15話 森のドラゴン?
次の日の朝。
修平は以前も訪れた武防具店にやってきた。
「もう少し、装備のグレードを上げるべきだろうか……」
今回はお金にも少し余裕がある。
「いらっしゃいませ〜、何かお探しですか?」
以前もお世話になった、できる店員が現れた。
丁度良い。今回もお世話になるとしよう。
「武器を新調しようかと、あと何かあればとおも…」
「予算はどれくらいですか!」
シンプルに勢いが凄い。
「金貨十枚程でおね…」
「わかりました!」
「……はい」
おっさん、言われるがままか。
店員は、奥に素早く駆けていく。
「ちょっと待って、なんだかたくさん持ってきたのだけど……」
店員は、手に持ちきれないほどの武器や防具を持ってきた。
台車にいっぱい積んである。
まさか、あれ全部がそうなのだろうか?
「武器は以前はショートソードでしたが、魔法を使われると聞きましたので」
「ど、どこで聞いたの?」
やり手だとは思っていたが……情報が駄々もれだ。
「こちら、柄の中央に魔力発動媒体も埋め込み済みのブロードソード、鞘とセットで金貨九枚! 刃の方も魔法鉱の合金という、こだわり仕様! これを買わない手はありません!」
「い、いきなり金貨九枚!」
全部で金貨十枚程って言った筈なのだが……
「鎧は前回から変わっていないですね、ならばその盾の革と同じ材質である、ロックリザードンの革で作られた鎧。なんと金貨五枚!」
「ちょっと待って! 予算を既にオーバーしてます!」
しかし、店員の勢いは止まらない。
「肘と膝宛は、今着けている革のやつから、アシッドタートルの素材を使ったものに替えて、金貨一枚!」
「え、えー!」
この店員は、まったくといっていいほど、修平の話を聞いてくれない。
強引に話を進めていく。
「合わせて金貨十五枚の所、なんと金貨十三枚! さて、どうしましょう? 今しか買えませんよ、どうしますか?」
「……か、買います」
コトワルヒマモナカッタヨ……
シカタナイヨネ……
イキオイガ、スゴスギテ……
ノーと言えない日本人、それが、おっさんなのであった。
「毎度あり〜〜〜!」
少し憔悴した様子で、修平は店を出る。
物がいいのは確かなのだが……お金が……お金が。
修平はその足でギルドに向かう。
ランクが一つ上がった事で、前より受けれる依頼も増えたはず。
修平は何気なくボードを眺めていると、リリアに声をかけられた。
「あ、修平さん! 装備新しくなってますね!」
そうなの、リリアたん! 酷い店員に買わされたの、慰めて!
「そういえばダニエウさん達が探してましたよ」
えー、どーでもいいんだけど……
「あ、噂をすれば……」
ダニエウ達、愉快な三人組がこちらへ向かって走ってくる。
「だ、旦那〜、助けてくれ!」
お前ら、昨日、それなりの大金持ちになっただろう。
「俺が知るか!」
「そんな冷たい事言わないで、お願い聞いてほしいっすよ〜!」
ダニエウのキャラが変わりすぎている。
こいつらはこんなだったか……
「いったい何があったんだよ……」
ダニエウがもじもじしながら喋りだす。
その後ろで、モブ達も、もじもじしている。
野郎のもじもじなんて誰得だよ!
「それが……ツケ全部払い終わってよ、酒場で飲んでたんだ!」
うん、昨日見たな……
「大金入った祝いに、全部俺の奢りだって言ったんだ」
なんか、先が見えたな……
「みんな無茶苦茶飲んでよ! お金が足りなくなっちまって、またツケになったんだ!」
お前、馬鹿なの?
「税金もまだ払ってねぇんだ!」
ねぇ、奴隷になりたいの?
お前は鉱山に直行する気なの?
「モブAは何だ?」
「俺も母ちゃんに借金を返して、残りの金を預けたんだ!」
お前もかよ! だが、普通だな……貯金は大事だから。
「今日、朝起きたら、母ちゃんがいなくなっててよ! "探さないでください"って書き置きが置いてあったんだ!」
どんだけだよ! 愛がないな!
お金は人を変えるのか……
「んで、モブBは?」
「俺はすぐに娼館に行ったんたな。そこでなんとか、ヴァニラちゃんのことを身請けはできたんだな……」
これまた、そのままの話なら、普通だ。
そのままハッピーエンドルートに直行じゃないか。
「ヴァニラちゃん、俺が寝ている間に出ていこうとしたんだ。聞いたら故郷に男が待ってる、行かしてくれないと死ぬって言うから……」
いい人か! それ、騙されてないか?
