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97話 5月5日 攻略対象者たちとヒロイン。

95話の誤字を指摘して下さった方、ありがとうございました。

ちょっと違う形になりましたが、修正いたしました。

 そして、これで自分の問題は解決したのだからと、話題をファルシナに戻す。

「それで、お話の続きなのですが、メリカント様に関しては、わたしもお二人でいらっしゃるところをはっきり見ていましたので、誤解だとはっきり申し上げておきました」

「まあ…! ありがとうございます…!」

「い、いえ…、当然です…」

 ファルシナに、まるで夜明けの光のようなみずみずしい笑顔を向けられて、照れながら発した言葉の語尾は見事に立ち消えてしまった。

 ……ヒロインかわいい…! スチルに欲しい…!

 うきゃ~っ、と心の中ではしゃぎつつ、ディアナは、本題を進めようと考える。

「えっ…とですね、そもそも最初は、あの、今日、ファルシナさまがクライヴさまと一緒に遠乗りから帰られたところをエトフォートさまがご覧になっていたところから始まっておりまして……」

「…!」

 話をしつつ、ちろ、とファルシナを見れば、ぎくり、とわかりやすく驚いていた。

「あ、あの、それはですね、エルカ村に行った帰りに、門のところで偶然フィクトル様にお会いしたので、噴水の前までご一緒しただけなんです…! 本当ですよ? お話はたくさんしましたけれども、内容はディアナ様のことばかりで、ディアナ様に何かなかったか、今日は元気か、少しでも気になることがあれば、すぐに知らせて欲しいとか、クラスメイトとはうまくやっているのか、寮の食事でディアナ様が好きなメニューは何かとか、飲み物はどうだとか、など………。本当に、ほんっとうに、ディアナ様のことばかりでした」

「………そ、そうですか……」

 またしても、当事者になってしまった気分のディアナが、顔を赤くしてちぢこまると、アルテアがころころと笑った。

「まあまあ…。あいかわらず、愛されていらっしゃいますのね、ディアナ様は」

「い、いえ……そんな…ことは………」

 ある。のだろうとは思っている。けれど。

 ……こうしてあらためて見ると、やっぱりファルシナさまは群を抜いてかわいらしいし……。これでお勉強ができて、性格もよいとくれば………。まあ、男性の心が動いてしまったとしても、しかたのないような…?

 そう思いつつファルシナを見たディアナが不安そうだったのだろう。アルテアとファルシナが次々に声をあげた。

「まさかディアナ様…。フィクトル様の愛情を疑われてます?」

「あの、ディアナ様に対するフィクトル様の愛情表現、かなりあからさまですよ? あれで気持ちを疑われたら、フィクトル様があまりにも不憫です」

「え、……そ、そんなに……?」

 ディアナがつぶやくように言うと、二人はうん、とうなずく。

「そう……ですか…」

「ディアナ様は、何か不安に思うことがあるのですか?」

 アルテアに聞かれて、ディアナはうーんと考え込む。

 ディアナの不安は、クライヴがヒロインに惹かれてしまうのではないかというところから来るもの。

 けれども、現実には、ファルシナはクライヴを攻略しようとしていなさそうだし、クライヴはディアナをとても大切に思ってくれている。

 だとしたら、ディアナが不安に思うことなどないのでは?

 そう思いつつも、何かいがいがしたものが胸に引っかかるのを感じる。

 ……これって…なんだろう?

「――――」

 考えてもわからなくて、ディアナは胸に手を当てきゅっと押さえてみる。

 それでもやっぱり答えにたどりつくことはできそうになくて、首をかしげていると、ファルシナの明るい声が部屋に響いた。

「えっと、ディアナ様、他の方についても教えていただいてよろしいですか?」

「あ、申し訳ありませんっ」

 ……そうだった、今日の主役はヒロインだった。

 また本題からそれてしまったと反省しながら、ディアナはファルシナに説明をしていく。

「エンノルデンさまですが……、ファルシナさまがよく見ていらっしゃると」

「えっ…。いえ、そんな……。確かに、素敵な方なので、最初のうちは視線で追いかけてしまっていたような………。ですが、それはあくまで学園の先輩としてお慕いしている範囲です、確かに、時おり剣の稽古をつけていただいたりはしますけれど、プライベートでお会いしたことはありませんし、ましてやお体に触れたこともありませんので、馴れ馴れしくしたと言われても困るのですが……」

「まあ…、そうでしたか」

 ……ようするに、あれですね。いわゆるアイドルのような、あこがれの人を見ているような感覚だったのですね。その気持ちはわかります。わたしも、ゲームではイチオシだったロナンドさま、実際お会いしても素敵だと思いました。

