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60話 4月24日 心配性

誤字報告、ありがとうございました!

教員室…まさしくそれです!


ところで本日二度目の更新になります。

 ディアナは、急ぎ足で教員室を進み、鍛錬室の鍵を取りに行く。

 鍵が入っている棚の前の席には、ピアノの教師が座っていた。選択制だったので、ディアナは授業を取らなかったのだけれど、ちらりと耳にしたうわさでは、かなり評判がいいらしい。

「おはようございます、クレディリック先生」

「………………………ああ、おはよう」

 ディアナが声をかけると、クレディリックは、楽譜に落としていた目をゆるゆると上げながら返事をした。

 この教師は、楽譜に集中すると他に目が行かなくなる、と言ううわさも聞いている。

 授業中に生徒が置いてけぼりになることもあるので、教師としてそれはどうなんだ、という意見がある一方で、ひとつのことに、どこまで力をそそげるかのいいお手本になる、という人もいた。

 彼を雇い入れたイリュージア学園の学園長、カイル・ノルデンは、おそらく後者の考えを持つ人なのだろう。

 どちらにしても、ディアナは彼の授業を取っていないので、授業終了のチャイムが鳴っても延々ピアノを弾き続ける、などの置いてけぼり被害に遭うことはない。だろう。

「今日の午前中に鍛錬室を予約した、ディアナ・サルーインです。鍵を取りに参りました」

 ディアナが元気に言うと、クレディリックは、焦点がいまいち合っていなさそうな目をディアナに向けて来た。

「…………そう。ディアナ、サルーイン………。………鍛錬室の部屋番号は?」

「三十七番です」

「さんじゅう…なな………」

 クレディリックは、ディアナが告げた番号を小さな声で反芻し、それから首をかしげた。

「………さんじゅうなな……? ………さんじゅうななの、ディアナ………サルーイン…?」

「? はい、そうです」

 もそもそと番号を繰り返すクレディリックに、何かひっかかるものを感じながらも、ディアナははっきりと返事する。

 鍛錬できる時間は有限だ。ディアナはとにかく早く鍵を受け取りたくて、気持ち前かがみになってゆく。

 そんなディアナに気圧されたわけではないのだろうが、クレディリックは、楽譜をいったん置いて、鍵を取り出した。

「何か言われていたような気がしたけど………まあいいか。はい、鍵」

「え? 何か、とは…?」

 尋ねてはみたけれども、クレディリックは、その時すでに楽譜に目を落としていた。

 何か、が気になり、鍵を握りしめつつクレディリックの返事を待ってみたけれど、彼が机をピアノに見立てて、弾くように指を動かし始めた時にあきらめた。

 きっと、彼の閉ざされた瞳の奥にピアノがあり、そして頭の中では、流れるような旋律が奏でられているのだろう。

「………ありがとうございましたー。失礼しまーす」

 ディアナは、マイワールドに陶酔するクレディリックの邪魔にならないよう、ピアニッシモを六つ表示しても足りないレベルの小さな声で、そっと感謝の意を述べ、その場を立ち去った。

「………ん?」

 教員室を出ると、ドアのそばに、リュークとそして同じクラスのパメラ・オルヘルスが立っていた。

 パメラは、ゲーム『イリュージアの花』にも登場していた人物で、ヒロインの友人というポジションだった。

 情報通で、ヒロインが攻略したいキャラクターのことを教えてくれたりする子だ。

 ディアナも最初のうちは親しくしていたと思うのだけれど、ある日を境に彼女のディアナに対する当たりが突然厳しくなった。

 婚約者がいるのに、リュークと仲良くするなんてはしたない、とか言われた気がする。

 そんなパメラは、今、ディアナの目の前で、リュークにしなを作りながら話しかけていた。

「あの…、ブルス様。今日の鍛錬、わたしもご一緒してもいいですか? ぜひ、ブルス様の魔法を、間近で見たいのです。それに、鍛錬も一人で積むより二人の方が、有意義なものになると思いますし」

「二人で、ですか?」

「ええ、ぜひ」

 パメラのリュークを見つめる瞳が、涙でうるんでいる。

 ………これはあれだね。パメラさまは、リュークのことを好いている、と。

 なんて、ちょっと見たら誰にでもわかることを、「おっと、わたし名探偵?」と得意気につぶやきながら、二人の前を横切る。

 会話のじゃまになるといけないと思い、あいさつをしなかったけれど、それでよかったのか思案していると、ディアナに気づいたリュークが声をあげた。

「サルーイン嬢」

「! な、なんでしょう、ブルス子息」

 ディアナが振り返ると、リュークがこちらに近づいてきた。

「鍵はもらえたのか?」

「え、ええ」

「ふーん……まあ、無理はするなよ」

「お心遣い痛み入ります。ところで。」

 ディアナは、軽く膝を折りリュークに感謝の意を示すと、あらためて尋ねてみる。

「オルヘルスさまと、お話の途中ではなかったのですか?」

「ん? まあそうだけど、気になったからな」

「何がです?」

「お前が」

「? なぜ?」

「だから、お前が昨日倒れたって聞いたから」

「もう元気ですよ?」

 さっきも言いましたけれど、と付け加えて答えてみれば、リュークがまた口を開く。

 ただし、その言葉は音となりディアナの耳に届くことはなかった。

「まあっ! またなんですか! サルーイン様っ!!」

 リュークの声は、獲物を見つけた猛獣のごとく駆け寄って来たパメラの金切り声に、ガブリと喰われてしまったのだ。

「他に婚約者がいるお立場で、ブルス子息にも言い寄るなんて…! はしたなさ過ぎます!」

 ……え。いや、今話しかけて来たのは、リューの方なんだけど?

 ぽろりと言ってしまいそうになった言葉を、ディアナはごっくりときれいに飲み込んだ。

 何となく…、何となくではあるけれども、今、この状態でディアナが何を言ったとしても、そして、それが真実だとしても、パメラは信じてくれないように思えたのだ。

 ……実際、先日の開墾授業の時もそうだったしねー…。

次回のタイトルは『猪突猛進…されても困る。』


ディアナ「うり坊になら猛進されてもOK! どんとこい!」

ライル「……食べるなよ?」

ディアナ「食べません! まだ!」

ファルシナ「まだなんですね………」

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