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40話 4月18日 休日、お出かけイベント。

 休日の朝にしては早く起きたクライヴは、食堂でひとり食事を取っていた。

 表情はどこか暗く、時おりつくため息は、ひどく思いつめているような印象を与える。

 視線をふと窓の外に移したりもするのだが、澄んだ青空にも、また体をふんわりと包み込むやわらかな陽光にも、クライヴは関心を持っていないだろう。

 目の前に用意された食事ですらも、まるで、何を食べても同じとでも言うように、機械的な動作で口に運ぶ。

 カシャン。

 しばしの間、味気ない食事を続けていたクライヴの目の前で、食器の鳴る音がした。向かいの席に誰かが座ったらしい。

「――――」

 知り合いなら、あいさつくらいはしておこうと顔を上げたクライヴの視線に映ったのは。

 クライヴと同じ二年の特化生でもあり、または学園生徒会の役員でもあり、……または、ここ、フロンド王国の王族で、第二王子でもある、ライル・ガウスだった。

「おはよう、クライヴ」

 ライルは、にっこりと、一癖ありそうな笑みを浮かべつつ、ティーカップを手に取り、口をつける。

「……おはようございます」

 クライヴは、そっけなくも感じる小さな声で返すと、クロワッサンを手でちぎった。

 学園内では無礼講とは言え、王族相手に失礼ではないかと思われるクライヴの態度を気にすることなく、ライルはクライヴに話しかける。

「今日の仕事は午後からだよね? 午前中、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」

「……申し訳ありませんが、今日は午前中も用事があります」

 断って、また食事に集中しようとするクライヴ。そんな彼を見て、ライルは、何かを探るように目を細める。

「憂鬱そうだねえ。そんなに嫌な用事なら行かなきゃいい。生徒会の仕事があるって言えば、大抵のことは許されるだろう?」

「………」

 クライヴは、食事をする手を止め、ライルを見た。ライルはきれいな木の葉型をしたオムレツにナイフを入れながら、意味ありげに口角を上げている。

 ライルの意図がわからないまま、クライヴはありのままを答えた。

「……別に、憂鬱には思っておりませんが」

「その割には、暗い顔してるけど?」

「………」

 間髪入れずに返されたクライヴは、口を引き結んで押し黙った。

 スープを掬おうとしたスプーンが、皿に当たってガシャ、と不協和音を生み出す。

「あれ、めずらしいね。いつもはテーブルマナー完璧なのに」

 クライヴの動揺を見逃すことなく、すかさずライルがつっこむ。

 クライヴは、おどけた表情のライルを一瞥し、それから改めてスープを口に運んだ。

「……………別に、いつもと同じですよ」

「今日出かける約束したのって、婚約者とだろ? そんな暗い顔で会いに行くくらいなら、いっそ婚約破棄でもしちゃえば?」

「……!」

 ライルの言葉に、クライヴは、ぐっと体をこわばらせると、苦しそうに息を吐いた。

「………婚約破棄をする気は、ありません」

「そんなに辛そうなのに?」

 白パンをちぎりながら、首をかしげるライル。

 クライヴは、カップを手にしてコーヒーを飲み干すと、ぽつりとつぶやいた。

「………辛いのは、むしろ彼女の方かもしれません」

「えー? そうかなあ? クライヴと庭園デートしてたサルーイン嬢は、楽しそうにしてたけどね」

 ライルは、先日、自分の目で見たままの感想を告げる。けれど、クライヴは力なく首を振った。

「……それは、彼女が何も知らないからですよ」

「何もって……何?」

 その問いの答えが、返ってくることはなかった。

「……待ち合わせの時間なので、行きます」

 クライヴは、食器を乗せたトレイを持って立ち上がり、食堂を出て行った。

「……あいつが知らない、あいつを不幸にする何か、ねえ………」

 ライルは、姿勢のよいクライヴの背中をながめつつ、唇を噛むのだった。



「はあ~…」

 淡い青色の空にふこふこと浮かぶ雲をながめつつ、ディアナはため息をついた。

 今日はクライヴと出かける日。指定された待ち合わせ場所、女子寮の前で、ひとり彼を待つ。

 約束の時間までまだまだ余裕はあるけれど、準備ができてしまったので、さっさと外に出てしまった。

 部屋で時間をつぶすことも考えたけれど、本を読むにしても、勉強をするにしても、内容が頭に入りそうになかったのだ。

 これから、クライヴとヒロインの親密度が上がるゲームのイベントが起こるとなると、不安な気持ちは大きいけれど、今日はがんばって朝早く起きて、できるかぎりのおめかしをしてみた。

 いつもは、サイドの髪を編み込んで結び、髪をくるりんぱするだけなのだけれど、プラス、下の位置でくずしみつあみを作り、ゆるふわなまとめ髪にしてみた。洋服は、くるぶしまでの長さの水色のAラインワンピース。クライヴの髪の色がアッシュブラウンだから、となりに並んでもきっとおかしくないだろうと考えて選んだものだ。

 憂鬱な気持ちももちろんあるけれど、せっかくの、クライヴに会える数少ない機会なのだ。ついついおめかししたくなるのは、恋するヲトメのデフォルトな姿と思われる。

 ……しっかし、片思いのうえ命までかかってるのに、クライヴさまに誘われたら、ほいほい着いて行っちゃうなんて………。恋は盲目って、こういうことを言うのかなぁ……。

 空はきれいな青なのに、視線はついつい足元に行ってしまう。クライヴに恋をしているとは言え、この気持ちが死に直結していくかもしれないと思うと、複雑な気分だ。

「ディアナ」

「…!」

 低くやわらかい声で名前を呼ばれて、ディアナのうつうつとした思考がすべて消し飛んだ。

 顔を上げれば、目の前には、今日の待ち人クライヴが。すこし身をかがめ、うつむいたディアナの顔をのぞきこむようにして立っていた。

次回のタイトルは『4月18日 待ち合わせ場所は、厳選しましょう?』です!


ディアナ「クライヴさまってもしかして、ものすご~~~~~~く心配性なのかもしれない…」

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