表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/155

106話 5月8日 エドガー王の伝記

前回のあらすじ。


なんか黒い生き物(?)が、お腹すきすぎて獲物を捕まえるために身体を変化させたよ?!

肩から手が生えちゃったよ?!

 放課後、ディアナはカフェの敷地内にあるかまくら型の東屋の中にいた。

 カリカリカリ…。

 ディアナは、教科書を見ながらノートにペンを走らせる。

「?」

「どうしたの?」

 わからないところがあり、小首をかしげると、すかさずとなりに座っているクライヴの声が掛かる。

「えっと、ここの部分なんですけれど……」

「うん。……ああ、これはね」

 ディアナが教科書を指すと、クライヴは懇切丁寧に数式の説明してくれた。

「………あ、そっか。ここがこうなるんだ!」

「そう」

「わかりましたっ。ありがとうございます、クライヴさま」

「どういたしまして」

 ディアナが礼を言うと、クライヴは笑顔で答えてくれた。それはもう、とろけるような甘い笑顔だ。

 ……こんな素敵な笑顔ができるクライヴさまだもん。人とのコミュニケーションに難があるなんて、絶対にうそだ。

 そう思ってライルを見ると、本から目を離したライルと目が合う。

 おそらく、ディアナの思っていることなどお見通しなのだろう。呆れたように肩をすくめるライルに、ディアナは口をとがらせる。

 ……そんなことないもんっ。クライヴさまは何でもできるすごい人だもんっ。みのるライルのあほっ。

 心の中で毒づきながらライルをにらみつけるも、ライルよりも彼が手にしている本が気になってしまい、じっと見る。

「強拳の知恵者、エドガー王の軌跡………」

「興味あるの?」

 クライヴに問われて、ディアナはこくりとうなずく。

「ええまあ…。エドガー王は、サルーイン区では英雄ですから…」

「そうか、アリオスの戦いか」

「はい」

「それも本に書いてあるよ。ちょうどその辺りを読んでるとこ」

 ライルが本をテーブルに置いてくれたので見てみると、どうやらルテイン領を治めていた息子、ファーガス・アリオス公爵を魔物に殺されたエドガー前王が、老齢にもかかわらず出陣を決めるシーンのようだった。

「魔物って平地や森に発生することが多いんだけど、このケースでは山奥だったんだよね」

「はい…ですから、魔物が増えていくのにもなかなか気づかず、人が住む地への大量侵入を許してしまった、と聞きました」

 ディアナは、幼少の時に家庭教師にならった内容を思い出しながら言う。

 フロンド国は、大きく五つの区に別れている。大陸の中心に位置し、王族が住まう中央区、その東に位置するのがサルーイン領のあるサルーイン区、サルーイン区の南、中央区から見ると東南にあるのが、魔物が大量に発生した山のあるアリオス区だ。

 当時、アリオス区はまだフロンド国の領土ではなかった。いくつかの部族が点在して暮らしているその地域を、フロンド王国ではナルルと呼んでいた。

 魔物が発生した山は、ナルルの中心部にあった。昼でもうす暗くうっそうとしている上、傾斜が激しいので、地元の住民もめったに入ることがない場所だった。

 だからこそ、魔物が大量に発生したことに誰も気づけず、周囲の村々はあっという間に蹂躙されてしまった。

 彼らに人間を征服しようと言う意思があったかはわからない。けれど、勢いづいた魔物たちは、村々を飲み込みながら北上し、やがてフロンド王国の領土であるサルーイン区にまで達した。

 その時、最初に魔物と対峙したのが、当時の国王ウィリアムの弟で、その父、前国王エドガーの次男の、ファーガス・アリオス公だった。強拳の知恵者と呼ばれていた父同様、勇猛だったファーガスは、魔物がサルーイン区に入り、自身が治めるルテイン領の近くまで来たと知るや、兵を率いて魔物の討伐に向かったけれど、激しい戦いのすえ、戦死してしまった。

 その知らせを聞いたエドガー前王は、現国王や、聡明の知恵者と呼ばれた弟アルスが止めるのも聞かずに出陣した。激戦の末、勝利をおさめたエドガー前王は、今度はナルルまでおもむき、わずかに生き残った部族の世話をした。そうしているうちに、気がつけばエドガー前王は、部族たちに『王』として崇められるようになり、最終的に、ナルルはフロンド王国に組みこまれたのだ。

 そして、新しく領土になった土地に名前をつける権利を得たエドガー前王は、その地をアリオスと名付けた。戦いで命を落とした息子、ファーガス・アリオス公爵を偲んでのことだったのだろう。

「……歴史的にも、戦で奪い取るのではなく、信頼によって領土を増やして行く国って、めずらしいですよねえ…」

 ファルシナが、ほうと息を吐く。本を見つめるその瞳が、やけににこにこしているように思えた。

 ……ふむ。ファルシナさまの好みは、エドガー王のような方、ってこと、……なのかな?

 そんな、ある意味どうでもいい予測を立てつつ、ディアナはいい機会だから聞いてみようと思って、口を開く。

「アリオスの戦いでは、ふたつの謎が生まれたって言われてますけれど…、そのことも本に書いてあったりします?」

 ディアナの問いに、ライルは首をかしげた。

「んー。まだ全部読んでないけど……、目次を読んだ限りでは書いてなさそうだね」

「そうですか」

 みのるは本を買う時、目次と後書きを見て決める子だったな、とディアナは思い出す。

「ふたつの謎って?」

「あ、それはですね―――――」

 ファルシナの問いに答えようと口を開いたディアナだったけれど、東屋の外から飛んで来た声に遮られてしまう。

「ひとつは何故山奥に魔物が大量発生したのか。もうひとつは、基本的に魔物は本能で動いているから、獲物を見つけたらまっすぐそっちに向かっていくものだが、ナルルに出現した魔物は、同じ獲物に群がっても三~四体くらいまでだったようだし、何より、全体的に統率が取れているように見えたと。――――その訳が知りたいって事で、いいかな?」

次回タイトルは、『王子の憂鬱。』です。


ディアナ「ファルシナさまの生き方講座、はじまりはじまり~」

ファルシナ「始まりませんよ、ディアナ様」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