83話 4月30日 中ボスとの遭遇?
81話の誤字報告をして下さった方、ありがとうございました。
主人公が謎な名前になっていたり、AがBになっていたりしました…!
ライル「ていうか、お湯から薬草作れたらすごいよねー」
………………………うっ。
ディアナは、紅茶を飲み終えると食堂を出てファルシナに告げたとおり、部屋へと向かっていた。
が。
「……はっ…!」
途中、とあることを思い出してしまったディアナは、顔面を蒼白にして立ち止まる。
「今日って……、マッスーオさまとヒロインのイベントがある日じゃあ…!!」
思わず、げっ、と小さな声を吐いてしまうディアナ。
廊下には人影がないからよかったけれども、もし誰かに今のひとりごとを聞かれたりしていたら……。おかしな子だと思われていたかもしれない。
その前に、ヒロインてなに? とこの世界では一度も聞いたことのない言葉の意味を、聞かれるかもしれないけれど。
けれどもまあ、そんなことはどうでもいい。今はとにかくイベントの話だ。
レダンルートにはまったく手をつけていなかったから、攻略サイトをチラ見しただけなので、あまりよく覚えてはいないのだけれど、確か、最初の薬湯作成授業の時に、レダンの薬湯をほめると、その次の休日、公園のベンチで生徒会の仕事を終えて休憩しているレダンに会えるようになる。そして、レダンが手に持っているタンブラーからするお茶に、「いい香り~」と反応すると、レダンがひと口お茶をわけてくれるのだ。
……あれ、でも、ファルシナさまとは調理室でずっと一緒にいたけれど、マッスーオさまのお茶をほめたりはしていなかった…。ということは、マッスーオさまのお茶を飲むイベントは発生しない…?
一瞬、明るい期待がディアナの胸をよぎったけれど、すぐにぶんぶんと首を振る。
……いやいや。ここはあくまでも現実の世界。ゲームならスルーされるイベントも、しっかりと発生してしまうかもしれない…!
「………」
そうなってしまっては、ディアナに選択肢などもはや存在しない。一択だ。
「――――」
ディアナは、むん、と瞳に力を入れると、きびすを返して女子寮の玄関へと急ぐ。
……ごめんなさいファルシナさま。心配していただいているのは重々承知しているのですけれども、わたしは小鳥の死骸よりもはるかに、ぶたぶた魔神に骨の髄までがりごりと食べられるほうがイヤなんです…!
イベントが発生するとは限らない。発生したとしても、ディアナに止められるのかどうかわからない。
けれども、部屋でじっとしていることなどもうできないのだ。
ディアナは、心の中でなんどもファルシナにあやまりながら、さっさか寮の外へと出たのだった。
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ゲームでレダンがよくお茶をしていたベンチは、男子寮から近い場所にある。
ディアナが駆け足で公園にたどりついた時には、レダンはすでにひとりで椅子に座っていた。
手には青色のタンブラー。きっと中にはお手製のお茶が入っているのだろう。
透明のタンブラーには、青色の液体が入っている。
……なにあれ、ブルーハワイ味?
前世の認識だと、合成着色料がたんまり入っていることまちがいなしな、あざやかな青色。
けれどもこの世界には、合成着色料という物質は存在していないので、あの色も、純粋に何かの植物を煎じて出されたものなのだろう。
……大丈夫、あれを飲んでも健康に害はない………はず。
まあ、飲むとしてもそれはディアナではない。ヒロインだ。
そして、昨日レダンからもらった薬湯も、とてもおいしかった。ミントのようなさわやかさと、オレンジの甘酸っぱさが。口の中いっぱいに広がって、ほっぺたが落ちるかと思ったくらいだ。
……うっかりほっぺたを押さえてしまったのは、しかたないことだと思う。うん。
「………」
授業中なのにうっかりはしゃいでしまい、ファルシナとアルテアをはじめ、周囲にいたクラスメイトにびっくりされてしまった時の気恥ずかしさを思い出し、ディアナの顔が心なしか熱くなる。
……いやでも、そんなことより…!
