プロローグ
月曜日の朝。
よく晴れた空。
代わり映えのない日常。
代わり映えのない普通のおっさんが一人。
顔は平凡、年収は年並。
故に、住宅ローンの返済に追われ、毎日仕事漬けの日々を過ごしている。
おっさんの名は月形 修平。
歳はもうすぐ四十、中年であり、そして、軽く肥満。
どこにでもいそうな、毎日の仕事に疲れたサラリーマンだ。
家族構成は、妻、息子、娘、犬。
四人、一匹の核家族だ。
最近、自分たちの部屋が欲しいと子供達に頼まれ、ローンを組んで建てた、四十㎡新築の我が家。
4LDK、小さいながら庭つきである。
今まで住んでいた貸家からの引っ越しを、最近済ませたところだ。
住宅ローン三十五年、まだまだ先は長い。
一応、親子二代ローンである。
子供には嫌がられるかもしれないが……
「最近暑すぎだよ、地球温暖化は中年に優しくないな」
最近、"洗濯を自分とは別々にして欲しい"と、娘に妻が言われていた所を、偶然見てしまった。
違う、泣いてなんかいない。
目にゴミが入っただけなのである。
日課のゴミだしも終わり、駅へと急ぐ。
平日のありふれた光景、いつもの日常、日課。
そして、いつもの曲がり角を右へと曲がる。
「あれ? こんな道だったかな……」
生い茂る木々、遠くに見える山々、修平は振り替える。
しかし、どこを見ても、後ろも見ても、あるのは木々だけ。
理解不能。朝とはいえ、寝ぼけているわけでもない。
「どうしてこうなった……」
修平はローンの為に、おこづかいも減らされてしまった。
故に、最近の趣味の一つが、某無料小説サイトを読むこと。
本を読むのも好きだし、なにより疲れた日常の現実逃避にもなるからだ。
まさか、その知識が今役にたつとは……
「定番の召喚陣もないし、神様もでてこない。なにより元の世界でいきなり死んだかもしれないのか? うーん、これはどうすればいいんだ?」
修平は暫くその場で考える。
「まず、おっさんのままだから転生の線はない」
全く、どうせなら若返りしたかったところなのだが。
最近は腰が痛く、肩も重い。完全に運動不足気味だ。
若い頃は、釣りにキャンプに、結構なアウトドア派だったのだが……
できるならば、あの時に戻りたいと思わないでもない。
何かの理由で、死んでしまってから転移してたとしても、確認の仕様が無い。
もしも死んでいたらならば、生命保険がおりる。
更に住宅ローンの残高はゼロになる筈だ。
そこだけは安心できるが、残してきた家族も心配だ。
妻はかなり天然なところがある。
うーん、詐欺とかに騙されないだろうか?
携帯を見てみるが……やはり、スマホは圏外。
どこを見ても、木しか見えないのだ。
仮に異世界だとしたら、アンテナなどは一本も立ってないのだから、それは当たり前かもしれない。
仕事の出勤前なので、手持ちは書類等が入ったリュックのみ。まともに食糧も水も持ってはいない。
着ている服は、スーツズボンに半袖シャツ、防御力はほぼほぼゼロだ。
今の日本の季節は夏で、世間はクールビズだから仕方ないのだが……
「はぁ〜〜〜」
修平の口からは、ため息しか出てこない。
「これめっちゃ詰んでるやつや!」
某テレビ番組のように空に向かって叫んでみる。
誰も答えてはくれないが……
どうにもならず、途方に暮れるおっさんなのであった。