11話 エルフの交易所にて
野営2日目の夜、警護の交代の時間だ。
ナタリーに起こされ、修平は眠い目を擦る。
すると、ナタリーは修平から少し離れて座る。
ナタリーはまだ寝ないのだろうか?
「ちょっと昔を思い出してね……まぁ、少し話でもしようか」
ナタリーは、くず火で燃えている焚き火を、遠い目で見つめている。
「あたしはドランのスラムの産まれでね、父親の顔は知らないし、母親と一緒に暮らしてた。小さい頃は盗みもよくやったもんさ。今でこそ、スラムは少しはマシになってきたけど、20年前は王国と獣人との戦争が激しくてね、その余波からドランもだいぶ荒れてたんだ……」
「ふむ……」
ナタリーから語られたのは、いきなり重い話だった。
修平はとりあえず、話を促す。
「10歳の頃かな、母親も流行り病にかかってね。薬を買うために無理して、ヘマして、戻った時には母親は亡くなってたんだ」
ナタリーはその時の自分が、今でも許せないのか、卑屈な笑みを浮かべている。
「あたしもなんていうか……希望をなくしてね。死んじゃおうかと思った時さ、ある男に救われた。その男はエルフの里からやってきたんだ。そいつに剣の使い方、闘いの立ち回り、生き方を学んだ。冒険者になって、王都にも行ったし、戦争にも参加した。自分でいうのもなんだが、まぁ、過激な生き方をしてきたねぇ」
ナタリーは笑っている。
「王都で嫌なことがあってね、そこで冒険者もやめて、故郷に帰ってきたのさ、金もそれなりにたまったし、母親の墓も作ってやりたくてね」
お涙頂戴な物語である。
プロデューサー! 2時間ドラマが作れるよ!
しかし、ナタリーはなぜ今この話をしたのだろう。
エルフ繋がりで、ふと思い出したのだろうか……
「さてと、じゃあ、あたしは寝るとするよ」
ナタリーは自分のテントに戻っていく。
「おやすみ……」
おっさんは、ぼんやりと焚き火を見つめるのであった。
「戦争なんてろくでもないか……そりゃそうだな……」
朝、天気は回復し、晴天だ。
多少のぬかるみは残っているが、進むのには問題は無さそうだ。
「さぁ、今日中には着くよ!」
ナタリーはいつも通りだ。
今は考えてもしょうがない事だ。
護衛の仕事に集中しよう。
行程通りなら、今日中には目的地まで行ける筈だ。
エルフはエロフなのか、そこでわかる。
え、しつこいって? すいません。
道中、フォレストウルフの群れに遭遇した。
「ファイア!」
ゲラートの火魔法がとぶ。
「ストーム!」
修平が風魔法で狼の動きを押さえつけ、ナタリーが突っ込み、一網打尽にする。
どうやら、修平のネーミングセンスは、徐々にではあるが改善されつつあるようだ。
すったもんだがありまして……
とりあえず、エルフの交易所、ヤンバーに着いた。
「以前に比べて魔物の数が増えてるように感じるねぇ、一つ一つは大した事はないかもしれないが、これだけ続くと……」
トゥラン商会は、いつも1ヶ月毎に一度は、ここ、ヤンバーを訪れる。
ナタリーも久しぶりとはいえ、何回もこの行程をこなしている。
それ故、いつもと違う。何かがおかしいと感じている。
おっさんはエルフでウキウキだが……
「久しぶり、ナタリー! ヤッホー!」
門の奥から、一人のエルフの女性が歩いてくる。
「帰っていたのか、アメリア」
どうやら知り合いのようだ。
何か話があるのか、二人は別な場所に行くみたいだ。
「修平さん、私達はこちらに……」
修平達は別のエルフに案内され、大きめの小屋に通される。
ティアナと女性の店員は、取引の事でエルフ達と話をするようで、別室へと移動する。
しかし、女性の店員の鼻息が尋常じゃない。
そんな感じで、仕事は大丈夫なのだろうか……
ゲラートと二人、部屋に残される。
気まずい空気が暫し流れる。
その空気に耐えれなくなった修平が、ゲラートに話しかける。
「ナタリーはいつからこの店の護衛に?」
ふと、昨日の夜の事を思い出したのだ。
「彼女が現れたのは、5年前くらいでしょうか。トゥラン商会がドランの街の治安を良くする為、スラムの支援を積極的に行っていた時ですね。今でこそ落ち着きましたが、最初は酷かったですね。私も殺されるかと思いましたよ」
にっこりと笑いながらゲラートは言う。
「旦那様が本気で説得し、商会の護衛として働くことになりました。ですが、彼女はあまり自分のことを喋らないので……」
「なるほど……」
しかし、昨日の夜、結構喋られましたけど。
ナタリーの気まぐれだったのだろうか……
頭が迷走の巨体迷路や〜、ワケがわからん。
今は考えてもしょうがない。
とりあえずは取引が終わった後、無事に帰路に着く。
ただそれだけを考える事にしよう。
それから、数時間が経つ。
その間、ゲラートに火魔法のこつを聞いていた。
適正が無いので、修平は火魔法は使えないのだが。
だって話が続かないの、誰か助けて!
すると、ナタリーが戻ってきた。
「悪いね、あいつはちょっとした知り合いなのさ。会うのも久しぶりなんで、話に花が咲いちまってね」
その割には、ナタリーの顔色があまりよくない。
何か問題でもあったのだろうか……
「こちらも終わりました。今から荷物を詰め込んで、明日には出れるかと……」
それから暫くして、ティアナ達も戻ってきた。
そうかそうか、それは良かった。
だが、おっさんはもっとエルフと触れ合いたい……
口には決して出せないが……
「森の魔物も増えてるみたいですね。エルフはとても強いので、あまり問題になってないみたいですが」
「エルフってそんなに強いの?」
修平は不思議そうに聞く。
「だってエルフと言ったら、くっ殺せ!って」
どうやら、おっさんの頭の中は相当腐っているらしい。
「私が聞いた昔話では、西の王国の王様が、エルフを奴隷にしようと企むのですが、反対に城まで攻められ、降伏する、という話があります。今はそこまで多くの人と関わらないので、問題は無いみたいですが……」
そんな最強のエルフさんと、対等な取引できるの?
トゥラン商会、そんなに凄い店だったのか……
「彼らにも必要な物が色々あるみたいですね。今回は勉強になりました」
「これにはある男が関わってるのさ。そもそも、ドランの街とエルフの取引自体は、確か20年は経ってないはずだからね」
意味深ですね、ナタリーさん。
「ナタリーはまだ根に持っているのね。カイはもう気にしてないと思うけど……」
ひょっこりとナタリーの後ろから、アメリアが顔を出す。
よく見ると、中々の美人だ。胸は残念だが大丈夫。おっさんはちっぱいも好きなのだ。
すると、修平はナタリーに脳天チョップを喰らう。
ナタリー、お前はエスパーか!
「うるさい、アメリア! あっち行ってろ!」
ナタリー、シッシッと手を振る。
カイか、話の流れからすると、昨日の夜に聞かされた男がカイって奴っぽいのだが。
アメリアがジーっと修平を見つめている。
そんなに見つめないで、惚れてまうやろ〜!
「貴方って、異世界人?」
おっさんはいきなりぶっこまれたのだった。