8話 大規模討伐
ナタリーと初めて狩りに行ってから、既に3日が経っていた。
修平はナタリーと一緒に、キラーラビット狩りを励む毎日を送っている。
数もそれなりにこなしている為、ランクも1つ上がって、早くもEランクに上がったのだ。
どうやら、ダニエウ達もEランクらしい。
早くも並んでしまったのだが……
彼らは毎日のように、酒場へと入り浸っている。
よくお金が持つものだ。
それにしてもお前らアル中か。
若いのに、肝臓を壊すこと間違いなしだな。
「キラーラビットを狩るのも慣れてきたな、なにか他の依頼でも受けてみるか……」
なにやら、受付が騒がしい。
「すいません! 冒険者の皆さん、緊急依頼です。ゴブリンの巣の調査に向かったところ、巣がかなり拡大しているとのことです。被害を出さない為、大規模な討伐を行うことになりました。Eランク以上は強制です。本日の夜更けに出立し、朝方に強襲します! 皆さま準備のほうお願いいたします!」
ギルド内が騒がしくなる。
最近、魔物の数が増える傾向なのだろうか。
キラーラビットに続き、ゴブリンも異常繁殖しているらしい。
メスは数が少なく、定番である、人の女性も拐われるそうだ。
ここは辺境ゆえに、存在する冒険者の数も限られている。
ある程度の力をもった者は、冒険者でなくても駆り出されるそうだ。
「巣はこの街から徒歩で6時間ほどです。食事の準備も各自でお願いします。報酬は基本報酬に加え、討伐数でも加算されます。報告の数では150体ほど、中には上位個体もいるようです。集合は西門の前。出発前に、街の鐘を鳴らします!」
リリアがテキパキと指示をだしていく。
「150体とか、どんな無理ゲーだよ。死んだら元も子もない、装備を少し新調しよう、そうしよう!」
キラーラビットのおかげで、現在、銀貨は890枚程まで増えた。
じゃらじゃらと、硬貨の音がうるさい。
面倒くさがって、両替をしていないからだが……
「とりあえず、命大事に防具から」
修平は武防具店に向かうのだった。
ナタリーに聞き、教えてもらった武防具店。
その店は鍛冶場も併設しているらしく、それなりの大きさの建物であった。
緊張しつつも、中に入る。
「いらっしゃいませ〜、何かお探しですか?」
笑顔の似合う、気立ての良さそうな店員さんだ。
店の中には、何人かの冒険者たちが武器や防具を物色している。
しかし、素人だからか……
どれがいいのか、まったくわからない。
「すいません、鎧を新調したくて……」
できれば動き安く、軽く頑丈な物を、と伝える。
「そうですね……フルプレートでは重すぎるので、今着ている革鎧の下に、鋼のチェインメイルを着込むのはいかがでしょうか? 薄く伸ばした物を編み込んであるので、そこまでの重さはありません」
店員は、修平に矢継ぎ早に言葉を浴びせる。
「後は膝宛、肘宛。見たところ、ブーツも変えたほうがよさそうですね。これなんてどうです? 材質は丈夫な魔物の革を使い、薄い鉄板が入っています。お値打ちですよ。あと兜と盾はどうしますか?」
こ、この店員できる。
おっさん、素人なので言われるがままである。
視界が悪くなるので、兜はやめて、鉢がねのようなものにした。
矢避けの呪いがかけられているらしく、最近、入荷した物らしい。
盾は硬めの皮をベースに、周りを鋼で覆った物、サイズはスモールより気持ち大きめだ。
合計、銀貨590枚。
少しはマケテモラッタよ…………うん散財だね。
しかし、命には変えられない。
おっさん、ただただ涙を呑んで堪えるのだった。
戦闘については、今は魔法を主体に、と思っているので、武器は保留することに。
一応、今使っている剣を研いでもらい、曲がりを修正してもらう。
鞘がぼろぼろだったので、新品へと替えてもらう。
簡単な研ぎ石と鎧油、しめて、銀貨605枚。
銅貨の端数はおまけしてくれた。
ふと、店員さんの顔を見ると、ほくほく顔である。
反対におっさんの顔はやつれているのだが……
夜までは、まだ時間がある。
軽食を食べ、軽く仮眠をとり、宿もとりあえず、また一週間分……
「お金がぁ〜〜、お金がぁ飛んで行く〜〜!」
おっさん、返済が滞りまくりである。
時間になった為、遠くで鐘が鳴る。
修平は集合場所に向かうと、そこにはナタリーもいた。
総数、70名くらいはいるだろうか……
この戦いは、魔物の生き残りを全て逃さないのも大事な事らしい。
修平にとっても、人の形をした魔物との戦闘は初めてなのだ。
嫌でも緊張の色が隠せない。
ナタリーが近付いてくる。
「街にとっても一大事だからね。ゴブリンなんぞ、ふんっ! あたしがくびり殺してやるよ!」
ニヒルな笑みがよく似合う。
ナタリーさん、どっちが悪役かわからないよ……
遠くをみると、ダニエウ達がまた騒いでいる。
あいつら、まだ呑んでいるのか……
お前ら死にたいの? それとも、ただ馬鹿なだけなの?
