15話 4月10日 庭園にて
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「わあ……っ」
大輪の白薔薇が咲き乱れる庭園は、まさしく圧巻の一言だった。
大きな庭園で迷わないようにとの配慮もあるのだろうか、道の両脇に植えられた薔薇の花は、ディアナの手のひらほどの大きさがある。
花の大きさに驚いたディアナが、ぱっと自分の両手を広げて確かめたので、まちがいない。
「ふっ…」
ディアナのとなりから、小さな笑い声が聞こえて来る。
……う、クライヴさまに笑われた………。
「………」
ちろりとクライヴの方を見てみると、まるで小さな妹を見守るかのような瞳と視線が合った。
……うう~…。完全に子供扱い…。
はずかしくなったディアナがふっと赤い顔をそむけると、クライヴは何も言わずにディアナの手を引き歩き出す。
ディアナに学園を案内してくれていたクライヴが、ここが最後と言って連れて来てくれた場所は、庭つきのカフェだった。
白を基調とした建物は、柱や窓の枠がオフホワイト色に縁どられていて、やわらかい印象を受ける。建物の中だけでなく、庭園となっている外にも椅子とテーブルがあり、天気がいい日は、開放的な気分でお茶を飲めることだろう。
「ここは、芝生に直接座ってもいいことになってるんだ」
「……そうですか」
……ええ、知ってますよ?
「奥に行くと東屋がいくつかあるよ。そこで昼食や軽食を取る人もいる」
「そうなんですね」
……はい。それも知っています。―――あくまでも、ゲーム知識のですけれども。
「行ってみる?」
「はい」
クライヴのさそいに乗る形で、ディアナは庭園の奥へと入って行く。
クライヴに案内された東屋は、色んな種類があった。ゲームどおりに。
テーブルとイスが用意されているだけの簡素な東屋から、日よけのパラソルや三角屋根が立っているところ、まるでかまくらのように、入口以外は白いドームでおおわれたところ。果ては、とあるフランス王妃、マリーアントワネットが愛したプチ・トリアノンにある、愛の殿堂に似た東屋まであり、見ているだけで楽しくなってくることうけあいだ。
それぞれの場所は、薔薇の木と白い柵で隔たれているので、中で何をしているのかは、近寄ってみないとわからない。庭の中に存在する、ちょっとしたプライベート空間と言ったところだろうか。
しかし、ゲームの中ならともかく、現実にもこれだけいろいろ種類があるのには驚いた。
現実にいくつもの東屋を作るとしたら、薔薇の柵の維持費なんかも合わせると、かかるコストは膨大だろう。ゲームの挿し絵かあるいは動画の作成費用とは、くらべものにならない。
……それなのに、こんなにたくさんの東屋を用意する理由とは、これいかに? ゲームの東屋は、親密度が一定以上にあがった攻略対象者と二人で会う時に使われた場所。それぞれ攻略対象者の、お気に入りの場所があって、そこに誘われるんだよねー。
……まあ、現実には、ヒロインと攻略対象者の逢瀬だけじゃなくて、気の合う仲間と勉強会をしたり、女子生徒で集まってお茶会をしてもいいわけだから、深く考える必要はないのかな。……ただ、第二王子がよく入り浸る場所とか、おそれ多くてなかなか使えない気がしないでもないけれども。
……そういえば、ゲームのクライヴさまは、庭園の入口あたりの芝生に直接座って、ごはんを食べるのが好きだったなー…。今、ここにいるクライヴさまはどうなんだろう? ゲームのクライヴと一緒かな? それとも……?
「……………」
ディアナは、教室を出る前から、ずっとつながれたままの手をじっと見つめる。
……できることなら、ずっと、このぬくもりを感じていたい………。
放したくない、そう思ったディアナの手が、自然とクライヴの手を強く握る。
「? ん?」
半歩前を歩いていたクライヴは、すぐに振り返って首をかしげた。
「疲れた? すこし休む?」
「え…」
クライヴのやさしい勘違いに、ディアナはちょっとびっくりしつつ、違うと否定しようと口を開いた。のだけれど。
「――――なら、ここで休んで行けば?」
突然、白薔薇の茂みの奥から、やわらかい声が聞こえて来た。
クライヴと一緒に振り向くと、かさり、と草を踏みしめる音がして、背の高い少年が現れた。