 ファルシナに仲間意識が芽生えたものの、それでも完全に想いを共有することはできないのだろうと、ディアナは残念に思う。

「あとは、レスタンク先生のお名前もあがりました」

「え? レスタンク先生は、お相手の方も特にいらっしゃいませんから……別に親しくされてもかまわないのでは?」

「わたしもそう思いました」

 もっともなアルテアの意見に、ディアナもうなずいた。

 婚約者がいない者同士が仲良くなって、何がいけないと言うのか。

「確かに…、レスタンク先生は子爵でファルシナ様は伯爵のご身分ですから…、家柄が釣り合わないと言われればそうかもしれませんけれど……。それは家同士で話し合う問題であって、エトフォート様たちが介入するのは、違うと思います」

「はい」

 はっきりと意見をのべてくれたアルテアに、ディアナは感動を覚えた。

「ライル殿下とも…よく会話を交わされているというご意見でした」

「…! ライル殿下は……そうですね、あの方はあまり女性と話しませんから………」

 ……そうでしたねえ。確か、ダンスパーティでも、めったに女の子と踊らないんですもんね。みのるライルは。

「そのライル殿下が、ダンスパーティでディアナ様と踊っていらしたわけですから……あれは話題の的でしたね」

「…!」

 ……えっ…! またまたわたしっ?!

「ライル殿下がダンスパーティで踊っていたと報告を受けた王妃様が、さっそくその女子生徒の身元を調べさせていましたから」

「え? え?」

 ……え? なんでいきなり王妃さまとか、えらい人が出て来ちゃうの? え? わたし大丈夫? おこられない?

 ディアナが、まるでニシキヘビにガン見されたあおがえるのようにおどおどしていると、アルテアがにっこり笑って言った。

「大丈夫ですよ。ディアナ様にはすでに婚約者がいると報告を受けて、王妃様もあきらめていらしたから」

「あ…、あきらめる…とは…?」

「もちろん、ライル殿下とディアナ様のご結婚を、です」

「………!!!!!」

 それを聞いた瞬間、ディアナの時間は、完全に停止した。おそらく、心臓も止まっていただろう。きっとたぶん。

 ……なななない! ない! それはない!! たとえ、象が鼻だけで逆立ちできちゃったとしても、それだけはありえないっ!!

 ディアナは、涙目になりながら、ぶんぶんぶんといきおいよく首を振った。もうこれでもかと、首ちぎれちゃうよ? と言わんばかりに。

 そんなディアナの様子を見たアルテアは、困ったように小首をかしげる。

「まあ……そんなにお嫌ですか? ライル殿下とのご結婚」

「……」

 そう言われて、ディアナも小首をかしげる。

 別に、嫌、というわけではない。まあ嫌なことはいやなのだけれども。ただ、その気持ちはライルを嫌っているから、というわけではなく、本能から来る拒絶反応だ。

 ディアナにとってライルはあくまでも弟だ。生まれた時からずっと一緒にいた、双子の弟。

 今は、お互い違う両親から生まれてきているので、遺伝子的には問題ないのだろうけれども……。

「すみません、嫌というか、無理です」

 ぜったいにむり。と思いつつ、アルテアに頭を下げる。……あれ、今わたしどうしてアルテアさまにあやまっているんだろ? ………と思いつつ。

 すると、頭の上で、アルテアのくすくす笑いが聞こえて来た。

「そうですか……。もしもディアナ様がライル殿下とご結婚されたら、将来は姉妹になれたのですが……」

「……!」

 ……アルテアさまと姉妹…!!

 とても魅力的な言葉が聞こえて、ディアナは思わずがばりと顔を上げる。けれどもその願いを成就させるには、弟と結婚しなければならないと思い直し、またぷるぷると首を振る。

 ……無理…! やっぱり無理っ…!

 半泣きになりながら首を振っていると、アルテアが、またくすくす笑いながら「そうですか…残念です」と言った。

「も、申し訳ありません~っ」

「いいのですよ、ディアナ様。……ディアナ様は、フィクトル様と想い合っているのですから……そのお気持ちを大切になさってくださいね」

「は、はいぃぃっ…!」

 またこくこくとうなずきながらも、ディアナは思った。アルテアの言葉が、とてもさみしげに感じたのだ。

 うなずくのをやめてぱっと顔を上げると、目の前には、まるでいじわるが成功した子供のように、楽しそうに微笑むアルテアしかいなかった。

 ………? 気のせい…だったかな…?

 ディアナは、的外れな自分をちょっと恥ずかしく思いながら、そろそろ一番の問題に切り込もうと気合を入れるのだった。

次回タイトルは、『カーサとファルシナ、そしてアルテア。』で~す。


ディアナ「なんとも不思議な三角関係………」

アルテア「いえ、これでいいのですよ(にっこり)」

ファルシナ「複雑な気持ちです………」

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