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75話 4月27日 援軍現る?

 パメラは、ディアナを見ると、フン、と鼻で笑いながら言う。

「入学したばかりなのに、早々に鍛錬をあきらめるなんて、国の防衛をあずかる辺境伯としての自覚が足りないのではありませんか? ……それとも? 鍛錬をしている時間があったら、婚約者以外の男性に色目を使う大切だとお思いなのかしら?」

「……色目?」

……ええー…、またそれですかー…?

倒れた次の日に言われたことを思い出し、ディアナは、ちょっとげんなりな気分になる。

 ……だから、そんなもの使った覚えはありませんて。というかむしろ使い方がわからない。

 とディアナは心の中でつぶやいた。そう、あくまでも、心の中、で。

 パメラに問いかけるように声を発したのは、それまで、魔動具屋の主人と一緒にガールズトークを静観していた、ライルだった。

「そう…! そうなんです、ライル殿下!」

 パメラは、はつらつとした声をあげて、ライルに駆け寄った。

「サルーイン様は、フィクトル侯爵子息という婚約者がありながら、他の男性とも親しくなさっておりますの。殿下に申し上げるのもあれですけれど……正直、はしたないと思えるくらいです」

「へえ………」

 パメラの話に、ライルはすこし大仰にうなずいた。

「サルーイン嬢は、具体的に、どう男性に接してるのかな?」

 ライルの質問に、パメラは意気揚々と答える。

「たとえば、土地開発の授業中、ご自身でもできそうなのにわざわざ殿方の手を借りてみたり、馴れ馴れし気に会話してみたり…。先日なんて、倒れた翌日にわざわざ鍛錬場に行くふりをして、殿方に心配をかけてみたりしていました」

「はあ?」

 ここで、ライルはぎゅるっと首を回してディアナをぎろっと睨みつけた。

「鍛錬したの? 倒れた次の日に?」

「…へ?」

「えっ…」

 ライルが向けた言葉に、ディアナはきょとんと眼を見開き、パメラは拍子抜けしたような顔をした。

 そんな二人の様子も意に介さず、ライルはディアナにぐぐっと詰め寄る。

「ソーラテス医師に、翌日はすこしでも体調がおかしいって感じたら、大人しくしてろって言われてたよね?」

「………は…はひっ…」

「あれは、完全回復してないと思ったら、一日安静にしてなさいって意味なんだよ。で、完全に回復してたの?」

 言いながら、どんどんディアナに顔を近づけてくるライル。睨まれているし、声にもとげがぢくぢくついている。ディアナは、完全に迫力負けして、すこしずつあとずさりながらも正直に答えた。

「……か、完全には………」

「はあ!?」

「ご、ごめんなさいぃぃぃっ!」

 ライルにすごまれ、ディアナは、首をすぼめながらあやまった。まさしくあれだ、へびににらまれたかえるの気分だ。

「……ったく…」

 素直にあやまったのか功を奏したのか、ライルの追究は終わった。けれど、不機嫌そうにくしゃりと髪をかき上げてるさまから、今一度、ライルの不興を買えば、また大きな雷が落ちて来ることが予測された。

 ……ここからは、できるかぎり何も話さないで、おとなしくしていよう。

 ディアナがそう心に決めた時、ライルを呼ぶ声があがる。

「………ライル様」

 現時点では、近い将来、ライルの義姉になることが決まっている、アルテア・シャブリエだ。

「……何?」

 ライルは、ディアナを問い詰めていた時よりも、幾分かやわらいだ声で答えた。いいなあ、わたしもそんな声で話して欲しい。とつい心の中で願ってしまうディアナだった。

「ライル様も、倒れたディアナ様のお見舞いに行かれたんですか?」

 アルテアの質問に、ライルは即座に首を振った。

「いや。サルーイン嬢が医務室に運び込まれた時、たまたまおれも居ただけだ」

「そうですか……」

 アルテアは、ライルの答えにうなずいて、それから静かにほほえんだ。

「殿下は、サルーイン嬢をとても……心配していらっしゃるのですね」

「?!」

 ……え。 心配? アレで…?!