「皆さん出発します。斥候の話ですと特に変わった動きは無いとの事ですが、出来るだけ静かにお願いいたします!」
だってよ、ダニエウ君。
いよいよ大規模討伐の開始である。
歩く事、6時間。
小休憩を挟みつつ、巣の近くで息を潜める。
一応、修平は魔法を使えるという事で、隊列の中央。
その場所の中盤ぐらいの位置に配置された。
ナタリー達の様な実力のある者は反対に回り、最初に奇襲する。
そして、ゴブリンが慌てた所を、本隊が一網打尽にする作戦だ。
修平は緊張により、今にも吐きそうだ。
自身の唾を呑み込む音が、いつもより重く感じる。
合図があり、その後、爆発がおきる。
どうやら、ナタリー達の所にいる魔導師が、火魔法と火薬を使い、起こした爆発みたいだ。
既に遠くからは、金属の打ち合う音がする。
「おおっ! こちらも行くぞっ!」
ギルドマスターが声を張り上げる。
それにより、皆、雄叫びと共に、中央前線も戦列に加わる。
「まず生きて帰る、それが一番大事だ」
おっさん、基本方針その一、命大事にだ。
前に見える粗末な茅葺き屋根の小屋から、わらわらとゴブリン達が出てくる。
巣の範囲が広く、戦列は横に伸びているようだ。
修平の所にも、普通のゴブリンが6体。
騒ぎながら向かって来ている。
「冷静に、冷静になれ。動きを乱す為、少し太く先を尖らせるイメージを広範囲に! 喰らえタケノ◯の里!」
どこぞの会社に、訴えられそうである。
ゴブリン達が血飛沫を上げて、次々と倒れていく。
どうやら、ゴブリンの耐久値はあまり高くないみたいだ。
落ち着いて周りを見てみると、冒険者側が優勢に事を進めている。
怪我人は直ぐに後方へと運ばれ、ヒーラーに回復されている。
これならば、死傷者の数は少なくなりそうだ。
「オラオラっ! 俺の酒代になりやがれ!」
ダニエウが斧を激しく振るい、数多くのゴブリンを蹴散らしていく。
しかし、本人は気づいていないが、孤立しつつある。
「ダニエウ! 一人だけ前に出過ぎだ!」
ギルドマスターが声をかける。
だが、ダニエウが気付いた時は、既に遅すぎた。
多数のゴブリンにより、ダニエウは周りを囲まれている。
「ゴブリンごとき、俺にかかれば楽勝だっ!」
最初は足に軽い傷だった。
酒で感覚が鈍っているのか、ダニエウは傷を無視して、攻撃を続けている。
だが、次第に体がふらついていく。
「ガッ! ど、毒かよ……」
どうやら、ダニエウは毒消しを持ってこなかったようだ。
遂には、ダニエウは膝を折り、その場に倒れてしまう。
だがゴブリンが情けをかける訳がなく、畳み掛けるようにダニエウに群がる。
「やめっ、ゴッ、た、助けて……」
どうでもいい奴だが、このまま死なれると寝覚めが悪い!
「守って周りを囲むイメージを! キ◯コの山!」
すいません、訴訟は勘弁してください!
その言葉と共に、ダニエウの周りを土壁が覆う。
ダニエウを囲んでいたゴブリンは、吹っ飛ばされ、ダニエウ自体がスッポリと土の中に埋まる。
ダニエウキノコの完成である。
冒険者達が、飛ばされてふらついているゴブリン達を、次々と始末していく。
直ぐ様、ヒーラーがダニエウに近寄り、回復魔法と浄化魔法をかける。
するとどうだろう、キノコが光って、無駄に神々しいではないか。
ダニエウキノコ神、降臨である。
戦闘も終盤だろうか……
既に修平は、ゴブリンを20体は屠っている。
だが、まだ途切れない。
「まだいるのかよ……」
なにやら遠くから、誰かの雄叫びが聴こえてくる。
どうやら、誰かがボスを撃ち取ったようだ。
次第に歓声が湧き上がり、大きくなっていく。
修平もゴブリンを切りつけながら、急いで雄叫びが起こった場所へと駆けつける。
そこにいたのは……
大声で雄叫びをあげ、ボスの首を高々と掲げるナタリーの姿であった。
「ア、アマゾネス……爆誕だと……」
ボスが討ち取られた事で、魔物の抵抗もどんどん緩くなっていく。
ゴブリンとの長い戦いは、ようやく終わりを迎えようとしていたのだった。
ナタリーつえー
彼女はどこに向かっていくのか………