74話 現在とこれからと
用事があるので、早めに投稿。
しかし、眠い。
クロイツでの防衛戦が終わって、早、四日。
一行はゴルドの紹介で、五ツ星の宿に泊まっている。
この宿、キッチン、更には風呂までついているという、なんとも贅沢な仕様だ。
おかげで、皆、体を充分に休ませる事ができた。
しかも、宿代はゴルド持ちで、タダなのだ。
流石、禿げていても本部のギルドマスター。
ゴルド、やるときはやる男だ。
現在、クロイツでは急ピッチで復興が進んでいる。
北のドワーフ達や、ドワーフと一緒に来たジュエルジャイアント達も、瓦礫の除去など手助けをしているそうだ。
だが、元の街並みに戻るまでには、かなりの時を有するだろう。
敵の兵士だった、元は黒い軍団も、復興に手助けをしてくれている。
スケアとネディ、二人の女兵士は、未だ牢に入ったままだが……
昨日、修平はゴルドに捕虜の尋問を頼まれた。
その為、ネディに面会を希望し、牢やへと行ったのだが……
彼女は、シラーという人物に忠誠を誓っているらしく、めぼしい情報は全く話してくれない上、罵詈雑言を浴びせられたのだ。
スケベだの、やりチンだの、でかマラ暴れん棒だの、酷い言われようだった。
まったく、失礼な!
スケベは否定しないが、断じて、やりチンなどではない。
それに小さいより、大きい方が色々とやりよ……げふん、げふん。
閑話休題。
「なあ、アメリア。ファンケル見なかったか?」
一昨日の朝から、ファンケルの姿が見えないのだ。
体調が悪く、部屋から出てきていないだけ、と思っていたのだが……
「お祖父さんが始まりの森に連れていったよ〜。なんか用事があるんだってさ〜」
始まりの森へ?
リーネ様に会いに行ったのだろうか?
リーネ様の話では、エネルは依り代にされるのを嫌がっていた。
故に、ファンケルを一緒に連れて行ったのかもしれない。
しかし、何の用事なのだろうか……
今は落ち着いているが、いつ何が起こるかわからない。
偵察に行ったレイリー達も、そろそろ帰ってくるのだろうか?
その報告次第では、すぐに動かないといけないかもしれない。
「なあ、旦那。俺のスーツケース知らないか?」
ダニエウの背中にいつも担いでいる、あのスーツケースがまた無くなったらしい。
たまに無くなるのだが、いつの間にか戻ってきている。
なんだか、呪いの人形みたいだな……
カミュは寺院にて、回復魔法を使い、怪我人の治療にあたっている。
クロイツ襲撃では、死者こそ少なかったが、避難中の住民の揉み合い等で、怪我をした人は多数いたらしい。
人口の数に対して、ヒーラーの数が圧倒的に少ない。
その為、彼女は率先してやってくれているのだ。
まさに、頭の下がる思いだよ。
彼女は天使だな。
「修平、足がむくんでいるの。揉んでくれない? 言うこと聞いてくれないと、娘さんに……」
「はい、喜んで!」
くそぅ、ラミィめ……どうやら、悪魔はここにいた様だ。
最近、事ある毎に娘の事をちらつかせ、脅してくる。
畜生、またヒイヒイ言わせ……
「何か言った?」
「何にも言ってません!」
まったく、自分が悪いのだから、仕方ないのだが……トホホ。
アリエルとレオニアルは、ギルドの訓練所で模擬戦を行い、冒険者達を鍛えている。
二人ともかなりの強さなので、引く手あまた、だそうだ。
しかし、元気だな……おっさんは疲れがまだ抜けきらないぞ。
「修平、ただいま! ゴルドがレイリー達が帰ってきたから、ギルドに来てくれって言ってたぞ!」
早い。流石は飛行ユニット。
エネルの物だが、くれないだろうか?
