11話 4月10日 悪役令嬢たち
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講堂での入学式が終わり、教室に移動してからも、ディアナの肩はがっくりと落ちたままだった。
今は、ディアナたちの担任だと言うジョアンヌ・サリーバンが、教壇の上で話をしている。
やれ今年の特級クラスの生徒たちは、非常に魔力値が高いだの、あらゆる業界から注目されているだの、皆さんは未来の国を背負って立つ存在なのだと、誇らしげに語っているけれども、そんなのは知ったこっちゃない心境だ。
だって、もしかしてもしかすると、ディアナは、国を背負って立つどころか、学園を卒業する事すらできないかもしれないのだから。
……今は、遠い将来のことより、明日の…いや、半年後のことを考えよう。うん。
ゲームでは、九月に訓練合宿というイベントがあって、悪役令嬢たちをぱぎぽぎ食べる魔物は、その期間中に発生する。
防ぐために、これから自分がどう動けばいいのか。
まず、悪役令嬢たちに近づかない。これ大切。
「あれ、でも……」
ディアナは、誰にも聞き取れないような、小さな声でつぶやく。
そういえば、ゲームの中では、悪役令嬢たちは初日から、五人仲良く(?)つるんでいた。でも、現実のディアナは悪役令嬢たちと、ほぼ面識がない。
ディアナは、小さなころから辺境の地、サルーイン領で暮らしていて、領地を出たのは人生で二度目。
二度目はまさに今、イリュージア学園に通うため。
一度目は去年。そろそろディアナもお年頃ということで、一緒にサルーイン領を切り盛りしてくれそうな婿養子を探すべく、多忙な両親とともに、王都に繰り出した時だ。
でもそれも、最初に言った舞踏会で紹介された、侯爵子息のクライヴ・フィクトルとあっさり話がまとまってしまったので、残りの滞在は、母の知り合いや王都にいた親戚に挨拶をするばかりになってしまった。
ちなみに、学園長とは、その時一度会っていたりする。
けれども、悪役令嬢たちとは一切交流のないまま、領地へと戻ることになった。
その時は、もうすこし王都見物がしたいと言って、駄々をこねたディアナだったけれど、ダメとすげなく却下してもらえた母に、今は感謝しようと思う。
帰りの馬車の中で、ひとりでむううとほおをふくらませ、不機嫌ですとアピールしまくり、両親を困らせたのは、まあひとまず置いておこう。
と、現実のディアナは、少しばかり(?)甘えっ子に育ちつつあるけれど、ゲームの彼女は、15歳になった時には、すでに、現状よりも上の地位を得ようとたくらんでいた。クライヴの鬼義母に誘われたのもあるだろうが、話に乗ったDもすごいと思う。
でも、隣国にフランド王国の情報を流して、クーデターを起こすなんて、今のディアナには到底考えられない。
姉よりも魔力があるというだけで、サルーイン領の後継ぎに決まったのだし、領地を治める為には、時には誰かを厳しく裁いたりしなければいけないのだろうけれども、基本的にそういうのは苦手。
……自分の領地を治める自信だってまだぜんぜん持ってないのに、人さまの領地をどうこうしてる余裕はありませんよーだ。
けれど、もしかしたら、ゲームのディアナは、学園に入学するころには、すでに未来の地固めも見据えていたのかもしれない。だとしたら、おそらく、婚約が決まった後も、王都に残り、色々な人と交流を図ったのだろう。
その中に、悪役令嬢ABCEも含まれていたのなら、入学初日から、彼女たちとつるんでいたとしても、不思議ではない。まあ、ゲームをプレイしていた限り、あくまでもうわべだけの仲良しだったような気がしないでもないけれど。
とにもかくにも、本物のディアナと悪役令嬢たちは、今日が初対面。
……よし、せっかく今まで交流がなかったんだから、サリーバン先生のお話が終わったら、さくっと寮に帰っちゃおっと。ゲームでは、先生が教室から出て行ってすぐに、悪役令嬢Bベアトリスによる貴族階級厳守のススメなるイベントがあったけれども……。話が始まる前に、教室から出ちゃえばこっちのものだよね。うん。
と、ひとりこくこくとうなずいているうちに、どうやらサリーバン先生のありがたいらしいお話が終わったらしい。先生は斜め四十五度の挨拶をびちっと決めると、モデルばりにしゃん! と背筋を伸ばして姿勢よく歩きながら、教室を出て行った。
……よし、ここでわたしもさっさと帰れば……。
そう思って立ち上がろうとしたディアナだったけれど、その行為はちょっと耳につく甲高い声に、あっさりと遮られた。




