71話 4月25日 ディアナの実力
……それって、アレですね?! わたしが魔力で作った石を、クライヴさまが風で飛ばす技…!
「へえ、二人はもう合わせ技を持ってるのか。ぜひ見たいねえ。―――――敵ももう近くまで来てるし」
言いながら、ロナンドが、先陣はゆずるとばかりにシンドをうながし、ディアナの後ろへと移動する。
前衛がいなくなり、見晴らしの良くなったディアナの視界に、頭から細長い尻尾まで、ほぼ全身をうろこのような皮膚におおわれた、体長五十センチほどの魔物が歩いて来る。
しゃくしゃくと小さな脚で若草を踏みしめる姿は、すこしだけかわいいと思えるけれど、相手は魔物だ。動く生物が近くにいれば、「今日の晩ごはんげっとするで~っ!」とばかりに容赦なく襲い掛かって来る。
……たしか、こいつは、お腹だけやわらかいんだった。だから、一般的な攻略法は、うまく転ばせたところでお腹を刺すか、それとも、力押しでたたきつぶすか。…あ。
「……クライヴさま」
「ん?」
「わたし、すっごく簡単にあいつを倒せそうな方法を思いつきました。クライヴさまにも協力していただきたいんですけどいいですか?」
「いいよ」
ディアナの提案を、内容に聞かずにあっさり受け入れるクライヴ。
「あら男前」と感心するアルテアに、「わ、結婚前の共同作業? 見たい!」となぜかはしゃくファルシナ。「何するつもりだこいつ」ばりの、あきれた目を向けて来るライルに、ちょ、ちょっとみなさん!? 魔物が近づいて来てるのに、雰囲気なごやかなんだけどどういう事!? とばかりにあせった表情のシンド。
唯一、ロナンドだけは、神経を研ぎ澄ませ、敵の動きに気を使っているようだ。けれども、余力の部分を使って、ディアナたちをあたたかい目で見守っている。
……な、なんなの……?
おのおのが見せる表情がカオスとなって、ディアナの頭を混乱させる。けれどもクライヴは落ち着いていた。
「で、おれはどうすればいい?」
おのおのが放つ独特な空気にも一切動じる様子はなく、ディアナに作戦を問う。
……! だめだめ、まわりの空気にまどわされちゃ…! わたしは今から魔物を倒すんだから。
クライヴのまっすぐな声で落ち着きを取り戻したディアナは、きりっと表情をひきしめるとクライヴに作戦を伝える。
「土の魔法でマルマジロをひっくり返すので、お腹を攻撃してください」
「わかった」
「じゃあ、――――行きます」
宣言するように言って、ディアナは地面に膝をつく。そして、両手のひらを地面に置き―――――地の魔力を流し込んだ。
すると、走るマルマジロの足元の土ががくんとへこんだ。マルマジロが穴に足を取られている間に、土のかたまりを棒のように伸ばしてまるいお腹を小突くと、マルマジロの体がくるりと半回転し、ころんとあおむけに倒れた。同時にマルマジロの周りにある土を盛り上げ、四本の足と尻尾をがっしり押さえる。
「クライヴさま、お願いしますっ」
「了―解っ」
ディアナが声をあげると同時にクライヴは剣を抜き、マルマジロの弱点である腹部に向かって振り下ろした。
「ミギ…!!」
マルマジロは、ほとんど悲鳴をあげる間もなく、その体を宙へと散らして行った。
あとに残ったのは、半分土に埋もれた、マルマジロの皮。これを、シンドが素早く膝をつき、掘り起こし始めた。
「んー。地味だねえ」
一部始終を見ていたライルが、率直な意見を述べる。
……たしかに。
正直、ディアナもそう思っていた。
そもそも土の魔力は、すべての魔法属性の中でも防御に突出している。それを攻撃に転じさせるとしたら、今のような地道な作業を積み上げるしかないのだ。
「……地味なんだけどー…」
……地味でもいいもん。
「ちょっとすごいな」
「……ですね」
……別に、ライルさまと共闘するわけじゃあないし?
