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43話 4月18日 また、一緒に。

 ディアナやクライヴの母親よりも、おそらく年上。四十は超えているだろう女性を前に、ディアナは首をかしげる。

「………」

 興味のままにきょろりと視線を周囲に向けると、レースがふんだんに使われたかわらしいロングドレスが展示されていたり、肌ざわりのよさそうなショールやケープが置いてあったり、ガラスケースの中には高価そうな手袋が並んでいたりしている。

「無理を言って申し訳ありませんでした。エロール夫人」

「いいえ。フィクトル侯爵のご子息にご指名いただけるなんて、光栄ですわ」

「今日は、よろしくお願いします」

「はい、おまかせください。では、あまりお時間もないと言うお話なので、さっそく作業に入らせていただきますね」

「はい」

 いつの間にかクライヴの手が離れていたのをいいことに、店内を見て回っていたディアナ。あ、これかわいい。と、小鳥の姿をした白い髪飾りを見ていたら。

「では、参りましょうか。サルーイン嬢」

 そう声をかけられて、ディアナはまたもや首をかしげる。

 ……参るって………どこに?

 答えを知っていそうなクライヴに目を向けてみるも、彼は、すでに来客者用のソファに腰を下ろし、お店の従業員にお茶を入れてもらっているところだった。

「あらまあ…。ご子息と離れるのがお寂しいのですね。でも、大丈夫ですわサルーイン嬢、採寸を終えたら、すぐにこちらのお部屋に戻れますからね」

 にっこり笑って、店の奥の方へとディアナをうながす、クライヴ曰くエロール夫人。

 ……いえ。別にさみしいという訳では……、いや、そりゃあちょっとは……いや、けっこうさみしいけれども。

 ディアナにとっては、めったにない…どころか、もう二度とないかもしれないクライヴとのデートなのだ。

 すこしでも長い時間一緒にいたいと思うのは、当然というものだ。……とディアナは思う。けれど。

「さあさあ、参りますわよ、サルーイン嬢」

 ついにしびれを切らしたのか、ディアナの前に立ちはだかって、クライヴを視界からさえぎり、少しずつ前に出ることで、ディアナを歩かせようとするエロール夫人。

 高い声に、すこしばかりのいらつきが乗せられているのは、たぶん気のせいではない。

 いろいろ気になることはあるけれど、とりあえず、なんとなく怖そうなエロール夫人にしたがって、別室へと移動するディアナだった。

 別室は、四方に鏡が張りめぐらされている小さな部屋だった。

 ディアナが、エロール夫人に促されるままに中心あたりに立つと、あらかじめ部屋に待機していたもう一人の女性に、さくさくと服を脱がされる。

 エロール夫人は、机の引き出しを開けると、手にしたのは長めの紐。もといメジャー。

 ディアナの服をはぎ取ろうとする女性を手伝い、そでのボタンをはずしながら、ディアナは考える。

 ……ここって、もしかしなくても………仕立て屋さんだよね。

 その予想は当たっていて、ディアナはエロール夫人によって、あっという間に現在のスタイルを暴かれた。

「まあ…、細くていらっしゃるのねえ、サルーイン嬢。これなら体にフィットする服もきっとお似合いになりますよ~」

「………」

 細い、と言えば聞こえはいいけれど、ディアナの場合は凹凸もないので、女性としての魅力はいまひとつ。

 いいのだ、別に。ディアナはまだ十五歳。育ち盛りなのだ。

 あと二、三年…いや四、五年もすれば、胸ももうすこし出てきていることだろう。……きっと…たぶん……。

 そんなこんなで、採寸が終わり、クライヴのいる部屋に戻されると、今度は、マネキンのように立たされて、色々な布をあてがわれる。

「あら~。思った通り、原色がよくお似合いね~。白いお肌に赤がよく映えるわ~」

「………」

 似合うと言われるのはうれしい。だけれども。

 赤と言えば、悪役令嬢のイメージカラー。

 やっぱり自分は、悪役令嬢の一人なのだと、思い出さずにはいられない。

「ただ、今回は、フィクトルご子息と色を合わせますからね、……紫あたりがいいかしら?」

「わたしは何でもいいですよ。ディアナの好きな色にしてください」

 エロール夫人が赤紫色の布を手に取ろうとした時、クライヴが言った。

「まあ、そうですか? それなら、サルーイン嬢、お好きな色をお選びになります?」

 エロール夫人は、晴れやかな表情で、テーブルの上に並べられた布を指し示す。

「他にいろいろな布をご用意できましてよ?」

「は、はあ…」

 やる気満々のエロール夫人に対して、ディアナは気の抜けた返事をした。何故ならば。

「……あの、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょうか? サルイーン嬢」

「ええと……、わたし今、ドレスを作っていただいている、ということでいいですか?」

「ええ、その通りですわ」

「それは……いつ着ていく用のドレスでしょうか?」

 そうなのだ。

 よく考えてみれば、クライヴには、今日一緒に出掛けようと誘われただけで、どこで何をするかなんて何も聞いていなかったのだ。

 なのでディアナは、てっきり今日は特に目的のない街ブラデートなのかと思っていた。

