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70話 4月25日 討伐開始。

 魔物が出現する森は、学園からしばらく馬を走らせたところにある。

 最弱の魔物と言える、魔法も使えず腕力も弱い小柄なゴブリンから、騎士ですら一対一で戦うのは厳しい剛腕の魔物、オークまで住まう森だ。

 森の周りには、高さ十メートルほどの壁がそびえたち、領民を、そして学園生たちをつねに守ってくれている。

 もっとも、ゲームの時は、ディアナをおいしくいただいたぶたさんによって、あっさりと破壊されてしまったのだけれども。

 ……いつまでも、あると思うな高い壁?

 なんて、しょーもないことを考えながら、ディアナは目の前の壁を見上げる。

 壁に積み上げられた石は、しっかりとコンクリートで固められていて、幅もディアナが二人ならんで手を広げたくらいあり、そう簡単に壊れるとは思えない。

 ……やっぱり、生贄召喚で呼ばれた魔物って、強いんだなー……。できればお目にかかりたくない。

 ちょっとゆううつになりつつ、ディアナは、仲間たちと一緒に、壁に取り付けられた石の扉が開くのをながめる。

「じゃあな、ロナンド、クライヴ。新入生をしっかり守ってくれよ?」

 すれ違いざまに、ロナンドの肩をたたくのは、教師のアレク・サンドロス。学園内…どころか、国内でも上位の実力を持つ剣士でもある。

 そんなに強いんだったら、参加者の半分が一年生の、ディアナたちのチームを護衛してくれてもいいと思うのだけれども、アレクは、講堂前に集まった生徒たちのパーティを編成した際、ディアナのチームの顔ぶれを見たとたん、「………護衛、必要か?」とのたまった。それに対して、ライルが「一応つけてください」と答えると、「そうかー…」とつぶやいた。

 で、騎士の詰め所に到着すると、学生たちを護衛するために待機していた騎士の中でも、新人らしき人を指名し、「こいつら、道案内するだけでいいから」と仰せになった。

 ……さ、三人も新入生がいるのに、扱い雑…!! そりゃあ、クライヴさまはお強いですよ? 攻略対象者であるロナンドさまとライルさまもおそらく然り。でもでも、戦わない女の子が三人もいるわけだから、何が起こるかわからない魔物が住まう森の中、もうすこし守りを固めていただいてもバチは当たらないと思うの…!

 と、思っていたのはほんの三十分前。

 壁の近くで、何度か敵と遭遇し、戦いも経験した今、教師アレクの采配は正しかったと認識する。

 戦闘は、たとえばこんな流れで行われた。

 ≪ゴブリンのむれがあらわれた!≫

 ≪クライヴは、風のまほうをはなった! かいしんのいちげき!≫

 ≪ゴブリンABCにちめいてきなダメージをあたえた!!≫

 ≪ゴブリンABCをやっつけた! クライヴはみっつのませきを手にいれた≫

 とまあ、こんな感じなのだ。

 攻撃をしたのが、ロナンドであってもライルであっても、内容はほぼ変わらない。

 ロナンドは剣技で、ライルは水の魔法を使って、出会った魔物を瞬殺してしまうのだ。

 確かに、これだけ強い三人に護られているのなら、護衛は必要ないかもしれない。道に迷わないための案内人がいれば、充分だ。

 しかも、ライルが水の魔法で敵の動きを封じると、アルテアが心得たように炎の魔法を放つ。すると、あっという間に、ゴブリンの体が崩れ落ち、あとにはゴブリンと同じ緑色の小さな魔石だけが、ころりと地面に転がるのだ。