「で、俺にどうしろと? 俺も金はないぞ!」
三人は顔を見合わせる。
「まさか! 俺らもそこまで恩知らずじゃないぜ!」
どの口がそう言うのか……
「この依頼を一緒に受けてくれないか?」
「なになに、エルフの交易所ヤンバー、そこより北の森に未確認だがドラゴンの……」
「ドラゴンだったら、素材を売ってウハウハだぜ!」
馬鹿は一片死んでこい!
「あ〜、その依頼ですか。なんでもヤンバーに向かう途中、姿を見かけたらしいのですが……かなり遠くから見たので、はっきりとは分からなかったそうです。ギルドとしてもドラゴンの出現は無視出来ませんからね」
討伐ではなく、目標の確認の依頼であった。
この三馬鹿は討伐する気満々のようだが……
「旦那のすっげぇ魔法で、ドラゴンなんてちゃっちゃっと殺っちゃおうぜ!」
ダニエウ、頭、お花畑か!
ファンタジーで定番のドラゴンと言えば、でかい、硬い、強いというのが当たり前だ。
修平に自殺願望は無いのだ。
すると、リリアが上目遣いで、修平の手を握ってくる。
「修平さん! あなたしかいません! どうかお願いします!」
あざとい! あざといよ、リリアたん!
結局、修平は受ける事になった。
女性にここまで言われると、弱いのだ。
仕方ない、修平も男なので……
今回は取引ではない為、荷物はあまり持って行かない。
魔物よけを馬につけ、発見場所まで一気に行くつもりなのだが……
馬のレンタル代?
もちろん、全ておっさん持ちだよ!
前回の件でも、馬主さんに無茶苦茶怒られたよ!
今回は確認だけなんだから、ダニエウ達はいらないのではなかろうか。
「旦那と俺達は仲間、一蓮托生だろう!」
いいえ、貴方たちのは寄生と言うのです。
「馬代くらい、どこかで借りて用意しろ!」
修平はダニエウを突き放す。
「頼むよ、旦那! 信用無くて、もう誰も貸してくれねぇんだよ……」
既に末期かよ!
今日中に、前回も行った二日目の野営地まで行き、次の日に確認作業。
同じ夜営地まで戻り、一泊して、三日目には帰還する。
報酬は銀貨五十枚。
一人なら黒字だが、今回は赤字!
ちっきしょ〜! どうしてこうなったんだ……
時は進み。
「ここら辺か……」
以前、ドラゴンらしき物が発見された場所。
前の人のマーキングが木につけてある。
乗ってきた馬は、野営地にモブBと置いてきた。
守らないと、こ……ろ……とりあえず、きつく脅しておいた。
「でてこいや〜!」
頭が痛い。ダニエウ、お前は元気君か。
あたりを見回りながら、修平は慎重に先を進む。
「だ、旦那あれ……」
はっきりとはまだその姿は見えない。
が、体長10メートル位はありそうだ。
「あのサイズの魔物、他にもここら辺にいるのか?」
ダニエウ達は首を横に振る。
「俺らは見たことねぇ……」
最初の威勢はどうした?
まぁ、いきなり突っ込まれても困るのだが。
「もう少し、あれに近づいてみる……」
修平はこの場にダニエウたちを残し、静かに地面を駆ける。
あれは、まだこちらには気づいていない。
魔物までの距離、20メートルまで接近。
すると、ようやく気づいたのか、魔物の顔がこちらへと向く。
「……イグアナ……だよな? なんでこんなところに?」
イグアナ、見た目はまんまイグアナなんだが。
もしかしたら、この世界のドラゴンはこんな顔をしているかも知れない。
イグアナはちらりとこちらを見る。
だが、あまり興味がないようだ。
修平を無視し、植物をムシャムシャと食べている。
修平は確認の為、イグアナにもう少し近づいてみる。
「こんにちは!」
「はい?」
イグアナの背中には、一人の少女が乗っていた。
ドラゴンライダー? イグアナライダー?
修平のハテナマークをよそに、少女はゆっくりとイグアナから降りてくる。
「よいしょっと、この子は攻撃しなければ大人しいので。私、花梨って言います。歳は12才です」
やだ、かわいい。
黒髪、黒目の見た目は日本人。
顔は整っており、礼儀も正しい。
理想の美少女と言っても、過言はないだろう。
花梨に話を聞くと、彼女がエルフの里に保護されたという女の子だった。
イグアナの名前はいぐりん。
「そのまんまかい!」
修平のツッコミはスルーされたが、たまにこうして連れ出しては、外で餌を食べさせてるのだとか。
「でも、イグアナって流石にここまでは大きくならないよね……」
異世界あるある(転移して来たら、強くなる)は、連れてきた動物にも当てはまるのだろうか?
