表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/104

76話 集まる力

「ねえ、瑞希さん。なんで皆、急に慌ただしく動いているのかな?」


 美緒と瑞希は王国にある、冒険者ギルドの酒場にて、昼食をとっていた。


 山本さんがいなくなった後、美緒がいきなり、一度冒険者になってみたいと言い出した。


 瑞希はあまり乗り気ではなかったが、山本さんに強引に魔物退治に連れ出されていた瑞希は、身体能力だけはかなり上がっていたのだ。


 登竜門である実技試験も、試験官だったケビンを瞬殺した。

イケメン青年ケビンも、修平に簡単に倒された事をバネに、頑張ってランクをBに上げたのだが……

どうやら、どんなに頑張っても、異世界チートには敵わなかった様だ。

哀れ、イケメン青年、ケビン。

まあ、美緒はギリギリ合格ラインだったのだが……


「何かあったのかしら? あ、ケビーン! こっちこっち!」


 瑞希はケビンの姿を見つけ、自分達が座っている席に呼ぶ。

ケビンも瑞希達に気がつき、急いで駆けてくる。


「ねえ、ケビン。兵士みたいな人が来てから、ギルドの中が急に騒がしくなったけど、何があったの?」


 兵士達はすぐに出ていってしまったが、すれ違いで、今度は獣人達がギルドに入ってきたのだ。

彼らは来てすぐ、奥の会議室に行ってしまった。


「なんでも、魔王が復活したとか、勇者が出たとか? よくわからないですね。今ギルドの偉い人達が話し合っているみたいですが……もしかしたら召集がかかるかもしれませんね」


「……勇者に魔王か、いよいよ、ファンタジーっぽくなってきたわね。しかし、あの駄ネコ、いったい何処に行ったのかしら?」


 連れのネコは"野郎ばっかりは、もういやニャ"と言い残し、いつの間にかいなくなっていた。

飼い主としては気になるが、見た目は化けネコ、しかも、あの強さだ。

心配するだけ無駄というものだろう。


「私達も参加しないといけないの?」


 瑞希はともかく、美緒はまだランクFなのだ。

戦いになれば、足手まといにしかならない。


「流石にランク制限はかかるでしょうね。しかし、前回の魔王復活時、世界の人口が1割切ったという話もありますからね。本当かどうかはわかりませんが……」


「あっ、出てきたわ。あれは、ギルドマスターと、エルフ?」


 ギルドマスターの横にはエルフと獣人が立っている。

更に奥には、ドワーフの姿もある。

これだけ他種族が揃うのは珍しい。

それだけ事態が切迫しているということだろうか……


「皆の者、聞け! ここにいるエルフの報せにより、魔王の復活を知る事となった! これからの戦いは、世界の命運が懸かっている。選択は各々に任せるが、戦える者はエルフの里より転移し、始まりの森へと行くことになる! 集合は明日、明朝だ! 準備は各自するように、以上!」


 シーン!


 ギルド内は静まりかえる。

一瞬間を起き、ギルドの其処らかしこで、怒号が鳴り響く。


「やべぇ、逃げなきゃ! でもいったい何処に……」

「おおおっ! 俺はやるぞ!」

「選択か……なぁ、いい加減、俺達結婚しないか?」


 慌てて逃げ出す者。闘いに、興奮する者。ケジメで結婚を申し込む者。様々だが。


「瑞希さんはどうするんですか?」


 どうやら、ケビンは戦いに参加する様だ。

彼の顔には、決意の色が見てとれる。


 瑞希はチラッと美緒を見る。


「私は行けないかな。美緒ちゃんの事もあるし……」


 それに、戦闘は何度かしたものの、やはり慣れない。

切ったはった、流血、そして、恐怖。

日本人だからか……そういったものに、馴染みが薄いのだ。


「そうですか。強制では無いですし、それもアリだと思いますよ。では準備がありますので、僕はこれで……」


 ケビンは駆け足で去って行った。

すると、入れ違いで、ギルドマスターが瑞希に向かってくる。


「瑞希さん、でしたね。ちょっといいですか?」


 瑞希と美緒は奥の会議室へと連れて行かれる。

そこには、先程のエルフ、獣人、ドワーフが座っていた。


「すいません。あなたの実力は、かなりのものと聞きましたので……」


 どうやら、勧誘の様だ。

行かないつもりだったのだが、断りにくい状況になってしまった。


「今回、既に勇者も現れているので、私達はサポートという形になると思われます。どうでしょう、一緒に行ってくれないでしょうか?」


「あの〜、ちょっといいですか?」


 美緒がおどおどと話に割り込む。


「勇者って、いったい誰なんですか?」


 ギルドマスターは意を決した様に、エルフを振り返る。

エルフは頷いて、ギルドマスターに話を促した。


「名前も公表してもいいそうなので、月形修平という方だそうです。現在、冒険者をしていますね。ギルドに登録もされています。見ますか?」


 美緒は空いた口が塞がらない。


「み、美緒ちゃん。どうしたの?」


「お、お父さん? なんで、お父さんが……?」


 そして、美緒はそのまま、その場に倒れてしまったのだった。



 一方、同時刻、南の砂漠ではエルフ達が各集落に散開し、鬼人族達に声をかけていた。


東で。

「ああ、あのサンドワームを倒してくれた恩人さんが勇者じゃと! 恩は必ず返す。それが砂漠の流儀じゃ」


北で。

「我等が同胞の仇をとってくれた恩人よ。我等の力、使ってもらおう」


西と南でも。

「どのみち、魔王が復活したなら逃げ場はない。やるしかねぇ」


 各々の部族の精鋭達が、エルフの南の里へと集結する。



 南のエルフの里でも。


 グリーフの工房では、数人のエルフ達が昼夜とわず、ワクチンの量産体制をとっている。

中には過労で倒れたしまった者も、多々いるが……


「グリーフ殿、これで薬の量は足りているか?」


「まだまだ必要じゃ、だが、死ぬ気で間に合わせる。儂のこの足では、戦闘には参加できんからな。ワクチンの効果も前に比べ上がっておる。これならば、普通に戦うには問題なかろう」


 西と南のエルフの里でも、子供と老人、体の弱い者以外は全て戦闘に参加する。

負ければ終わり。

皆、それをよくわかっているのだ。


 こうして、各地では続々と戦力が集まっており、準備が出来次第、始まりの森へと順次転移を行っていく。


 来るべき終焉に向け、戦いの火蓋がきられようとしていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