12話 アンデット退治を依頼される
異世界人ってばれた………
「にゃ、なんのことかな〜〜」
おもいっきり噛んだ、アウトー!
ティアナ達は何を言っているかわからないって顔をしている。
だが、ナタリーは目を瞑り無表情だ。
「大丈夫、大丈夫。別にどうかしようって訳ではないから〜」
アメリアは人懐っこい笑顔で語りかける。
「今、エルフの里の方でも一人の女の子を保護しているの。10日程前かな? 急に里の近くに現れたのだけど、とっても衰弱していてね。養生中なの。おかげで私も王都から呼び出し〜」
アメリアはやれやれといった感じだ。
アメリアは現在、王都にいるエルフ部隊の隊長らしい。
急な連絡があり、里へと帰還命令が出たそうだ。
しかし、おおまかではあるが、修平がこの世界にやってきた時期と被っている。
そういえば、返済ボックスの説明にも"こぼれ落ちた"と書いてあった。
もしかすると、他にも飛ばされた人間がいるのかもしれない。
勇者の事もにしても、まったく詳細がわかっていない。
ナタリーも喋りだす。
「カイも異世界人だ」
な、なんですと!
そんなに皆さん異世界に転移してるの! 多くない?
「あたしが知る限りでは、カイとあと一人だね。まぁ、なんとなくだけど……あんたが異世界から来ているって感じはしてた」
バレバレたった。
ティアナ達は"異世界"という存在が理解できないようだが。
「まぁ、大事なのは"あんたがここで何をしたいか"だと思うけどね……」
……何をしたいか、か。
修平はとりあえず、借金を返済すればいいと思っていた。
それで帰れると書いてあるのだ。
魔王とかがいるのかはわからないが、そんなものは勇者に任せておけばいいと。
だって、ただのおっさんなんだもの。
しかし、身バレはしてしまった。
ならば詳細を語り、協力を仰いだほうがいいかもしれない。
「実は……」
「なるほどね、あと金貨45枚程か、そんなに無理な金額ではないね」
そ、そうなんですか……異世界半端ないって!
「財宝でも見つければ一発で達成するね!」
アメリアさん、財宝はそんな簡単に手に入らないもんだよ。
そこら辺にコロコロと落ちてないから!
税金の問題もあるし、とりあえずは稼がないといけない。
おっさん、奴隷落ち。
誰得だよ! 鉱山奴隷行きは嫌だ!
「まぁまぁ、もっと気楽に考えようよ! 里の女の子はこっちにまかせてくれればいいし!」
エルフは長生きだからかね、言動が軽いな!
「まぁねぇ、ここでの用事は済んだんだから、後は帰るだけなんだけどねぇ」
「そうそう、私も付いていくし!」
「……なんで?」
アメリア曰く、王都に戻るついでに一緒に来るらしい。
ナタリーの方を見るのだが。
「はあ、こいつはね、いつもこんな感じだよ」
「こいつって酷い、私のほうが年上なんだよ!」
頬を膨らませるアメリア、かわいい。
「うるさい! ババア!」
「ババアって失礼だよ! まだ二百歳だから! まだまだ若いよ!」
二百歳、エルフ、長生き半端ないって……
今日はヤンバーで一泊して、明日の朝にはドランに出発する。
皆、各自の部屋が与えられた。
横になるのだが、修平はなかなか眠れない。
自分は戻れるが、他の人はどうなのか。
カイって人は未だにこの世界にいるみたいだ。
それに、エルフの里にいる女の子はどうなるのだろう。
衰弱していたって言ってたし、元の世界には戻らないほうがいいのか?
「わからん、元々そんなに器用に生きてきてないし、ア〜」
何も考えず、俺TUEEEEできれば良かったのだろうか……
修平は思う。
自分はちっさい人間だ。
できることなんてたかが知れてる。
でも何かできるんじゃないかと思ってしまう。
それはエゴなのか? それとも偽善なのか?
このままでは、円形脱毛症になりそうだ……
結局、修平は考えている内に眠っていた。
朝、出発の時間だ。
「今日もいい天気だね! 出発〜!」
アメリアは今日も元気だ。
おっさんは少し寝不足気味だが……
「しっかりしないとな……」
この世界の命は軽い、油断は命とりになりかねない。
帰りも3日かかる行程……の筈だった。
「ちょっ、待って……!」
「あははっ! 速いね〜〜!」
マジですか!
