77話 黒いキングスライム?
「あれがそうなのか……」
修平の目の先、距離は百メートルといったところか、黒い人の形をした数多くの物体が、ノロノロと動いている。
修平はゴルドの依頼により、ドレッドより更に西。
始まりの森の南に位置する荒野にて、話にあった黒い人形の偵察をしている最中だ。
同行者は、レオニアル、ラミィ、アリエルの三人。
偵察だけで、まだ正面きって戦うことは、極力避けるつもりだった。
その為、最低限の人数に絞ったのもあるのだが……
実はゴルドに無理を言って、飛行ユニットを貸してもらったのだ。
あわよくば、このまま貰えないかという打算もある。
「それにしても、気味が悪いわね。あれって生き物なのかしら?」
「ふむ、今は遅いが、よくわからんな。いきなり早くなる可能性も否定できん」
確かに、今のスピードならば、クロイツまで到達するには、それなりの時間がかかるだろう。
しかし、レオニアルの言うとおり、今まで見たことも無いタイプの敵なのだ。
何が起こるかわからない。
「修平、石投げてもいいか?」
例えイレギュラーがあっても、この四人ならば逃げる事もできるだろう。
そう思った修平は、アリエルに許可を出すと、その行方を見守る。
「アリエル。どうせなら、おもいっきり投げてくれ」
アリエルは頷くと、振りかぶって……投げた!
うおっ、速い! 時速百六十キロは出てるんじゃないか?
プロ野球選手も夢じゃないな!
今は関係ないが……
だが、石は黒い人形に確かに当たった筈なのだが、まるで何事も無かった様に、黒い人形は歩みを止めない。
「石はどうなったんだ?」
石は、突き抜けてはいない。
まるで瞬時に消滅したような……
「ラミィ、弓に氷を。俺は火魔法で試してみる」
「わかったわ。でも火も私が使うから、修平は光で浄化できないか試して」
修平は頷くと、範囲が狭いイメージで、黒い人形の頭上に光の球を発生させる。
「薄いが禿げてはいない!」
異世界にきてから、修平は抜け毛が少なくなったのだ。
嬉しい誤算である。
今は関係ないが……
「同じ個体を狙うわ」
ラミィは一の矢に氷を、続けて二の矢に火を纏わせ撃ち抜く。
だが、結果は石と同じに終わった。
アンデッドではないらしく、浄化も効かないようだ。
「うーん、手詰まり。襲ってはこないが、どうするか……」
ふと、何かないかと、修平はマジックバックを探る。
「あ、これがあったな……」
マジックバックから出てきた物は、パスモンが南の里に一時帰り、戻ってきた時にグリーフより渡された薬品のビン。
港町の闘いでは、黒い鎧の男にラミィが喰らわせ、効果はあった。
しかも、こいつは、その時よりもパワーアップしているらしい。
これなら、もしかしたら……
「どうせ、ダメ元だからな……」
修平はラミィに頼み、矢の先へとビンをくくりつけ、黒い人形へと射ってもらった。
するとどうだろう、今までは何の変化も無かった黒い人形が、苦しむ様に悶えだしたのだ。
かなりホラーチックな光景だが、確実に効いている。
ラミィに続けて射ってもらおう、そう思ったのだが、ここにきて黒い人形に劇的な変化が訪れた。
ポヨン、ポヨン、ポヨン。
黒い人形が次々と集まっていき、それは、とてつもなく巨大な塊になった。
「キ、キングスライム?」
それは、王冠こそ被っていなかったが、プルプル動く震えかたといい、スライムそのものだ。
「そういえば、この世界でスライムなんて始めて見たか……」
修平が言葉を言い終わる前に、黒いスライムが、もの凄い勢いで転がってくる。
先程の石の顛末といい、呑まれればどうなってしまうのか、明白だった。
「だぁぁぁぁっ! 服だけ溶けて、ラッキースケベならともかく、体がまるごと消えてなくなりそうだぞ!」
皆に合図し、ラミィはアリエルを、レオニアルは修平が担ぐ。
そしてそのまま、空へと待避した。
黒いスライムは目標が空に逃げた為、触手のような物を伸ばしてみたが、流石に届かなかった様だ。
しかし、黒いスライムは諦めず、その場をうろうろしている。
困った。このままクロイツに戻ると、黒いスライムがついてきてしまい、街が大惨事になりかねない。
だが、この大きさのスライムを全て倒せる程、多くの薬品は持ってきていない。
「奈落に落としてしまうとか……」
しかし、奈落まではかなりの距離がある。
薬品を刃に塗り、切り刻む事も考えた。
だが、周りを囲まれ、呑み込まれる未来しか見えなかった。
「スライムなら核を壊すのが定番だが……」
全てが黒すぎて、核が何処にあるか全然見えない。
どうやら、修平に心の目は備わっていなかった様だ。
そういえば、リーネ様に教わったゲートの魔法を使うのは……まだ魔力が足りないか。
八方塞がりだな……どうしたもんか……
五属性が使える様になった。
漫画にあるような、融合魔法とか出来たりして……
ふと、何気無しにイメージしてみる。
すると、ゴソッと魔力が失われる感覚が襲ってくる。
「またこのパターンかよ……」
ギリギリ墜落は免れたが、触手の届く位置近くまで高度が下がる。
横を見ると、小さい不思議な色をした球体が、黒いスライムに向け落ちていくところだった。
球体はスライムにめり込むと、眩い光が辺りを包む。
視界が戻り、周りを見渡すと、スライムどころか周囲全てが、ごっそりと削り取られていた。
「荒野だったから良かったものの、環境破壊も甚だしいな……」
これで解決かと思いきや、遠くを見ると、次々と黒い人形が進んで来ている。
まるで、黒い人形による大名行列だ。
「いや、これ無理なやつでしょ……」
修平は一度作戦を練る為、クロイツへと帰ることにしたのだった。
話がなかなか思い付かない……
全てモンハンのせいです。(責任転嫁)