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13話 4月10日 悪役令嬢A

ご覧いただき、ありがとうございます。

ブックマーク登録、評価をして下さった方、ありがとうございます。感謝です。

「初めてお会いする方もいらっしゃいますわね。わたしは、アルテア・シャブリエと申します。十五歳から十八歳という、魔法が飛躍的に身に着くと言われている期間に、みなさまのような才能あふれる方たちと出会えたことに、感謝しております」

「………?」


 ゲームと違い、静かに、けれど教室中に響く声で話し出したアルテア。聞きながら、ディアナはこてんと首をかしげる。


「これからは、一緒に学び、切磋琢磨して行きましょう。どうぞよろしくお願いいたします」

 そう言って、女生徒に向かって頭を下げるアルテア。


「………」

 ゲームの印象とはあまりにかけはなれたアルテアの態度に、ディアナは戸惑いつつも、頭を下げた。


「申し訳ありませんが、わたしはこれから用事があるので、お先に失礼いたしますね」


 女生徒たちが頭を上げるのを見計らって言うと、アルテアは、まるでダンスを踊るかのような華麗な仕草できびすを返し、教室を出て行った。

 女子生徒の数人が、ほう…、と感嘆の声を上げながら、その後姿を見送る。


 パタンと教室のドアが閉まり、アルテアがいなくなると、突然、パン、と張りのある音がした。

 振り向くとそこには、ベアトリスが両手を合わせて立っている。


 視線に入ったベアトリスは、唇は笑みの形をしていたけれど、目もとは明らかにひくついている。


 ……狐になり損ねたせいかな…。


 公爵令嬢で、未来の王妃のアルテアが、学園内での平等を守るなら、侯爵令嬢のベアトリスも従わざるをえなくなるだろう。

 ベアトリスの婚約者は、次期宰相候補のレダン・マッスーオではあるけれど、それでも爵位はあくまで公爵。

 地位的には、王妃のアルテアに敵うはずもない。


 けれど、それでも納得が行かないのだろう。ベアトリスは、気を取り直すように大きく息を吸い込むと、大きく両手を広げて言った。


「まあ…! アルテア様は、なんてお心の広い方なんでしょう…! きっと、わたしたちに気を使わせまいとしてあのようなことをおっしゃったのね。でも、そんなお方だからこそ、わたしたちも、誠心誠意お仕えしがいがあると言うものだわ。ねえ、そうでしょう?」


 ……えっと? …疑問形と言う名の強制形?


 そう感じたのはディアナだけではなかったようだ。他の女生徒も、とまどった表情で互いに顔を見合わせたりしている。


「ええ、わたしもそう思いますわ、ベアトリス様」

 そんな中、ベアトリスの意見に同調したのは、悪役令嬢Eのイルマ・ダントンだった。

 イルマのとなりにいる悪役令嬢C、シーラ・バンニングは、おすまし顔で立っている。

 そういえば、ゲームの中の悪役令嬢Cも、あまり話さない子だった。……自分のわがままを主張する時以外は。


 ゲームで、クラスメイトや先輩たちとパーティを組んで、魔物討伐をするイベントがあるのだけれど、このシーラと組むと、大変なのだ。何しろ動かない。他のメンバーが魔物と戦っていても、木の切り株にちょこんと座って、レースの団扇を手に観戦しているだけ。


 別に他のパーティと討伐数を争うわけではないのだが、戦う数が少なければ、当然入る経験値も減る。

 すると当然、ヒロインのレベルも上がらないから、能力値が高くないと攻略できない、第一、第二王子ルート、そして逆ハーレムルートを目指す時は、ランダム選択でシーラが仲間になると、速攻でゲームの電源を落としたものだ。


 そんな、ゲームではなかなか扱いづらいC嬢だけれど、現実では、経験値が数値で表れるわけではないから、魔物を何体倒したかよりも、実践の積み重ねが重要になる。

 だから、学園でも、魔物を討伐する実技授業があるけれど、一緒のパーティになった彼女が見学を決め込んだとしても、ディアナには影響はないと言っていいだろう。


 ゲームの悪役令嬢Eは、基本、自分よりも地位の高い人が言ったことはすべて肯定する性格だった。警戒する点を挙げるとすれば、自分の思い通りにことが運ぶように、巧妙にウソをついて回るところ。


 まあ、ゲームでは、悪役令嬢D嬢も、思い切りそれに乗っかってヒロインをいじめていたのだけれども。


「……!(ぎゃあ、ごめんなさいっ)」

 頭の中で、なぞのひとり反省会を始めるディアナ。


 女子生徒たちの前で、やっぱり、いくら学園内では無礼講だと決められていても、位の高いお方に対する礼儀は必要なのよ! と、鼻息荒くまくしたてるベアトリスの自称ご高説を、右から左へと聞き流す。


 そこへ、ガチャリと、ドアノブが回る音がした。

 なぜかやけによく聞こえてきたその音に反応し、ディアナがドアの方を向くと。


「……シャブリエ…公爵令嬢…?」


 開いたドアの前には、先刻用事があると言って一足先に教室を出て、ベアトリス講演会への参加をまぬがれた、赤髪の美少女が立っていた。


「えっ…?!」


 すっかり自分の演説に酔いしれていたベアトリスも、アルテアが戻って来たことに気づき、うろたえた表情を見せる。


 ……なるほど。あなたは、シャブリエ公爵令嬢には聞かせられないようなことをしゃべっていたのですね? どの辺かなー? 現王妃さまが自分の伯母で、自分はとても気に入られているってとこ? それとも、王妃さま主催のお茶会に呼ばれて、王宮まで行った時、あなたは王妃にもなれる器だと言われたとか。そのあたりですかね?


 ディアナが、んん~? と首をかしげつつ、右から左へ聞き流していた会話の内容を思い出していると、深い響きを持つ声で返事をされた。


「どうぞシャブリエとお呼びください。今日の入学式で学園長から話があったように、この学園内では、親の地位も家の力も無意味です」

「え……」


 闇の中、燃え盛る炎のような瞳をじっと向けられ、ディアナは息を吐くように驚くことしかできなかった。

 ゲームの中のアルテアも、何度か、この学園では無礼講だから、意見があれば遠慮なく言え、とみんなに言ってはいたけれど、いざ本当に意見を言われると、まさしく烈火のごとくに怒り出す、大変な困ったちゃんだった。


 でも、目の前のアルテアは、おそらく違う。

 きっと、本当に対等に接して欲しいと思っているのだ。


 そう思ったら、自然と口元から笑みがこぼれた。そして、解きほぐされた気持ちのままで、こくりとうなずいてみる。


 「わかりました、シャブリエさま」

 「ありがとう」


 そう答えたアルテアの表情は、さきほど女子生徒たちの前であいさつした時よりも、すこし穏やかになった気がした。

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