表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/155

36話 4月15日 思わぬ助け。……助け?

 ディアナは、叫びそうになるのを、両手で口を押さえることで何とかこらえた。そしてとっさに、そばに植えられていた、ディアナの背丈ほどある薔薇の木のうしろに身をかくす。青々と葉を繁らせたその木は、横幅がディアナの倍以上はあるので、近づかれなければヒロインたちに見つかることはないだろう。

……でもここにいたんじゃあ、ふたりが何を話してるのかわかんないぃ〜。

 ディアナのげんこつサイズほどある薔薇の花の横に顔をうずめ、耳をすましてみるけれど、何も聞こえない。当然か。ヒロイン、パメラグループとディアナの距離は、ゆうに三十メートルはある。

 それでも、ヒロインたちが見上げる木の枝に、何やら白いものが引っかかっていることはわかる。

 ……どうしよう。二人の前に出て行ったところで、ハンカチを取る手段はないし……。いそいで探しに行く? ……でも、多分、わたしが棒もどきを見つける前に、ロナンドさまが来ちゃいそうだし…。

 ディアナが頭を抱えてうんうんうなっていると、ヒロインとパメラの前に、一人の男性が立ち止まった。

 ……来、来た…! え? ロナンドさまなの?! そうなの?!

 とたん、ディアナのほおが、ぽっと赤く染まる。

 ――――なぜなら、ロナンド・エンノルデンこそ、ディアナの前世、柊みのりが一番大好きなキャラクターだったのだ。

 シルバーアッシュ色の髪は、陽に当たると淡い輝きを見せ、濃いめの墨に深い青を落としたような瞳は、彼を落ち着いた人間に見せる。顔は、気持ち彫りの深い、エキゾチックな容姿だ。

 辺境伯の息子というだけあり、魔法だけでなく剣技の方も優秀な彼は、最上級生ということもあり、誰よりも仕上がった細マッチョな肉体をしていた。家族を深く愛し、弟を次期辺境伯に、と推す部下のたくらみが明るみに出た時も、最後まで弟は自分を裏切ったりしないと信じ続けた。

 ゲームでロナンドルート、あるいは逆ハーレムルートを選ぶと、この後継問題にヒロインが関わって行くことになる。ロナンドと弟の仲をうまく取り持てはハッピーエンド、できなければ、ノーマルエンド、バットエンド共に、弟は死ぬことになる。

 ちなみに、バットエンドだと、ヒロインとロナンドも、弟を殺した罪に問われ、死刑となる。

 この弟くん、けっこうツンデレで、剣でも魔法でも敵わない兄に反発しつつも、実はお兄ちゃん大好きっこだったりするので、積極的にロナンドと弟くんが話す機会を作ると、比較的ハッピーエンドに持ち込みやすかった記憶がある。