 それが、店に着くなりいきなり別室に連れ込まれ、採寸されて、今はドレスの布を選んでいる。

 ディアナの頭のまわりに、たくさんの「???」がぴよぴよと飛び交っていても、不思議ではないだろう。

 けれどもまあ、エロール夫人のおかげで、今日のおでかけの目的はわかった。

 ただ、一口にドレスと言っても、お茶会や観劇、または普段着など、どこで着るかによって、形や布の選び方は違って来るので、確認は必要だ。

 そう思って、エロール夫人に問いかけると。

「学園で開催されるダンスパーティ用だよ。来月用のね」

 背中の方から、よく通る低めの甘い声が聞こえてきた。

「えっ…?」

 びっくりして振り返ると、いつの間にか、笑顔のクライヴがディアナの後ろに立っていた。

 クライヴは、そのまま、呆然とたたずんでいるディアナを通り越し、ひときれの布を指す。

「これなんかどうかな? 赤や紫もいいけど、こういう緑もディアナには似合うと思うよ」

 クライヴが勧めてきた布は、すこし青みを帯びた明るい緑の色だった。

「花緑青……」

 布を見たディアナの口から、小さな声がもれた。

 と同時に、ほおの色がうっすらと桃色に染まって行く。

 ……花緑青。別名エメラルドグリーン。前世のわたし…柊みのりが大好きで、もちろん今のわたしも好きな色……。たしか、あっちの世界のエメラルドグリーンは、ドイツで人工的に作られた色だった。こっちではどうなんだろう?

「……やっぱり似合うね」

 ディアナが、前世を思い出していると、クライヴの手で、ディアナの体にエメラルドグリーンの布があてがわれる。

「そうですね。やわらかい色もよくお似合いですわ~」

 エロール夫人が、両手をもみながら、クライヴの言葉に同意した。

「……」

 ディアナは、体に当てられた布を見て、それからクライヴに視線を向けた。

 あざやかな青緑色は、クライヴの青みがかった金の髪にも、よく似合っている。

 自分が好きで、クライヴにも似合う色。

 そうなれば、ディアナの考えは、もう決まったようなものだった。

「……………じゃあ、この布でお願いします」

 ディアナは、すこし気恥ずかしさを感じながらも、エロール夫人にきちんと伝えた。

 ただの偶然なのはまちがいないけれど、クライヴがディアナの好きな色を選んでくれたことが、ただうれしい。

 もしかすると、いずれ……ゲームのストーリー通りに、クライヴがヒロインを好きになって、ディアナから離れてしまうのかもしれないけれど。

 ……でもそれは……、まだ先の話。

 すくなくとも七月のダンスパーティまでは、クライヴは、ディアナ…悪役令嬢Dをエスコートしてくれる、はずなのだ。

 だから今は、クライヴの厚意を素直に受け取っておこう。

「……そう言えば、さっき、ディアナの好きな色にしていいって言ったばかりなのに、結局おれが選んじゃったね。ごめん」

 言いながら、クライヴは、困ったように眉をよせた。

「でも、このエメラルドグリーン、ディアナに気に入ってもらえる気がして……」

 どこかあせった様子でディアナの体に当てた布と、ディアナを見比べるクライヴ。

 そんな彼が愛おしくて、ディアナは口もとをほころばせた。

「大丈夫です、クライヴさま。……きっとわたしも、この布を選んだと思いますから」

 これは嘘ではない。クライヴに勧められなくても、この、南の島の海のような、明るく涼しげな色をした布を見たら、すぐに手に取っていたことだろう。

「……そう」

 ディアナが本当に気にしていないと、わかったのだろう。クライヴは、安心したようにほっと息をついて言った。

「……じゃあ、六月のダンスパーティの布は、ディアナに選んでもらうことにするよ」

「………、六月…」

 ディアナが、確認するようにつぶやくと、クライヴは大きくうなずいた。

「そう。また一緒に選びに来ようね」

「――――」

 クライヴから告げられた、新たな約束に、ディアナの胸がとくり、と鳴った。

 今、クライヴは、六月もディアナと一緒にいてくれると、約束してくれたのだ。

 ゲームでは、六月になると、クライヴの気持ちがヒロインに向き始め、令嬢Dと接する機会は徐々に減らされて行く。

 けれども、今の、目の前にいるクライヴが言ったことも、きっと嘘いつわりなどない。

 今のクライヴは、まだ、ディアナを、生涯を共にするパートナーだと思ってくれているのだ。

 だから、ディアナは言った。まだディアナを見限っていないクライヴに、とびきりの笑顔を添えて。

「はい、楽しみにしています。クライヴさま」

次のタイトルは、『プレゼントに秘められた想い』です!


ディアナ「………クライヴさまって……意外とみつぎたい人なのかな?」

イルマ「まあ! ではわたしも何か買っていただきましょう」

パメラ「ではわたしも!」

ファルシナ「いえ、そういう話でもないと思いますよ、お二方」

パメラ「ではわたしは別荘を!」

イルマ「何ですって! それならわたしは町のひとつでも!」

ファルシナ「……聞いてないわね、この人たち…」

ディアナ「……………ははは。」


*次回のお話に、ファルシナもイルマもパメラも登場しません。ごめんなさい。

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