13話 レイスとお宝と
ダニエウたちが仲間になりたそうにこちらを見ている。
おっさんはダニエウを仲間にした。
とりあえず、ダニエウたちはEランク。
折角の申し出なので、助けて貰おう。
「えっと、君達はいったい何ができるのかな?」
ガタイのいい男、三人。
そこに、癒し枠は……無かった。
だが、もしかしたら、秘めた実力があるのかもしれない。
修平は期待の視線でダニエウ達を見るのだが……
「斧でぶったぎる!」
と、ダニエウ。
「ハンマーでタタキ潰す!」
と、モブA。
「ハルバードを振り回す!」
と、モブB。
お前ら脳筋か!
「君達、アンデットの相手をしたことは……」
「初めてだ! だがアンデッドくらい、俺たちにかかれば楽勝だぜ!」
こいつらなんなの、馬鹿は死にかけても治らないの?
修平は頭が痛い。
対アンデットは、神聖魔法やポーションなど使って、倒すイメージなんだが……
叩いたり、切ったりで倒せるのだろうか?
修平は救いの目でリリアを見る。
すると、リリアは憐れみの目でこちらを見ている。
ぐふっ!
「えっと、アンデットは多々種類がいますが、多いのは、死者が魔素を取り込み、魔核を形成して生まれるパターンですね。魔核を破壊できれば倒せますが、魔核以外は何度も再生するんですよねぇ」
弱点の魔核を素早く破壊する。
あなたたちにそんなことができますか? と。
リリアの視線が痛い。
ダニエウたちは楽勝、楽勝と笑い飛ばしている。
どこからその自信は湧いてくるのだろうか?
正直、不安しかない。
どうやら、リリアも同じ気持ちのようだ。
「回復魔法や、ポーションも効きますけど……ヒーラーは今出払っていますし、ポーションを使い過ぎるというのは……どう考えても赤字になりますよ」
ファンタジー定番のポーションは、体にかければ、ある程度の傷はすぐ治るという優れ物、しかし銀貨6枚。
瓶をちゃんと返却すれば、銀貨1枚は返ってくる。
それなりの値段なので、簡単な傷には、塗り薬を使うのが普通らしい。
修平はトゥラン商会で、らタダで5本貰ったのだが、これは出来れば使いたくない。
「ダニエウ、ポーションの手持ちは?」
ダニエウにサッと目を反らされる。
「おまえらは?」
モブ達もあさっての方向に目を反らす。
「おい!」
「だってよぉ。道具屋のツケが払ってなくてよ。顔出したくねぇんだよ」
わかってはいたつもりだったが、やはり、こいつらはクズだった。
これでは、前途多難である。
仕方がないので、修平は追加でポーションを十本購入した。
散財である。
しかし、ダニエウが笑いながら言う。
「流石旦那! これでさらに楽勝だな!」
こ・い・つ・ら・殺・し・た・い!
修平からは、重いため息が漏れる。
「最悪こいつら肉壁にしよう。そうしよう」
修平は、作戦も一つ思い付いた。
満を持して、廃墟に向かう事にしたのだが……
アンデッドがいる場所は、馬で二時間ほどかかる。
何故か馬のレンタル代も、修平が払うことになったのだ。
こいつら金無さすぎだろ!
馬のレンタル代。一日一頭、銀貨10枚。
しかし、もしも馬が死んだら……追加で銀貨600枚。
ずばり、金貨6枚、60万円。破産だ。
「殺すなよ! 絶対に殺すなよ! "ふり"じゃないからな!」
修平はダニエウ達に言い聞かす。
いくらこいつらが馬鹿でも、流石に大丈夫だろう。
北の廃墟。
はるか昔、エルフを捕まえ、奴隷にしようとしていた王族。
その王族が建てた城の名残。
サイズは小さく、建物の中は既に荒らされている。
今はもう、めぼしい物は何も残ってない。
現在は、アンデットの発生場所になっているだけで、定期的にアンデットを間引くだけの場所。
まったく旨味がない。
どうしてこうなった。
この頃、一歩進んで二歩下がっている気がする。
人生はワンツーパンチを喰らうものだったのだろうか……
昼過ぎ。
少し離れた場所に馬を繋ぎ、地面に魔物避けの守りを設置する。
これが何気に高い。別途、銀貨10枚。
四人は廃墟に近づいてみると、凄いワラワラとアンデッドがいる。
ダニエウ達を振り替えると、血の気が引いているのか、顔が青い。
「な、なぁに俺たちにかかれば楽勝……だ」
ダニエウの声は小さく、今にも消えそうだ。
「とりあえず、作戦通りにいくぞ」
修平が魔法で穴をほり、土嚢を積み上げる。
魔法で硬くした球を、ダニエウ達が敵に向かって投げる。
修平が小さな竜巻を発生させ、竜巻と硬い球を混ぜ合わせる。
直ぐ様、自分達は穴に入り、上に蓋をする。
竜巻が消えた後、崩れているアンデッドを始末する。
どうだ、完璧な作戦だ。
修平はどや顔でダニエウ達を見る。
「名付けて、とばしてからめてアンデットぽん。だ」
シーン……
「だ、旦那……」
ダニエウ達の"それはないわ〜"の視線が痛い。
くそぅ、ダニエウのくせに、ダニエウのくせに。
腑抜けた空気を追い出して、四人は気を引き閉める。
「旦那! いくぞ!」
ダニエウから掛け声がかかる。
「なるべく山なりの形を意識して投げてくれ!」
修平はダニエウ達に指示をだすと、イメージに入る。
竜巻、竜巻! いでよハリケーン、む、違うか!
