32話 4月14日 恋敵、現る? (だから誤解です)
近くにクラスメイトがいるので、語気は強いが声は小さい。それでも、ディアナのとなり…パメラの反対側に座っているファルシナには聞こえているだろうけれども。
……何でと言われても。
心の中でためいきをつきつつ、ディアナは何度目かのパメラの問いに答える。
「ですから、ただの幼なじみですよ」
ディアナの中で、リュークとの関係と言えばそれしかない。
けれども、パメラの方はまったく納得できないらしく、ますます眉を吊り上げる。
「ただの幼なじみのわりには、ずいぶんと親し気ですけれど?」
「………」
パメラの言葉は、なぜかとげとげしく、ディアナの皮膚にぷすぷす刺さっている気すらする。もしかして、目の前にある爪楊枝が刺さったサンドイッチもこんな気持ちなのだろうかと同情しかけて、さすがにそんなわけはないかと思い直す。だって、サンドイッチに感情があったら、おいしくいただけなくなってしまうし。
「ご存知かもしれませんけれど、ブルス家とサルーイン家は、血縁関係があります」
もうひとつ情報を開示してみるも、パメラは口をとがらせつつ「存じ上げております」と答える。
………ですよねー。
ゲームでは、その情報網を駆使して、親友のヒロインファルシナの恋を応援していたパメラだ。公にしている情報など、掴んでいて当然だろう。
「………」
ディアナがタマゴサンドをぱくつく横で、パメラはぐちぐちと文句を言う。
「そもそも、サルーイン様には婚約者がおありでしょう? にもかかわらず、他の殿方にまで色目を使うなんて…!」
「………」
「サルーイン様は、弱きを助ける素敵な方だと思っておりましたのに…、わたし残念です」
「………」
「とにかく、サルーイン様、今後、殿方に対する態度をお変えにならないことには、社交界からも爪弾きにされてしまいますよ?」
「………」
………うーん。何かめんどうくさい。正直めんどうくさい。ゲームのパメラって、もっとサバサバしたキャラクターだった気がしたんだけれど。まあでも、それを言ったら、悪役令嬢Aのアルテア・シャブリエさまだって、だいぶ性格違うし。こっちはいい意味で。
………てことは、ゲームの内容には、あんまりこだわらない方がいいのかな? でも、全部が全部参考にならないってわけでもなさそうだし……。
「ちょっと! 聞いてますか!? サルーイン様!!」
爪楊枝に刺さったいちごを片手に、考えごとをしていたディアナの耳に、パメラの怒号が響く。
それに対してのディアナの答えは、こうだった。
「いいえ。あんまり」
「は…!!?」
けろりとした表情で、ほぼ話を聞いていないと告げるディアナに、パメラは愕然とした。
驚きのあまり、二の句が告げないでいるパメラに、ディアナは言う。
「オルヘルスさまが、わたしのことを好きなようにおっしゃったのと一緒で、わたしにも、好きなように対処する権利がありますから」
「えっ……」
小さな声をあげるパメラの横で、ディアナは、いちごを持っていない方の手をほおにそえ、残念そうに言う。
「わたしがいくら違うと申し上げても、オルヘルスさまは信じてくださらないのでしょう? わたし、今とても悲しい気持ちです」
しゅん、と肩を落としてみるも、真っ赤ないちご片手では、いまひとつ説得力に欠ける気がしないでもない。
まあ、だとしてもショックを受けたのは本当なので、いちごはそのままに、話を続ける。
「いったい、オルヘルスさまはどうして、わたしがブルス子息に色目を使ったなんて誤解をなさったのでしょうか? 不思議でしかたありません」
「だから! それはあなたが、婚約者のある身でありながら、ブルス子息に猫なで声を使ってお願い事をするからでしょう!?」
「おれがどうした?」
「! ?!!」
タイミングがいいのか悪いのか。背後から突如降って来た声に、パメラが驚いて振り返る。
とそこには、さきほどから話の端々に名前が出てきている、リューク・ブルスの姿があった。
「ブ、ブルス子息……」
いつの間にかパメラの背後にいたリュークの名を、甘めの高い声で呼ぶパメラ。
リュークは、自分を見て顔を赤らめているパメラを一瞥すると、今度はディアナの方を見た。
「……猫なで声と言うよりは、子猫のおねだりだよな。お前のは」
「あ。それ、わたしも思いました」
リュークの言葉に、ファルシナがぽん、と手をたたく。
「さっき、根っこを掘っていらした時も、まるで生まれたばかりの子猫が、ぷるぷる体を震わせながらお母さんのところに歩いて行くみたいで、つい手を差し伸べたくなってしまったんです」
わたしは何もできませんでしたけれど。と、小さな声で続けるファルシナ。
自分の無力さを恥じるようにしているファルシナに、リュークが言う。
「でも君は、昨日ディーの怪我をあっという間に治していた。要するに適材適所ってやつだろ」
ディアナは、リュークの言葉にこくこくとうなずきながら、
「でも、学園ではちゃんと家名で呼び合おうって言ったのは、リューだったよね?」
「今は休憩中だろう?」
ディアナの主張を、リュークはあっさり退けた。
「仲がよろしいんですね」
ファルシナが笑顔で言う。
「まあ、親戚というか腐れ縁というか……。ディーのことは、ニコラウス様にも頼まれたしね」
「え、お父さま、リューにそんなこと言ったの?」
うわー…、はずかしー……。
頭を抱えたかったけれども、手にまだいちごを持っていたので、顔をひざの間にぷすぷすと埋めてみる。
……というか、いいかげんいちごを食べてしまおう。ぱくん。うんおいしい。
ひざにあごを乗せたまま、いちごを口の中に放り投げる。
そして気がつくと、ヒロインファルシナとリュークの間で、会話がはずんでいた。
「光の魔法は、使う人によって効力が違うと聞いた事があるんだが…、オランジュ嬢はどういう魔法を?」
「得意なのは治癒です。魔物を攻撃することもできますが、そちらはまだまだですね」
「へえ。光の攻撃魔法は、魔物に対する威力が大きいらしいな。うらやましいよ」
「そうみたいですね。わたしの魔法はまだまだですけれど、いずれ、一流の光魔法の使い手になるのが目標です」
「………」
……一流どころか、国内で一番の使い手になってたけどね。ゲームでは。……それにしても、初対面のはずなのに、仲いいな、この二人。あれ。リュークも攻略者の一人だったっけ? いやいや、ちがう……はず。でもリュークは、攻略者だとしても違和感がないほどにかっこいいと思う。三白眼こわいけど。……あ。でもいっそのこと、リュークとヒロインがくっついてくれたら、ぶたぶた召喚イベントも消滅するんじゃ…? ………いや、甘いか。
ディアナがもんもんと考えている間も、リュークとファルシナの会話ははずみ、ついさっきまでディアナのことをさんざんなじっていたパメラは、やけ食いとばかりにサンドイッチやらとりからやらを、ばくばく食べ続けている。
そんな三人を横目に、ディアナは好物のいちごを、もうひとつ口に運ぶのだった。
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