1話 現状確認って大事だよね
いきなり異世界に転移したおっさん。
無いものづくして困り果てるが……
「ステータスオープンって、何もでないか。仕方ない、まずは水、できたら食べ物も調達しないと……」
軽く肥満であるがゆえに、すぐに餓死とはならないだろう。しかし、人が生きていく上で水は必須だ。
下をみればキノコのような物、上を見上げれば、木には何か果物らしきものもなってはいるのだが。
もし毒があったら、完全にアウトだ。
日はまだ高いが、暗くなる前にはなんとかしたいところではある。
しかし、どこに向かうにしても、方角さえもわからないのだ。
「そうだ! スマホの中にコンパスアプリがあったはず。使えるかな?」
ぐーるぐる……
「ですよね〜、そもそも磁力とかがあるかわからないし、とりあえず歩くしかないか……」
修平は自分の持ち物を確認してみる。
「リュックの中は、モバイルバッテリー、仕事の書類。これは、尻くらいはふけるだろうか? おっ、ソ◯ジョイが……」
ソイジョ◯には紙が貼ってある。
『ダイエットの為、これからの昼はこれ一つにします、美鈴』
妻はかなり天然なのだが、これは狂気だろうか?
お父さんは必死に頑張って、仕事をこなしているのだが……
当たり前の事だが、勿論、戦闘用の物などなにもない。
「ファンタジーで定番のモンスター。今、出てきたら俺は終わりだな。スマホの電源は一応切っておくか。後で何かに使えるかもしれない……」
とりあえず、一定方向に向かって歩いてみる。
木々には軽い傷をつけ、一応の道しるべにはするのだが……
「うーむ、独り言が多い……」
おっさん、苦笑いである。
「誰かいないかな〜、あっ、これ使えるか?」
修平は"ひのきの棒"を装備した。
「攻撃力が1しかなさそうだ。杖の代わりにはなるかな?」
次に、尖った棒を見つけた。
修平は"ひのきの槍"を手に入れた。
「それでも攻撃力が3くらいしかなさそうだ」
おもいっきり何かを殴ったら、簡単に壊れそうだ。
歩くこと1時間。日の高さから見て、今は昼頃だろうか……
カン……キンッ……カンッ……
遠くで何かがぶつかり合うような、甲高い音がする。
「知的生命体? だといいが、いいのか? わからん。捕まって奴隷とか洒落にならないぞ」
しかし、現状、なにもわからない上、解決策もない。
修平は音のする方へと歩いて行く。
ひっそり隠れながら、実は超ビビりなのである。
そこで見えたものは、緑色の人形の怪物と、厳つい男達3人が争っていたのだ。
3人の男たち周りを見てみると、10体ほどの緑色の怪物が、青い血を流して倒れている(かなりグロいのだが……)。
男達の方も無傷ではなく、体のあちらこちらに細かい傷が出来ている。
「もうちょいだ! お前ら、踏ん張れ!」
男達の方が疲労はしてはいるものの、形勢は優勢だろうか。
修平は武器といっても、こんな物しか(ひのきの棒と槍)装備してない。
故に、茂みに上手く隠れて、戦闘を見ている事しかできない。
「お頭、な、なんだか体が……」
お頭と呼ばれた男が、新たに一体の緑色の怪物を切り裂く。
「くそが! 毒かよ、ふざけやがって……」
時間にして、おおよそ十分くらいだろうか。
かろうじて、戦闘は男達の勝利で終了した。
「人のほうが勝ったのはいいんだが、お頭って"あれ"だよな」
どう考えても山賊とか盗賊の頭の呼び名である。
ベタか、ベタベタである。
ドサッ!
どうやら男達は毒が体に回り、倒れてしまった様だ。
「そういえば毒とか言ってたもんな……」
人道的には助けるのだろう。
だがその後、檻に閉じ込められ売られるか、"ありがとよ"とか言われて、真っ先に殺される未来しか見えない。
修平の方針は"命大事に慎重に"である。
「あ、動かなくなったぞ……」
ビビりながらも、そろりそろりと近づいてみる。
ヒューヒュー……
か細い息づかいが聴こえてくる。
だが、今にも命の灯火が消えそうになっている。
助けようにも、毒消しもない、回復もできない。
しょうがない、どうにもできない。
と、言い訳ばかりが頭に浮かんでくる。
しばらくすると、男達の息づかいが聞こえなくなる。
修平はおもいっきりその場で吐いた。
「げぇ、ふぅふぅ、ううっ。明日は我が身かも知れない。どうしよう。どうしてこんなことになったんだ……」
結局のところ、行く末も何も解決していないのだ。
たくさんの死体を前にして、ただただ立ち尽くすおっさんなのであった。