「マルマジロの足を引っかけた穴、小さいのが二つしか開いてない」
「つまり、マルマジロの進む方向と、足が地面に落ちる瞬間を、一瞬にして読んだ、と」
……わたしは、クライヴさまのお役に立てれば、それでいいんだから。
「ああ。しかも、マルマジロの動きを止めた土の盛り方にも、まったく無駄がない」
「ええ。魔力のコントロール能力が高い証拠ですね」
「そうだな」
……みんなみたいに、ぐわっと魔法を放って、ぱぱっと魔物を倒せなくったって、……いいんだもん。くすんくすん。
「………クライヴさま!」
「ん?」
「わたしの力は、直接攻撃には向いていないかもしれませんけれど、がんばりますからっ!」
「えっ、あ…いや、でも、ディアナはまだ体が成長しきっていないわけだから、無理はダメだよ?」
「…! そ、そうでしたぁ…」
クライヴに指摘されて、自分の現状に気づき、残念そうに肩を落とすディアナ。
クライヴが、「大丈夫、あと一年もすれば、体は成熟するから」とディアナをなぐさめる。そこからすこし離れた場所で、ロナンドがライルに訊ねた。
「………サルーイン嬢、おれ達の話、聞いてましたかね?」
「聞いてなかったんじゃない? まったく」
「ずいぶん落ち込んでいるようなので、…もう一度ほめましょうか」
そう言って、ディアナのもとへ行こうとするロナンドを、ライルが引き止めた。
「いいんじゃない? 落ち込ませておいて。おもしろいから」
「………そうですか」
「……まったく…。悪趣味ですわよ、ライル殿下」
「………。(うんうん)」
ライルが傍観を決め込んだので、ロナンドはディアナの名誉回復を取りあえずあきらめる。
アルテアは、とげとげしい口調で意見をのべ、ファルシナは、うなずくことでアルテアに同意した。
「……でも、大丈夫そうね」
アルテアがそう言って、見つめた先には。
「………ディアナの魔力コントロールは正確だと思うよ。無駄もないし」
「本当ですか?」
「うん。おれのクラスにも、かなうヤツいないかも」
「えええ~?! そんなに褒めていただかなくても……」
「いや、本当だって」
ディアナを正当に評価する、クライヴの姿があった。
「………フォローは万全。わたしたちの出る幕はないわ」
「ですねっ」
お見事ね、とつぶやくアルテアを、ファルシナがうれしそうに肯定する。
そんなファルシナに、アルテアが目を細めた。
「……とても不思議なんですけれど………あの二人の笑顔を見ていると、こちらも幸せになれる気がしますわ」
「! シャブリエ様もですか? 実はわたしもそうなんです」
「まあ…! わたしたち、気が合いそうですね」
「はい!」
「これからは…ファルシナ様とお呼びしても?」
「ええ、ぜひ!」
「わたしの事は、アルテアと」
「ありがとうございます、アルテア様!」
「まあ、うふふ…」
美少女二人が、楽しそうに微笑み合う。
「じゃあ、次はわたしたちが先頭になってみます?」
「いいですね、それ!」
「いや、それはさすがに……」
盛り上がる二人に、護衛のシンドが異を唱える。が。
「いいんじゃない? 初級の魔物に力負けするような子達じゃなさそうだし」
「いざとなれば、後方からフォローしますよ」
実力者のライルとロナンドが口々に言うので、シンドは「わかりました」とあっさり引き下がった。
魔法学園に入学したての新入生を先頭に立たせるなど、本来ならあってはならないことだけれど、このメンバーは例外だと、柔軟に考える。
「どうせなら、もう少し奥に行ってみるか」
「そうですね。このメンバーなら、中級に出くわしても問題ないでしょう」
「いっそ森の魔物を狩り尽くすか」
「さすがにそれは無理です。時間的な理由で」
そんなことを言いながら、新入生を前衛に置いた形で、パーティは移動を開始する。
結局、奥に入り過ぎてうっかり遭遇してしまったオークさえもあっさり倒し、シンドの度肝を抜いたのだった。
次回のタイトルは『自由研究…って授業なの?』
ディアナ「んまっ。塩パンんまっ」
ライル「………タイトルとかけ離れてるけど…。これも一応次回予告」




