁石パワーで、空から逃げてもいいが、追いつかれない保証もない。

そうなれば、確実にアウトだ。

っていうか、みなさん。

おとりに残して、一目散に逃げたよね……


「やるしかないか、すっごい嫌だけど」


 出発前の準備期間に、修平は色々試していた。


 魔法を発動する距離、場所、威力の調整、効果が存分に発揮できるよう、必死に訓練した。

それは、"死にたくない"の一心ではあったが……


 ヒュドラの大きさは、おおよそ八メートルくらいか。


 修平は試したが、同時には二つの属性の魔法は使えなかった。


「ばらまきマグネット!」


 そこら中に、先ほどと同じ、同極の磁力のポイントを作る。

敵に直接飛ばす魔法は、敵から離れるにつれて威力が弱まってしまう。

だが、これは設置型だ。

離れていても、性能はほとんど変わらない。


「次、風ノコを剣に! チェーンソー!」


 魔法鉱を含んだ刀身が、風のノコギリを纏い、回転する。


 この距離で風ノコを飛ばしても、ヒュドラには、さほどダメージは通らないだろう。


 でもこれなら!


「問題は、接近しないといけない事なんだよね……」


 しかし、覚悟を決めるしかない。


 すーはー、すーはー、修平は深呼吸をする。


「俺はできる、俺はできる!」


 自己暗示でも、なんでもいい。無事に帰れるなら!


 修平はフロッグヒュドラに向かって、持てる限りの勇気を振り絞り、飛ぶのであった。


 ザンッ!


 どうやら、ヒュドラの首の太さは、それほどでもないみたいだ。

純粋な力の数値だけなら、修平はナタリーを越えている。

体を回転しながら、弾丸のように飛び、切りつける。

その一撃で、一度に二本の首が落ちる。


「よし、いけるか?」


 しかし、やはり"ヒュドラあるある"なのか、暫くすると新しい首へと生え替わる。

繰り返し、繰り返し、飛ぶ。

修平は首だけでなく、体も狙おうとするのだが、首に阻まれてしまう。

首も何本かは一気に切れるのだが、そこまでだった。


 修平の飛ぶパターンも、ヒュドラに徐々に覚えられ始めている。


「勝てる道筋が見えない。回復も無限のパターンか……」


 何度切り落としても、すぐに再生する。

ゲームなら、なんてクソゲーだろうか。


 修平はもう一度近づき、切りつけようとした瞬間、一本の首の口から伸びた舌が、修平の足に絡み付く。


 カエルのように柔軟な舌は、修平の体を振り回し、そのまま地面へと叩きつける。


「ガバッ!」


 ギリギリで頭はガードできたが、修平は意識がとびそうになる。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい!

なにかないか、なんでもいい。


 しかし、焦りと痛みで思考も覚束ない。


 ヒュドラの舌がチロリとこちらに向けれる。

まるで、"お前はエサ"だと言わんばかりだ。


 なにがチートだよ、調子に乗ってた。


「全然、駄目じゃないか……」


 世界には、上には上がいるのだ。

所詮この世は弱肉強食、生きるか死ぬか。

ヒュドラの八本の首が、"お前の体を食い散らかしてやる"と言わんばかりにぐねぐね動く。


 そして、ヒュドラはとうとうしびれを切らしたのか、修平めがけ、襲いかかる。


「全額は返し終わってないけど、これは仕方ないか……」


 頭がガンガンする。

耳もあまり聴こえない。

修平は目を瞑り、静かにその時を待つ。


……


「エアリアル」


……あれ?



 いくら待っていても、ヒュドラに喰われる気配がない。

修平はおそるおそる、瞼を上げ、目を開く。


 そこには、首だけでなく、体を粉々に刻まれたヒュドラの死体があった。


「だいじょーぶ?」


 修平の目の前には、アメリアが立っていたのだった。


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