 ……ロナンドルート、好きだったな~。

 討伐の授業中、ヒロインに向かって突っ込んで来た魔物たちを、ヒロインを背にかばいつつ、ばっさばっさと斬り伏せるロナンドを思い出す。

 ……何て言うか…さわやかだけど男らしくて頼りになるというか…。かっこいいんだよねー。

 思わず口もとがふやけそうになるディアナだったけれど、はっと我に返ってヒロインがいる方を見る。

 ……ゲームのことは後で考えよう。今はとりあえず、ヒロインとロナンドがイベントで出会うのを阻止しないとっ。

 そう思って凝視した先にいたのは、ヒロインとパメラ。そして。

「………あれ?」

 ディアナの視界に、予想外の人物が映り込んでいる。

「……ん?」

 何度まばたきをしてみても、もしや白昼夢かと、指でまぶたをこしこしこすってみても、見える景色は同じもの。

「ん? んん?」

 きょとんとしたディアナの視線の先で、どこぞから拾って来たような棒きれを使って、木の枝に引っかかっているハンカチを取り、ヒロインに手渡したのは………。

 フロンド王国第二王子で、イリュージア学園の生徒副会長。そして、ディアナが今、もっとも苦手に思う人物―――――ライル・ガウスだった。

「………げっ…!」

 思わず背中をのけぞらせるディアナ。すこしでもライルから距離を置きたいという、無意識からくる行動だった。

 そのまま後ずさりして退散したい気持ちでいっぱいのディアナだったけれど、いやいや、ライルは別に自分がここにいるのを知っているわけではない、と思い直す。

 ライルがハンカチをヒロインに渡しているところへ、細マッチョなシルバーアッシュの貴公子、ロナンド・エンノルデンが通りがかる。

 ロナンドは、ちょうど会話中の二人を気遣ったようで、話しかけたりはせず、第二王子のライルに軽く頭を下げただけで、あっさりと通り過ぎた。

 もちろん、会話を交わしたことのないヒロインとパメラには無反応だ。

 その光景をながめつつ、ディアナはぽそりとつぶやいた。

「……え…、これってもしかして……出会いイベント回避できたってこと……?」

 もしかしたら、今後、ヒロインとロナンドが仲良くなることはあるかもしれない。

 けれども、たしか、クライヴと第一王子カーサ以外のキャラクターは、出会いイベントをきっちりこなしておかないと、四月十九日に開催されるダンスパーティの時、ダンスに誘ってもらえないのだ。

 十九日以降に、攻略対象者と一緒の授業を受け、行動を共にすれば、次の月のパーティに誘ってもらうことは可能だけれど、ダンスパーティは、攻略対象者との親密度を大幅に上げることができる貴重なイベントだ。

 ちなみに、第一王子のカーサは、生徒会に所属する攻略者全員との親密度をある程度上げると、彼らに生徒会室に連れて行かれ、そこで出会いを果たす。なので、四月のダンスパーティでは踊れないのだ。

 ……これで、ロナンド出会いイベントは回避できた。あと、十九日のダンスパーティの日に、ヒロインが踊る可能性があるのは……、確実なところで、クライヴさまとマリス先生。レダンさまは、ゲームのストーリー通りじゃなかったけど、一応出会いイベントは成立しているのかもしれない。でも、どうもヒロインがレダンさまを嫌ってるみたいだから……ダンスに誘われそうになったら、ぜひ逃げてほしい。

 何なら手伝ってもいいとすら、ディアナは思う。

 ……ヨハンネスさまとの出会いイベントは、寝坊して見逃しちゃったからなー。ここ数日、同じクラスで過ごして、特に仲良しさんな様子は見られないけれど……、どう転ぶか。ライルさまとの出会いイベントは、入学式の前日だったはずだけど、これも見てない。だって、ライルさまのイベントは、クライヴさまの出会いイベントの前に起こるから、クライヴさまの婚約者のわたしが見られるはずもない。

「………あとは、ダンスパーティで確認するかー」

 ……ヒロインが、カーサさまをのぞいて、六人の攻略対象者全員と踊らなければ、逆ハーレムルートは回避できたと思っていい…かな?

 ちょっと希望が見えてきた、と、ディアナは小さな胸をなでおろした。

 けれどもその時。

「――――で? 君はそんな所で何をしているの?」

 いきなりひんやりとした声が浴びせられ、驚きと共に顔を上げれば、目の前には。

 この学園内で、……いや、今はこの世でもっとも苦手としているかもしれない、ライル・ガウスが立っていた。

「…げ。」

「げ?」

 ……あ、しまった。つい本音が。

 ディアナは、とっさに両手で口を押え、あわてつつもスカートのすそをつまんで膝を折った。そして。

「失礼いたしますっ」

 逃げるが勝ち、とばかりに立ち去った。

 王族相手に無礼だ、なんて言うことなかれ。

 ディアナは本気で怖いのだ。あの第二王子が。

 確かに顔はかっこいい。それはおおいに認めよう。けれども。

 いつも口もとに浮かべている、うそくさい笑みを見ていると、何だか胸がざわつくのだ。

 誰だ、涙ぶくろがある人は、やさしげな印象を与える、とか言ったのは。

 第二王子の目もとには、それはかわいらしいぷっくりとした涙ぼくろがあるのだけれど、彼の印象をやわらげる役割は、まったく果たしていないと言っていい。

 すくなくとも、ディアナ相手には。

 ……もうやだやだ~。逆ハーレムルートは回避したいけど、あのうそ笑顔の王子には、ぜったい関わりたくない~~。

 何かとディアナの心を読む、あの不可解な少年から、すこしでも距離を取ろうと、ディアナは、わき目もふらず女子寮にある自分の部屋まで駆けて行くのだった。

次は、前世の夢話。期間限定編をお届けしま~す。


みのり「期間限定てそそられるよね? うっかりお財布ゆるんじゃうよね? わたしだけかな?」

みのる「……お前はいつも買い込みすぎ」

みのり「でもみのるだって、わたしが買って来た限定おかし食べるよねえ?」

みのる「当然。お前の物はおれのもの」

みのり「ジャイアンか!」


………お楽しみに?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