今は、イベントがどうなるかの方が重要だと、ディアナはぱちんと両手でほおをはたき、レダンの視界に入らないよう、けれども、自分からはレダンがよく見えそうな、茂みの中に身をかくす。
立ち上がればディアナの腰あたりの高さ。しゃがめば、頭の上までかくしてくれる。
今はちょうど若草色のワンピースを着ているし、これならレダンに見つかるリスクも少ないだろう。
……東南門に行く時も、ファルシナさまはこのあたりを通るはずだけれど、お姿が見えないと言うことは、多分まっすぐ東南門に向かったはず。だったら、勝負は帰り道。ファルシナさまが女子寮に戻る時も、このあたりを通るはず。ファルシナさまは、どうするかな? マッスーオさまを素通り…はさすがにないだろうから、軽く会釈をして去るのか、それとも、立ち止まってお茶のことをたずねるのか…。マッスーオさまから声をかけることはない……とは思うけれど、それはあくまでゲームでの話。ゲーム序盤は、こちらから話しかけないと、攻略対象者たちは見向きもしてくれないし。………ただ。
ディアナは、先日の光景を思い出し、両腕で自分のひざをぎゅっと抱いた。
……ファルシナさま、ゲームではありえないのに、四月のダンスパーティで、カーサ殿下とダンスを踊ってたしなー…。
そう。現実世界では、何がおこるかわからないのだ。
だから、今日、ファルシアとレダンが突然仲良くなって、意気投合して、じゃあ今からデートしようか? なーんてことになるかもしれない。
「………逆ハーレムルートは、いつ発生してもおかしくないと思っておいた方がいいかも……」
ディアナは、うーんとうなりながら、ひざをぎゅうぎゅうとしめつけつつ、前後左右に体をゆらす。
目を固く閉じて、唇をきゅっと引き結び、自分はどう動くべきかを考えてみるけれども、ぶっちゃけ何も思い浮かばなかった。
……この体勢が悪いのか、それとも、たんにわたしの発想力が貧困なのか。……おそらく後者。
結局なにも思い浮かばず、がっくりと肩を落とすディアナ。その頭上に。
「――――で? 君はいったいここで何をしてるわけ?」
テノール声が落ちて来た。
「………」
ここ数週間で、だいぶ聞いた感のある、張りがありながらもつややなかその声。
胸に生まれたもやっと感をなだめつつ、それまで自分の足元を見ていた目線を、すこしだけ前に向けてみる。
すると、これでもかとばかりにぴかぴかに磨かれた、皮の靴が目に入った。
……うわあ…、これはまた、手入れの行き届いた靴だねえ……。貴族が身に着けるものを自分できれいにするってあんまりないから、この靴の持ち主は、メイドをやとう余裕のある裕福なおうちの子か、はたまた靴磨きが大好きな子か……。どっちかな。いや、十中八九貴族でしょ。しかもこの赤っぽい皮、もしかして、けっこう希少なレッドクラーケンなんじゃないのかな? お母さまが狩って来て、お父さまのお誕生日にプレゼントしてた鎧の皮と、まったく同じ素材な気がするんだよね。そいつ、自分がピンチになると猛毒の墨を吐いて、海を汚すから、出会ったとしても瞬殺できる力を持たない限り、刺激してはいけないことになっていたりする。ちなみに、うちのままは、一瞬で獲物を氷のオブジェにする力をお持ちです。ぶっちゃけあのひと、かなり強いです。
……まあ、そんなわけで、今、目の前の人がはいているこの靴は、よっぽどのお金持ちでないと入手できない代物。…あ、そういえば、うちのかーさまが、とーさま用に鎧を作って、ちょっと皮があまったからって、王族の方に献上するとか言ってたかも。……いえいえかーさま。王族に献上する皮があまりものって、それはちょっと……、…なんて、言ってもムダなんだよね。だってうちのままん、ぱぱん第一ですから。たぶん子供よりも余裕でぱぱん大好きですから。まあ、夫婦ふたりで、いつまでも仲睦まじくしてくださいってものですよ。
「―――――君、おれの話聞いてる?」
ディアナが、現実逃避と言う名の思考の海で、ばしゃばしゃ海水浴をしていると、テノールな声がいらつき出した。
「……聞いてます」
これ以上怒らせると上から何かあぶない言葉が降ってくるかもしれないので、ディアナは白旗をあげることにする。
「何かご用でしょうか……ライル殿下」
次回のタイトルは『ライル=?』で~す。
ディアナ「そ、そんなまさかうそ~ん!」
ライル「……ちなみに、お前よりも先に気づいた人いたぞ?」




