30話 4月14日 前世夢話・友人篇。
……うわあ〜。学校のイスにクッションがついてる…! さすが私立の高校は設備が整ってるね。
入学式が終わり、担任教師に案内されるまま教室に入ったみのりは、つい先日まで通っていた中学校の設備とくらべて驚いた。
さっそくみのりは、ビニールのクッションがついたイスに座る。そして、黒板を背に大きな声で話をし始める担任……ではなく、すぐ前の席に座っている女子生徒に視線を固定した。
……髪、きれいだなー。
まるで漆を塗ったかのような、つやっつやの黒髪に、燦然と輝く天使の輪。
先生の話に彼女がうなずくたび、流れるように髪が動くのがまた素敵。
……すごいなー。さっき顔も見たけれど、すっごい美人さんだった。シャープな眉に、ちょっときつめなところがむしろ知的さを感じさせる瞳。さっき見た限りスタイルも抜群で、たぶん十頭身じゃなかろうかと思われるようらやましい。
しかも彼女、入学式では、新入生の代表挨拶をしていたのだ。
ということは、入試の成績も一番だったということで。
……うわあ~、すごいなあ~。天は二物を与えずってことわざ、どっから出てきた?
きらきら光る天使の輪をながめながら、みのりは首をかしげる。
まあ、それを言ってしまえば、みのりの双子の弟、みのるもそうだ。双子と言っても二卵性なので、顔も性格もまったく似ていなかったけれども。
みのるは、小さいころ、とてもかわいらしい顔立ちをしていた。二人を見たご近所さんたちのほとんどが、男女の双子と知ると、みのるのことを女の子と言うほどに。
そんな彼は、年を取るごとに、すくすくと背を伸ばして行き、かわいらしかった顔は、世の女の子たちを惑わす甘い顔に多少変化した。
みのるとは、小中学校は一緒だった。
けれど、高校は、理系の強いところに行きたいと言う本人の希望で、県では一番の、全国レベルで考えても、五本の指に入る難関校に通うことになった。
ちなみにみのるはスタイルもモデルばりに抜群で、一緒に歩いていても、女の子からナンパされたり、芸能事務所にスカウトされたりと、たいそう忙しかった。
似ていない容姿のせいで、みのりを双子の姉と知らない女の子たちににらまれたり、陰口を言われたこともあった。まあ、そういう子たちは、たいていが、数日も経つと、みのりたちと目も合わさなくなったのだけれども。
………一体何をしたのだ、弟よ。
聞いてみたところで、「別に」とかしか答えてくれないので、やがて聞くことをやめてしまったみのりだった。
……まあ、結局、天は一人に二物も三物も与えるのだよ。だってほら、総理大臣とか、会社の社長とか、えらい人って、けっこう美人の奥さんつかまえるじゃない? そうすると、自然といい顔の遺伝子がまざるもんね。だから、金持ちの子供が美男美女なんて、うらやましい図式が生まれるわけだよ。うんうん。
お気に入りの、青空に雲が描かれたシャープペンシルを、とがらせた口の上に乗せ、ふんふんと頭をゆらしていると、ふいに、目の前の天使の輪が乱れた。
そのかわりに、みのりが美人さんと認識した、細い顔が視界に入る。
「……、………」
……見られた。才と色を兼ね備えた、スーパーウーマンに、上唇を持ち上げて、歯茎と前歯全開のところを見られた………!
ショックはちょっと大きめだった。
唇に入れていた力が抜けて、シャープペンシルを落としてしまう程度には。
カツン、コロコロコロ……。
みのりのお気に入りペンシルは、小さな音を立てながら、美人さんの足元まで転がって行った。
美人さんは、それを視線で追いながら、みのりに「はい、プリント」と紙の束を渡すと、今度は床に手を伸ばして、みのりのシャープペンシルを取った。
「はい、どうぞ」
「あ、どうも」
渡されたペンシルを、ほぼ条件反射で受け取るみのり。
美人さんは、ペンシルから手を放し、にっこり笑うと、前を向いてしまった。
「……………」
再び、完璧つやつやにできあがった天使の輪をながめながら、みのりは思う。
シャープペンシルを拾うという動作をしたことで、美人さんが、みのりのちょっと(?)行き過ぎたアヒル口を忘れてくれないだろうか、と。
……むりだよねー。あちらさんはなんせ学園トップなんだもん。記憶力はいいに決まってるよねー。…まあ、笑ってシャープペンシルを渡してくれたということは、わたしのあひる口にも、そんなにはあきれていらっしゃらないのかもしれないし。今はそれでいいかー。
と、みのりがもやっとした気持ちに区切りをつけた時だった。
またしても、前方一メートルほど前にあるつややかな髪がゆれて、天使の輪が乱れて行く。
今度は何だと思いつつ、もうあほな顔は見せないように、きゅっと唇を引き結んでいると、美人さんは、手に持つ長細い物体をみのりに見せた。
「………これ……」
おかしい。さきほど返してもらったはずの、みのりのお気に入り、青空シャープペンシルが、美人さんの手の中にある。
何かの手品かと手元を見ると、みのりのペンシルは、今休憩中~、とばかりに、ころんと机に横たわっていた。
「……え?」
首をかしげつつ、みのりは美人さんに視線を戻す。
すると、美人さんは、うれしそうな笑顔を見せて言った。
「ふふ、おそろいね。わたしは羽鳥沙也加。あなたは?」
「……ひ、柊みのり」
「柊さんね。よろしく」
――――これが、高校生になってから、はじめてみのりが友達を作った瞬間だった。