 大きく異を唱えたいディアナだったけれど、今、よけいなことを言って、またライルを怒らせたくないので、寸でのところで口を堅く閉ざす。

 アルテアの口調がさみしそうなのがすこし気になるけれども、それも言わないでおこうと決める。だって、今、よけいなことを言って以下略。

「……ああ…、まあそうだな」

 そんなアルテアの言葉を、ライルは肯定した。

「………」

 アルテアの表情から笑みが消えかけたその時、ライルは、ディアナに対する本音を言った。

「このサルーイン嬢は、どこか抜けているように見えるから、何だか放っておけなくてね」

「…?!」

 はあ?! と口に出しそうになったのを、ディアナは根性で飲み込んだ。だって、もし今一度以下略。

 むぐ、と自分で自分の口を押えるディアナ。けれど、ふつふつと怒りが湧くのは押さえられない。

 ……だってだって、どこか抜けてるって、どういうことよ!

 ディアナが、手で押さえた口の中で、むきい! とライルを威嚇していると、速攻で気づいたライルが、本当の事だろう? と言わんばかりにディアナをにらみつけてくる。

「………」

 ディアナは、すこしずつうつむくことでライルから視線を外し、そろそろとカウンターの位置まで下がった。

 けれども、ディアナの不満が収まったわけではない。

 ……抜けてるって、ひどい。だいたいライルさまは、わたしのどこを見てそんなことをおしゃっているのだ…!

 未だ押さえた口の中で、むうと口をとがらせていると、アルテアが小さくうなずいた。

「……そうですね…。確かにわたしも、ディアナ様にはすこし、天然な部分があるとは思っておりました」

「?!」

 ……え、待って。ライルさまに続いてアルテアさまも、そんなことおっしゃる?! 天然て、つまりはあるいみ抜けてるって意味だよね?! なんか、オブラートできれいに包んでみましたー、風にしてるけれど、つまりはそういうことですよね?!

 アルテアの言葉に、ディアナがすくなくないショックを受けていると、また新たな声があがった。

「実は……わたしもすこしそう思っていました……。ディアナ様って、たまにおちゃめさんだなって」

「!」

 ……ファルシナさままで?! しかも、そのおちゃめさんて、かわいらしくおっしゃっていますけれども、実際はおまぬけさんって意味ですよね? そうですよね? ねっ?

 つまり、三人から抜けさくさんと言われてしまったディアナが愕然としている前で、ライルたちの会話がはずむ。

「あ、気づいてた?」

「ええ、なんとなく…」

「よかった~、わたしだけじゃなくてっ」

「………」

 ……いや、よくない。当事者からしたら、まったくよくないよ? 君たち。

 そんなディアナの心の声は、誰にも届くことなく会話は弾む。

「でも、フィクトル様がしっかりしていらっしゃるから、大丈夫ですよ、きっとっ」

「いや~? あいつも案外抜けてるよ?」

「まあ…、でしたら、わたし達がしっかりとお二人をフォローしなくてはいけませんね」

「教室と寮でのフォローはどーんとお任せください、殿下!」

「ははは。頼もしいねえ」

「では、殿下にはフィクトル様のフォローをお願いしましょう。……あまり必要がないようにも思えますけれど」

「ま、りょーかい」

 ―――――かくして、ここに、見ていてちょっと危なっかしいディアナを見守ろうの会、らしきものが、ヒロインと攻略対象者、そして、悪役令嬢Aによって結成されてしまったのだった。

 ……ええー…。なにこの展開…。

 本人の承諾を得ることなく、盛り上がってしまった三人は、この後、用事があるから、と先に帰宅したパメラを見送り、町で楽しく昼食を取るのだった。……もちろん、ディアナを連れて。



ファルシナ「……で、根っこを取ろうと穴を掘り続けていたディアナ様をフォローすべく、リューク・ブルグ様が風の魔法を使ってくださったんです」

ライル「で? その時に色目を使ったの?」

ディアナ「! 使ってません!」

ライル「だろうねえ……使える色目自体を、持ってなさそうだし」

ディアナ「………(ここは、喜ぶところなのだろうか……ふくざつ。……あ、そういえば。)ライルさま、お体はもう大丈夫なのですか? 先日、医務室にいらっしゃいましたよね?」

ライル「………。(無言でにらむ)」

ディアナ「……! (ひいぃ…! なぜっ?)」

次回のタイトルは『75日、がまんしよう。』


ディアナ「え、何をがまん?」

ライル「正座とか?」

ディアナ「いやいやいや。むりむりむりむり」

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