試作品は壊れてしまったから……
修平はギルドに向かう最中、なにやら人だかりが見えた。
復興の作業後だろうか、汗と男の匂いが混ざり、何とも言えない香りが周囲には漂っている。
その中心に……山本さんがいた。
「勘弁してくれニャ、吾輩にそんな趣味はないのニャ! ゲホホ、臭いニャ! 誰か助けてニャ〜〜!」
彼は、何故男にモテるのか……
うん、知りたく無いので、スルーだ。
きっとフェロモンが関係しているのだろう。
そうに違いない。
修平は深くは考えないことにし、その場から立ち去るのだった。
ギルドに着くと、リリアに案内され、いつもの会議室に通される。
そこには既に、ナキュレイ、レイリーパーティー、レオニアルとゴルドがいた。
「おう、来たか。早速で悪いが、レイリー話してくれ」
レイリーの口から語られたのは、帝都も含め、人が全くいなかった事、城の入り口に黒いシミがあったが、消えてしまった事など、よくわからない話だった。
「とりあえず、俺達は報告に戻ってきた。異常すぎて……よくわかんねぇ。ラギアは、北をもう少し調べてみるって、単身飛んでったけどよ」
帝国領の北か……
始まり森から東に位置する、旧ラディソン王国領。
魔物の数も少なく、比較的平和な土地であり。
住んでいる住民の数も多く、帝都と同数位の人口がいるのだとか。
しかし、誰もいないのか。気味が悪いな。
ナキュレイからの話では、魔武具と呼ばれる物に力を蓄えるには、負の感情が関係しているそうだ。
手っ取り早い方法は、拷問や、人を殺すこと……
ナキュレイの知っている限りでは、魔武具の残りは盾、兜、腕輪の三つ。
他にもあるかもしれない、との事だが、ここまできて戦力を温存するだろうか……
ノンノ壊滅の件も踏まえ、議会の提案により、帝国側の衛星都市を放棄、西側の都市への移住も進めているそうだ。
既にクロイツを囲む、衛星都市の特殊城壁は機能をしていない為、苦肉の策といったところか……
住民達も混乱しているが、命がかかってるとあっては仕方なく、徐々にではあるが移住を進めている。
だが、時期が悪い。
雪がちらつくこの季節では、最悪死者も出かねない。
議会も頭が痛いところだろう。
普通ならば、雪の時期に進軍などしてこないだろうが、元の世界と異世界は勝手が違うのだ。
元の世界の常識が通用しないという事も、頭の片隅に入れておかないといけない。
「相変わらず魔素は濃いままだからな、魔物の数も増える一方だ。魔石の在庫がかなり少なくなっちまったから、助かるが……はぁ」
ゴルドはため息をついている。
最近、忙しすぎて全く家に帰れておらず、嫁とイチャコラできないそうだ。
知らんがな!
修平達が会議室で話している頃、エネルとファンケルは始まりの森にいた。
だが、ファンケルの様子がいつもと違う。
「やれやれ、君が依り代になってくれればいいのに……」
「嫌だ! 君と変わると、ろくな事にならないからね〜」
どうやら、ファンケルにはリーネが乗り移っている様だ。
そのリーネは、結晶化したレインツリーのくぼみに、エネルから渡された魔素の錠剤を埋め込んでいく。
「力も大方戻ってきている。そろそろいけそうだ。魔力の補充もこれで……」
リーネはエネルでさえ理解できない、太古の言語で唄う。
するとレインツリーは輝きを増し、青々とした葉を繁らせていく。
「よし、エネル、手をこっちに」
リーネとエネルは手を繋ぎ、レインツリーに触れる。
すると、レインツリーは淡く光り、不可視の魔力の糸が、空へと駆けていく。
『聞こえるかい? 西の里、南の里の長老よ』
暫くすると、レインツリーから返信が返ってくる。
『南、通信に問題はありません』
『こちら西。長老は樹化が進み、代替わりをしました。若輩者ですが、今は私、ホルンが長老を務めさせていただいております』
そこにエネルが割り込む。
『今は君が長老か〜、無理はしないようにね〜』
『え、お父さんなの? 恥ずかしいから個人的な話は止めてよね〜』
『こらこら、話の節を折るんじゃない。だが、この感じなら問題なさそうだね。各里は戦力を集め、転移、この場所に集結せよ。既に魔王は復活している。西は獣人、王国にも声をかけ、南は鬼人の力も借りるのだ。この戦いは、世界の命運がかかっている。負ければ終わりだからね』
リーネからの指令により、各里は慌ただしく動き出す。
「ふう、そろそろ時間だね。エネル、後は任せたよ」
リーネはエネルに体を預けると、力がフッと抜ける。
どうやら、ファンケルに戻った様だ。
「さてと、僕も最後の大仕事に取りかかろうかな……」
エネルの呟きは、森へと吸い込まれていったのだった。