暫くすると、周囲に風が吹き荒れ、小さな竜巻ができ始める。
グラッ!!
「あれっ? 力が……」
修平は膝をつく。
「だ、旦那、あれ……」
ダニエウの呼び掛けに、修平は前の方を見てみると、みるみるうちに竜巻が大きくなっていく。
どうやら、アンデッドの数が多かったせいで、修平は巨大なハリケーンのイメージを持ってしまった様だ。
後の祭りだが……
「あれは駄目だ、早く穴へ!」
皆、急いで穴に入る。
「蓋をしっかり押さえろ! 外れたら俺達は終わりだ! 死ぬ気で頑張ってくれ!」
映画のシーンで見た記憶が甦る。
一人の男が空に舞い上げられていく場面。
それが現実になってしまったら、洒落にならない。
少し間をおき、周囲に轟音が鳴り響く。
ダニエウ達が竜巻の中心で叫ぶ!
「畜生、まだやりてぇことがあるんだ!」
「お母ちゃーん!」
「ヴァニラちゃーん!」
ヴァニラって誰だよ!
修平はツッコミをする前に意識が遠くなる。
まさか、こんな所で俺は死ぬのか。
自爆で、こいつらと一緒になんて、嫌だな……
暫くして、修平は意識を取り戻した。
いったいどのくらいの時間が経ったのだろうか……
「あれ? 生きてる……」
外は音が鳴りやみ、辺りには静けさが訪れている。
修平は横を見ると、三人が蓋を閉めたままの体勢で、白目を剥いて気絶している。
「助かった、のか、力がま、だはいらんな……」
これが魔力欠乏か。
魔力を使いすぎた為に起きたのだろう。
「ゲラートから聞いてはいたが、こんなにもしんどいものなのか。おい! お前ら起きろ!」
修平が声をかけると、三人とも目を覚ました。
どうやら皆、無事らしい。よかった。
「よいしょ!」
蓋が重い。
みんなで力を合わせ、瓦礫をどかし、外に出る。
そこには既に、ほぼほぼ何もなかった……
「旦那、生きてたからいいものの、マジで勘弁してくださいよ〜」
ダニエウがやれやれといった感じで両手を広げる。
「俺もまさか、だ。それにしても……全部ぶっ飛んでるな……」
モブAに肩を貸してもらい、修平はゆっくりと立ち上がる。
アンデッドはもういない。
建物も全て綺麗になくなってしまっているが。
「あ、あれ!」
モブBがある場所を指す。
そこには一体のレイスが漂っていた。
眼はないが、どうやらこちらを見ているようだ。
「何か聴こえる……」
それは、頭の中に響いてくるかのような、とても重い声……
「エルフ、エルフの魔力を感じる……欲しい、エルフのすべてが欲しい……そこか……そこにいるのか……」
エ、エルフだと、まさかのアメリア臭か……
レイスがこちらへと向かってくる。
修平はまだ体に力が入らず、動く事ができない。
「旦那、敵は一体だけだ! 俺達に任せろ!」
「ダニエウの兄貴! 確かレイスはポーションをかけると実体化するはずだ!」
モブAの発言に修平は狼狽する。
「な、なんだと!」
「わかった、旦那の鞄にあるやつを取ってくれ!」
ダニエウは頷くと、モブBに指示を出す。
モブBがリュックの中から、ポーション10個入りの木箱を取り出す。
「ちょっ、ちょっと待って!」
モブBはおもむろに投げた! まさかの木箱ごと!
「いやぁ〜、やめてぇ〜、銀貨60まいがぁ〜!」
おっさんの悲痛な叫びが、周囲に木霊するのだった。
ダニエウ達三人がかりで、レイスを倒した。
見事なフルボッコだった。
修平の心もフルボッコだが……
暫くすると、倒した所から白いモヤが立ち上がる。
おっさんの口からも何かでそうだが。エクトプラズム。
どうやらこのモヤは、ダニエウ達には見えてない様だ。
この世界に来て、始めの頃にも似たような出来事があったのを思い出す。
モヤはとある場所で消える。
修平の体に、徐々にではあるが、力が戻ってきた。
あそこに何かあるのだろうか?
このままでは確実に赤字である。
修平は必死にモヤの消えた場所を探る。
「旦那、ここは調べ尽くされてる。おそらくは何もないぜ」
「そうでもないみたいだ……」
修平は床を持ち上げる。
すると、そこには隠し階段があった。
「マジかよ……」
ダニエウ達もビックリしている。
ハリケーンが全てを飛ばした故に、見つかったのだろう。
おそらく、先程のレイスはかつての王族だったのではないのだろうか?
下に隠れたまま亡くなり、長い年月が経ち、レイスとなった。
そして、たまたま、修平に付いたエルフの魔力を感じ、出てきた。
確証はないが、そんな気がする。
「よし! 調べるぞ!」
奥はそこまで深くなかった。
部屋が一つだけあり、その中には宝箱が一つ置いてあった。
宝箱を調べるが、どうやら罠は無さそうだ。
「頼む! 最悪、元だけでもお願いします!」
修平は、いるかどうかわからないが、神に祈る。
そこから出てきたのは……
燦々と光輝いていた、硬貨の数々だった!