修平の土魔法でイカダを作り、凄いスピードで川を下っている。
その発案はいいのだが……
アメリアは不思議な石を掲げ、水魔法で浮力を加える。
そして、水深が浅い所でも、魔法の力で無理矢理進んで行く。
まるでジェット噴射の様だ。
「川は王都まで続いているからね。途中、湿地も通るけど、魔法で"えいっ"てね! それにしても、これ硬いね! いつも作る木のイカダだと、途中で空中分解するんだよね〜」
どんだけ〜〜〜〜!
破天荒なアメリアであった。
たった一日で街まで戻ってきた。が、アメリア以外は顔色が悪い。
「おぇ〜〜〜〜!」
完全にスピード違反だよ!
しかし、吐くのもしょうがない。
並のジェットコースターより荒い。
安全バーも何もなく、必死に掴まっているだけだった。
ティアナは必死に我慢しているが、女性の店員も吐いている。
帰るなり、ゲロパーティーとは……
ともかく、街には戻ってきたのだ。
目下の目標は完全返済、そこはブレずいこうと思う。
「私も今日はこの街に泊まって明日王都に向かうよ、泊めてナタリー!」
「嫌だよ! ちゃんと宿に泊まりな!」
ナタリーとアメリアが言い争っている。
やれやれ、お互い仲がいいことで。
「じゃぁねぇ〜、修平の所に泊まる〜!」
ほぇ、エロフですか……ぐへへ!
「馬鹿言ってないで行くよ!」
「は〜い!」
キラリ、頬に光るモノが。
残念ではない、既婚者なので、決して。
次の日の朝。
皆に挨拶を済ますと、アメリアは凄い勢いで川を下って行った。
嵐のような人……エルフだった。
修平も気を取り直して、ギルドのドアをくぐり、リリアの所に行く。
なにやら騒がしい、嫌な予感がする。
ゴブリン異常繁殖の時も、こんな感じだった……
「北の廃墟のアンデットが活性化しています。まだ強制ではありませんが、間引きをしてくれる方を探しています。どなたか、お願いします!」
アンデット。
ゾンビやスケルトン等、生命の無いものの総称。
素材もあまり使い道がなく、人気がまったく無いらしい。
たまにいる強個体だと、魔石を落とすらしいのだが……
「修平さん、お帰りなさい。どうです、この依頼受けてもらえませんか?」
そ、そんな上目遣いで見つめられると……リリア、結構美人なんだよね。
単純か! チョロいな、おっさん!
いずれランクは上げないといけない、ポイント稼ぎは必要だろう。
「わかりました、それでは準備があるので、これで……」
よし、ナタリーさんに助っ人を頼もう。
ヘタレで他力本願な、おっさんなのであった。
「助けて、ナタリも〜ん!」
だって、活性化してるって言ってたし。
一人じゃ怖いよ! グロいよ! ホラーだよ!
「ナタリーなら用事があるらしくて……しばらくの間、休みを取りましたよ」
ティアナからの無情な通告。
「な、なんだって〜〜〜! いつ戻ってくるかは……?」
「うーん、分からないですね。最近休んでなかったもので、彼女の用事次第じゃないですか?」
当初の計画プランが、脆くも崩れ去る。
「ナタリー無双、俺が残党処理……どうしたら……」
世の中はそんなに甘くなかった。
仕方がないので、修平はギルドに戻る。
ソロが無理なら、今回だけ限定パーティーを組めばいいのだ。
「俺、賢い!」
自画自賛か!
「……と言うわけなんです」
リリアが話を聞いてくれる。
「そうですか。ナタリーさんは元Aランクですからね、色々あるのでしょう。一応、募集はかけてみますが……」
「そうだよね、人気無いもんね……」
「俺たちが入ってやるよ!」
そこにいたのは……ダニエウ達だった。
……ウン、アリガタイヨネ……
おっさんと愉快な仲間達は、アンデット退治へと向かう? のだった。
護衛報酬は銀貨80枚、結構奮発してくれたらしいです。