プロローグ
「どうなってんだ?」
ジューレイド城上空に、三つの人影が浮いている。
ラギアとナキュレイ、それにレイリーだ。
三人はゴルドに指示され、ガリオン帝国領の偵察に来ている。
偵察するにあたり、ラギア達は帝国の地理に明るい為、レイリーは二人のお目付け役として。
「あなた、脳筋の割には魔力が高いのね。これ、結構魔力をもっていかれるけど」
「魔法も二属性使えるぞ。呪文を覚えるのが面倒なだけさ。はっきり言うと、殴った方が早いからな。どうだ? そこら辺の話、ベッドの中で語り合うか?」
「おいおい、父親の前で娘を口説くな。しかも、いきなりベッドインとは聞き捨てならんぞ! だいたい、お前のパーティーには綺麗所が揃っているだろうが! 俺の娘にまで手をだすんじゃない!」
空中に浮いている三人の背中には、飛行ユニットが取り付けてある。
飛行ユニットは、エネルとアキュレーが着けていた物と、予備に一つ、合計で三つしか、既にこの世には存在しない。
作る技術も失われている為、新しく作ることもできないのだ。
三人はエネルから借り受け、身に付けている。
現在、三人の眼下には、城の姿があるのだが、城には守衛さえいない。人の姿が全く無いのだ。
「いつもこんなに……んな訳無いな。何処に行ったんだ?」
三人は城に降り立ち、中を探索するが、やはり人の姿はない。
「人だけじゃねぇ、ロッドマンの作っていた気持ち悪い生き物もいない。何がおきた? 俺達がロッドマンと戦ってから、まだそんなに経ってないぞ……」
レイリー達はポーションを飲み、魔力を補充する。
そして、三人は再び空へと飛び上がり、帝都に向け、空を進んでいくのだが……
「何処にも人の姿が無い……荒らされた形跡も……」
途中、小さい村や、軍港、全ての施設から人の姿が消えていた。
「いくらなんでもな……このスピードなら、帝都まで往復しても大丈夫だろ。行ってみるか」
暫くして三人は帝都に着くのだが、やはり人の姿が無い。
「集団神隠し? それとも、洗脳して何処かに連れていった?」
「気味が悪いな。帝都の人口は三十万人はいたと思うが……」
三人はそのまま、城まで歩いて行く。
民家も、店舗も、兵士の詰所もさえも、やはり誰もいない。
周囲は静まりかえり、三人の足音だけが響いている。
そして、城へと着くのだが……
「?」
城の入り口に、黒い大きなシミができていた。
深い、深い黒い色。
見ているだけで、意識が堕ちていく様な……
「なんだこれは?」
レイリーは、試しに物を投げてみるが、シミに反応は無い。
だが、直接触る行為は危険な気がする。
「ラギア、触ってみろよ!」
「いや、何かわからんが、これヤバいだろ」
レイリー達が話している内に、シミは跡形も無く消えていった。
そこには既に、何も無い。
「いったいなんだったの?」
腑に落ちないまま、三人はクロイツへと帰還するのだった。