 ……この人たち、やばすぎる…。完全にオーバーキルだよ………。

 クライヴのうしろで、魔物ではなく人間におびえるディアナだった。

「――――そういえば、オランジュ嬢は、光魔法が使えるんだったよね?」

「あ、はい」

 ライルの問いに、ファルシナは頭を半分だけうしろに向けて答えた。すると。

「ちょっと見てみたいなあ。次に魔物が出現した時、初撃をまかせてもいい?」

「えっ…」

「当てるだけでいいよ。あとはこっちでフォローするから」

 突然の提案に驚くファルシナに、すかさずライルが援護を申し出る。

 ファルシナは、唇に手を当てて、すこし考える仕草をしたあと、うなずいた。

「………わかりました。もしもの時はお願いします」

「了解」

 よほどファルシナの魔法が見たいのだろう。ライルは力強くうなずいた。

「というわけでシンド、初級の魔物がいそうな場所へ向かってくれ」

「は、はひっ」

 ロナンドにシンドと呼ばれた護衛兵は、獲物の槍を握りしめ、慎重に歩みを進める。

 ……この、ちょっとおっかなびっくりなところ、いいなー。戦闘になってもぜったい無茶しなさそう。

 ディアナは、サルーインの領兵を思い出し、ちょっと遠い目をする。

 ディアナの母の気性も手伝ってか、どうもサルーイン領には、荒事好きな人が多いのだ。

 修行のためと、小さなころから彼らの狩の現場に連れて行かれたりしたのけれど、魔物が出たらガチンコ勝負、正面から突っ込む人が非常に多い。

 どうやらみな、先陣を切るのが兵士の栄誉と考えているようだ。

 ……いったいどこの戦国武将だ。血の気が多すぎるよ。

 サルーイン領を継いだあかつきには、もうすこしおだやかな人にも働いてもらおうと思う。

「―――――出た」

 ディアナが、来るかどうかもわからない将来設計を立てていると、シンドのななめ後方を歩くロナンドが小さく声をあげた。

「えっ…」

 きょろきょろと辺りを見回すシンドにもわかるように、ロナンドが獲物のいる方向を指し示す。

 そこにいたのは、頭に角を持った、体長一メートルほどの犬の魔物だった。

「スクリュードックか…」

「実力的には、初級の上級ってところだね」

「! す、すみませんっ!」

 ロナンドとライルが言うと、シンドが必死に頭を下げる。初級でも底辺の魔物がいる場所へ行くつもりが、ミスったと思っているのだろう。

 給料減らされたらどうしよう…! そんなことを思っているかもしれないシンドに、ロナンドが言った。

「いや、問題ない。オランジュ嬢、行けるか?」

「はいっ、行きます!」

 ロナンドが指示を出し終えるころには、ファルシナは魔力の充電を完成させていた。

 手の平に集めた光の魔力を、一気に犬の魔物へと放つ。

「ギャイイィィィィィン!!」

 瞬殺だった。

 角つのわんこは、魔法の光に一瞬にして焼き尽くされ、光が収まるころには、ディアナたちの前に小さな白い角が落ちているのみ。

 ……さすがヒロイン、やっぱりチートだ。……でもさ、初級の中でも強めの魔物を瞬殺できるってことは、もはや護衛するべき人間て、わたし一人なんじゃ? それとも、シンドさんはわたしの仲間に入れていいのかな?

「すごいな……」

 ひとりもんもんと考えているところへ、クライヴのつぶやきが聞こえて来る。

 ……そうだよねー、やっぱりすごいよねー。チートは。

 クライヴに感心されるヒロインがうらやましくて、心がささくれ立つディアナ。と同時に大きな不安にも襲われる。

 ……きっと、ゲームでもこうやって……、ヒロインのすごい力を見て、クライヴが惹かれて行っちゃったんだろうなー……。実力があって、かわいくて、その上性格もよいと来たら、そりゃあ、わたしなんかぜんぜんたちうちできませんよ。あちらさんが血統書付きのネコちゃんアシェラだったら、こっちはただの雑種ですよーだ。なにさなにさ、雑種にだって、かわいいねこちゃんいっぱいいるんだから。もっとも、みんなかわいいとは限りませんけれどもっ。……とかやってるうちに、ゲームのDも、すっかり心がすさんじゃって、ヒロインの教科書やぶったり、体育倉庫に閉じ込めたりしちゃったんだ、きっと。……まずい。何がって、Dの気持ちを理解できる点が非常に。

 と、ディアナが思考を行ったり来たりさせて忙しくしていると、横でクライヴの声がした。

「じゃあ、次はディアナかな」

「………? へ?」

 何を、と聞くのはきっとヤボだろう。アルテアはとっくに参加しているし、ファルシアはたった今、物語のヒロインにふさわしい力を見せた。

 となれば、あとに残るのは。

「え、わたし…ですか?」

 予想外の指名に、ディアナは目をしばたかせる。

「そう。この前、鍛錬所で一緒に練習したやつ、やってみようよ」

「えっ…!」

次回のタイトルは『ディアナの実力』で~す。


ファルシナ「見てくださいっ。あそこ一帯春ですよっ」

アルテア「まあ本当…。なんてほほえましい……」

ライル「二人のセリフが、タイトルとかけ離れていますが、ちゃんと次回予告です」

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