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68話 4月25日 パーティメンバー

「おはよう。サルーイン嬢」

 ……!

 早朝という時間帯のせいなのか、いつもよりもすこしかすれた声で名前を呼ばれ、ディアナはぴゃっと背筋を正した。

「お、おはようございます。エンノルデンさま!」

 数メートル離れたところにいる生徒たちが振り向くレベルの大きな声を出した勢いのままに、ディアナはマントをつかんでちょっと広げ、ひざを折る。

 ……ああっ…! 防護服を着てる時は、女性も男性と同じに頭を下げるだけのあいさつでいいんだった……!

 思いがけず大きな声を出してしまったのと、あいさつのしかたまで間違えてしまった。

 恥ずかしさの上にまたべったりと恥ずかしさを塗り込んでしまい、ディアナは肩を縮こませる。

 その頭の上で、ふっと小さな笑い声がした。

「朝から元気だね」

「あ、ありがとうございます…」

 やさしい口調に誘われるようにそろそろと顔を上げると、やさしげな表情のロナンドが視界に入る。

 どうやらディアナのまちがいは、さらっと見逃してくれるつもりらしい。

 貴族の中には、格式やら形式やらにこだわる人もいるけれど、ロナンドは後者のようだ。

 ディアナは、ほっと胸をなでおろしつつ、ロナンドを注視する。

 ……ふんふん。紺色のマントにグレーのチュニック………。ロナンドさまは、ゲームで魔物討伐に行く時の服と変わらないんだね。ヒロインのマントは、ゲームではクリーム色だったけど、実際はわたしの緑色のマントよりもちょっと薄いくらいのものを着用………。だよねー、やっぱり、現実を見たら、そうなるよねー。……って! ちがう、気をつけるとこ、そこじゃないっ。ロナンドさまが、ヒロインをどう誘うのか…じゃなくて! ヒロインを誘うのかどうか! でも、もしここでロナンドさまがヒロインをパーティに誘ったとしても、阻止することなんてできるのかな? 二人の会話に割って入る? いやいやだめでしょ、割り込みは。 なら、騒ぎを起こして目を引く? って、どんな騒ぎを起こせばいいの? お腹痛い…! とか言ってみる? ……いやいや、そんなことしたら、この場にいるみんなだって、心配するだろうし。目立っちゃうし。……じゃあ、どうすれば…? ……ううーん…、あれだね、恋愛シュミレーションゲームで、ヒロインの邪魔をする悪役令嬢って、行動力がすごくあるんだね。わたしちょっとまねできないかも。

「……嬢、……サルーイン嬢?」

「…! は、はい…っ?!」

 名前を呼ばれて、深海近くまで潜っていたディアナの思考が、ぶわっと浮上する。

「な、何でしょう? エンノルデンさま?」

 何ごともなかったかのように、返事をしてみたディアナだったけれど、ロナンドの表情は明らかに曇っていった。

 ……まあ、それもそうか。こんな至近距離で話しかけられたのを無視しちゃったんだから、当然気を悪くするよね…。

 気をつけようと思ったそばから、また犯してしまった失態に落ち込みそうになったところで、ロナンドの意外な言葉にディアナは目を見張った。

「サルーイン嬢は、確か、おととい鍛錬室で倒れたと聞いている。…もしかして、まだ体調が戻っていないのか?」

「えっ…」

「ええっ…! 大丈夫なんですか? サルーイン様っ」

「えっ、えっ…」

 ファルシナにまで心配され出し、ディアナはあせった。

「い、いえっ。体調の方は、もう大丈夫です。昨日もゆっくり休みましたし………」

 気遣いの目を向けてくる二人に、必死で元気アピールをするディアナだったけれど。

 背後から、肩にぽん、と手を置かれ、振り向きざまに聞いた声に、ディアナは肩をちぢこまらせた。

「―――――正確には、休んでもらった、かな」

「……うっ…」

 ……そうでした。昨日は、まだちょっと完全回復とは言えないかなー? いやでもここで鍛錬をサボって、あとちょっとのところで、ひとくいぶたさんから逃げきれなかったらいやだなー…。ということで、教員室に鍛錬場の鍵を借りに行って………。今、わたしの肩に手を置いている、クライヴ・フィクトルさんに止められたのでした。ちゃんちゃん。

「おはようクライヴ。遅かったな」

「来る途中で、ケチーダ・メトンに捕まりました」

「考古学同好会か。で、何だって?」

「昨年度より予算を削られたのが、納得いかないと言われたので、これ以上予算を増やすなら、何にどれだけ使ったのか詳細に提出する事になると言いました」

「それでいい。あいつは会の予算で私物を買っているようだからな。――――で、今日のパーティメンバーは、四人そろったってことでいいのかな?」

「えっ…、」

 生徒会の会話から、突然、授業の話に切り替えたロナンドに、ディアナは小さく声をあげた。

 ……え、待って。メンバーが四人というのは、それってまさか……。

 と、ディアナが内心わたわたしているさなか。

「君は、ディアナと同じクラスだよね?」

「は、はいっ。ファルシナ・オランジュと申します」

「もちろん知ってるよ。入学式で新入生代表挨拶をしていただろ? 立派だったよ。おれはロナンド・エンノルデン。よろしく」

「あ、ありがとうございます。わたしも、もちろん存じ上げております。生徒会体育委員長」

「そうか、じゃあこちらもありがとうかな?」

「いえ、そんな…」

「君は確か、光の魔法の使い手だったね」

「ええ、多少ですが…」

「謙遜は必要ない。新入生代表になるくらいなんだから、相当優秀なのはわかっている。今日はよろしく頼むよ」

「え? ええ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「オランジュ嬢、おれは、クライヴ・フィクトル。ディアナの婚約者だ。今日はどうぞよろしく」

「は、はい。よろしくお願いいたします」

「…………」

 ディアナが対策を講じる前に、ヒロインがパーティに組みこまれてしまった。

「さて、あとの二人は……」

 つぶやきながら、ロナンドが周囲を見回す。と。

「ああ、もうあちらにいらっしゃるな。みんな、行こう」

「………」

 ……え。もういらっしゃるって、………どういうこと?

「行こう、ディアナ」

 いやな予感がして、かちん、とかたまってしまったディアナの腰に手をそえ、クライヴがそっとうながす。

「あ、はい……」

 返事をして、先頭を歩くロナンドへと視線を向ける。

 ……えっ…。

 そこで、ディアナは再び固まった。

 ロナンドの歩く先、そして視線の先にいるのは。

 おそらく、ディアナがこの学園内で、もっとも苦手にしている人物。

 ……わああ~っ、ダメですロナンドさま、そっち行ったらダメ。ぜったいダメ。お願い、行かないで~っ…!

 という、ディアナの心の叫びは、まったく届いた様子がなく、ロナンドはすらりと伸びた足を、ディアナの天敵の前で止めた。

「おはようございます。ライル殿下」

「おはよう、ロナンド」

 さわやかなロナンドのあいさつに、能面に笑顔を貼りつけたような表情で答えるライル。

「…………」

 そんな二人を、遠目に眺めることしかできないディアナだった。

次回タイトルは『ライルの挑発からの…告白』です。


ディアナ「えっ、告白? 誰が誰に?」

ライル「クライヴがサルーイン嬢に?」

ディアナ「えええ〜っ!!」

ライル「……とは限らないけどね」

ディアナ「………。(殿下ひどい)」

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