22話 4月12日 思いがけない昼食会
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そして、前回のあらすじ。
ディアナが食堂でご飯を食べようとしたら、昼食の受付時間を過ぎたあとにヒロインが来たよ。
昼食を食堂で食べられないと知ったファルシナの落胆ぶりは、はたから見ていても気の毒だった。
手をひたいに当てているので分かりづらいけれど、ちょっと涙ぐんでいるかもしれない。
「……何か、ごめんねえー…」
そんな彼女の様子に、食堂のおばちゃんも、申し訳なさそうにしている。
「昼食時間が過ぎてるといっても、少しだからさ、できれば作ってあげたいんだけど……。新しく入寮した子たちが、よく食べるもんでねえ…。明日からは、材料が切れないように、もっと食料仕入れておくよ」
「いえ、いいんです。遅くに来て、すみませんでした」
現実の世界でも、ヒロインは性格がよいらしい。
礼儀正しく頭を下げると、ヒロインは食堂から出て行こうとした。
「待ってください!」
気がついたら席から立ち上がり、そう口にしていた。
あっと思った時には、すでにヒロインと食堂のおばちゃんの視線が、ディアナに向けられている。
……うわああー…。関わりたくないと思ってたのに、何でヒロインを引き止めたわたし…!
後悔したってもう遅い。今さら、何でもありませ~ん、なんてこの場をすっとぼけるような技術、ディアナは持ち合わせていないのだ。
「……」
ディアナは、きゅっと唇をかむと、決意して言葉を放った。
「あ、あのっ、わたし、今からごはんを食べるんですけど、ちょっと量が多くて……。その、一緒に食べませんか?」
言い切ってから、ディアナはまた慌てた。
……ち、ちがうちがうっ。関わりたくない人と一緒にごはん食べてどうするのっ! 寮のおばちゃんに取り皿をもらって、半分分けてあげればいいんじゃないっ。
「…え? ………………いいんですか?」
自分の言葉を後悔したところで、時すでに遅し。ディアナの声は、ヒロインの形のいい耳に、しっかり届いていたようだ。取り消すことは、もはや不可能。
……ううう…。こうなったらもう、しかたない…っ。
覚悟を決めて、ディアナはうなずいた。
「はい、よければご一緒に」
「あ、ありがとうございます…!」
ヒロインは笑顔で言うと、たたたた、と小走りでディアナのもとへと駆けて来た。
……か、かわいすぎる…! これがゲームの画像なら、背後にラナンキュラスの花が舞っていそう…! うすい花びらが幾重にもかさなって、ふっくらしてるかわいい花なんだよねー。ピンク色だったらなお良し。
ディアナが心の中でひとりうなずいていると、ヒロインが失礼します、と言いながら、ディアナの向かいの席に座った。
「よかった~。午後の開放時間から鍛錬場を借りているんです。今から外にごはんを食べに行ったんじゃ、時間に間に合わないので、どうしようかと思いました」
胸に手を当て、ほう、と安堵の息をつくヒロイン。ほどよく力が抜けた笑顔ももちろんかわいいのだけれど、それ以上に気になることがあった。
「………」
いいのだろうか。午後に控えているマリスイベントをこなすには、ヒロインは昼食後に外出して、花壇の前を通らないといけない。けれども、昼食後そのまま鍛錬室に向かうとなれば、マリスと話すことはおろか、花壇の前を通り過ぎる時間すらないだろう。
……ここは、喜ぶべき……かな?
ディアナとしては、ヒロインが攻略者とのイベントを落としてくれればくれるだけうれしい。
……だって、鼻でかぶたさんに食べられる可能性が下がるしねー。よし、こうなったら、絶対ヒロインとランチしよう。
と、心に誓うディアナだった。
「これ、使いなさい」
ディアナの決意を後押しするように、食堂のおばちゃんがヒロインの前に数枚の皿とスプーン、フォークを置いた。取り分けて食べろと言うことだろう。
「シチューは、半分ずついただきましょう」
むしろその方が、ディアナのお腹にもやさしい。
そう思って言うと、食堂のおばちゃんが、心得た、とばかりに二枚の皿を用意し、よそいなおしてくれた。
「「ありがとうございます……あ。」」
ヒロインとディアナの声が重なったのは、偶然だった。
「……」
ディアナは思わずヒロインを見る。と、ヒロインは、照れくさそうににっこりと笑った。それにつられて、ディアナの口元もほころぶ。
なんとなく互いにほほえみ合う中、ディアナはごはんが乗った皿を、テーブルの中央に移動させた。
「どうぞ」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
ヒロインは、胸の前でそっと手を合わせると、まずシチューを口に運ぶ。
「おいしい…!」
ほおを染めて言うので、ディアナもつられて手を伸ばす。
「あ、ほんとう」
とろみがついたシチューの味が、色あざやかな新鮮野菜に、ほどよく染み込んでいる。
「ですよね…!」
ディアナがうなずいたのを見て、ヒロインはうれしそうに笑った。
「はい」
ディアナもつられてうれしくなる。
二人は、目を合わせてくすりと笑った。
「パンとポテトもどうぞ。もも肉は、一人一本でいいですか?」
「はい!」
今度は元気いっぱいに答えるヒロイン。
どちらかと言うと、可憐なイメージだったゲームのヒロインとはちょっと違うけれど、はきはきしているヒロインもかわいらしく、ディアナの中では好印象だった。
……とりあえず、ヒロインの性格がよくてよかった…。
安堵しつつ、ディアナがシチューの中のブロッコリーをもぐもぐ食べていると、ヒロインが、すこし神妙な声で問いかけて来た。
「あの…、あなた、ディアナ・サルーイン様ですよね? 同じクラスの」
「……ん、んく」
もぐもぐ中のディアナは、こくりとうなずくことで返事をする。
「ですよね。わたしは、ファルシナ・オランジュです」
「……、はい」
知ってますよ~。と言いたいところを、ブロッコリーごと飲み込むディアナ。
「フィクトル侯爵家のご長男と、婚約されてるんですよね?」
「………!」
食事の手をいったん止め、尋ねるファルシナ。様子をうかがうようにディアナの瞳を覗きこむ。
けれど、ディアナはそんなファルシナに気づく余裕はなかった。
婚約者、と言われたことで、恥ずかしさが一気に沸き上がり、ほっそりとしたほおを赤く染める。
「実は、昨日だけじゃなく一昨日もお二人をお見掛けしたんですけど…、とってもお似合いでした」
「……うわ、あ、…そ、そうですか……」
今まで、家族やお付きのメイド以外に、クライヴとのことを言われたことがなかったディアナは、気恥ずかしくて、思わずうつむく。
「わたし、お二人の幸せを応援します」
ファルシナは、まるで、決意を表明するように強い口調で言った。
「………あ、ありがとう…ございます」
二人の幸せと言われ、クライヴと寄り添う自分をちょっぴり想像してしまったディアナは、ますます顔を赤らめるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次の更新日は、11月6日です。