「エルフさんが言うには、"魔素が関係しているのではないか"と言ってました。私はいぐりんと抱き合ったまま、森に倒れていたらしくて……私が目を覚ましたら、エルフさんの里に保護されてたのです」
どうやら、彼女はこの森に転移したらしい。
その後、エルフに見つけられて保護。
少女が介護されてる間、いぐりんは外で勝手に餌を食べ、見つけた時には既に、この大きさだった。
いぐりんは大きくはなったものの、どうやら花梨の事を覚えていたようで、彼女の言う事をちゃんと聞くそうだ。
それならばとエルフに鞍を作って貰い、こうやって乗りまわしているそうだ。
アー◯(A◯K)か!
「旦那、どうなってるんだ?」
魔物? ではないなら、討伐の必要性はまったく無い。
これにて、依頼完了である。
「俺達の借金は!」
「知るか! 俺まで赤字だよ!」
この三人といると、修平は怒ってばかりなのだ。
血管が切れて、脳梗塞になりそうだ……
「だ、旦那、あれ……」
先程まで騒いでたのだが、急にダニエウの顔色が悪くなった。
いったいどうしたのだろう?
そこら辺に落ちている物を、"勝手に食べちゃ駄目"って言っておいただろう。
冗談はさておき、修平はダニエウが指を指している方を見る。
「トカゲ? いぐりんの仲間かな?」
いぐりん程ではないが、体はそれなりに大きい。
トゲトケがやけに多いが……
すると、ダニエウがぼそりと呟く。
「な、なんで、こんなところにバジリスクが……」
「なんだこれは、急に背中がゾクゾクする。嫌な汗が止まらない。なんだ? 目がひ……」
修平は咄嗟の判断で、花梨の前に立ち、盾の影で目を隠す。
しかし、ダニエウ達はまったく身動きが取れなかった。
二人は、まともにバジリスクの目を見てしまう。
するとどうだろう、徐々に体が石になっていく。
「だ、だんな、たすけ……」
「おかあちゃん、俺をおいてか……」
セリフの途中だったが、厳つい石像が二体出来上がってしまった。
いぐりんも石化したかと思われたが、バリバリ音を立て、石が割れて剥がれていく。
体は完全に元に戻っている。凄い!
いぐりんはバジリスクを敵と認識したのか、凄いスピードでバジリスクめがけ突っ込んで行く。
その光景は、見たまんま、怪獣大戦争だ。
修平は花梨を抱き抱え、戦いに巻き込まれないよう、いぐりんと距離をとる。
木をなぎ倒し、バジリスクは毒の吐息を吐く。
しかし既に、いぐりんには効かないようだ。
毒耐性を身につけたのだろうか……
徐々に戦闘はいぐりん優勢で進んでいる。
鉤爪がバジリスクの目を潰し、尾は腹を打ち、バジリスクの体を跳ね上げる。
しばらく時が経つと、バジリスクは動かなくなり、立っているのはいぐりんだけになっていた。
いぐりん、とても強いのね。
騒ぎを聞いて、エルフ達が駆けつける。
彼等はダニエウ達の石像もヤンバーへと運んでくれた。
エルフ達はバジリスクの血から血清を作り、ダニエウ達に使う。
すると石が剥がれ、ダニエウ達の体は元に戻る。
二人の顔の血色も良くなってきた。
エルフが言うには、体を壊されない限りは、そう簡単には死なないそうだ。
「あれ? 旦那、ここは?」
修平は、目が覚め、気がついたダニエウ達にこれまでの事を説明する。
「バジリスクの素材でウハウハだぜ!」
恩知らずか! 素材は全部渡したよ!
結局、倒したのはいぐりんだったし。
「そんな〜〜〜〜!」
は〜〜〜、もう疲れたぞ。
「良かったですね、おじさん!」
「ありがとう、いぐりんのおかげで助かったよ」
そして、花梨にこっそりと自分も異世界人だと告げる。
修平が何かできる訳でもないのだが。
同郷の者がこの世界にもいる。
一人じゃないということがわかって、少しでも安心できるといいなと思っての事だった。
「花梨ちゃんはこれからどうするの?」
「私は何もできないので……エルフさん達は、いつまででも里にいればいいと言ってくれているのですが……」
修平は"一緒にこい!" とは言えない。
修平は元の世界に帰るつもりなのだ。
彼女を守りながら、色々やれるほど、まだ強くもない。
「そっか、まだ小さいもんね! 大丈夫、後々、考えればいいと思うよ、安全第一だからね!」
修平も、今を生きるのに必死だから。
命の軽いこの世界では、"自分の命を大事にして欲しい"と切に思う。
ダニエウには冷たいが、子供には優しいおっさんなのであった。