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105話 5月7日 進化

残酷な表現がありますので、苦手な方は飛ばしてください。

次回掲載する話の前書きに、こちらのあらすじをつけておきます。


誤字報告をして下さった方、ありがとうございました。

たしかに…感心はしてませんでした。

 その日は、やけに腹が空いていた。

 窓際に置かれているため、うすい布越しに銀色の光が差し込んで来る。

 旨そうに思えて、大きく口を開けて飲み込んでみるも、一向に腹は膨れない。

 そうしている間にも、ぐるぐると腹の虫は癇癪を起こし続ける。

 腹減った腹減った腹減った何か喰わせろ腹減った腹減った………。

 生まれた時から、人の言葉や物の名前は多少わかるものの、肝心の言葉を発することはできない。

 だから、今度はがんがんと壺を叩く。

 自分を産み落とした『親』なるものに、騒がしいほどの音でうったえるのだ。

 腹減った腹減った飯喰わせろ飯だ飯早く喰わせろ腹減った腹減った………。

 あまり強く叩きすぎると、自分の体を納めているこの壺が壊れてしまうかもしれない。壺が壊れれば、まだ不完全なこの体は、あっという間に大気に溶けて霧散するだろう。だが、そんなの構うものか。おれは腹が減っているのだ。早く食い物を寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ……!!!

 その時、壺の外側から内側へと、魔力が注がれてくるのが分かった。おれは、壺の内壁へと身を寄せて、その魔力を身にまとう。この魔力に体を包まれている間は、壺の外に出ても死ぬことはない。これで、安心して狩りができるのだ。

 おれは、手を伸ばして壺の外へと出た。と同時にからりと窓が開く音がする。直ぐ近くに生き物のにおい。おれは黒い手をついて床を蹴り、窓の外へと飛び出した。

 飛ぶことはまだできない…成長してもできるようになるかはわからない…ので、落ちないよう窓に足を貼りつける。べったん、べったんと交互に手足を貼りつかせながら慎重に進んで行くと、やがて大きな羽を持つ、自分と同じくらいの大きさ…もっと言えば、人間の頭ほどの大きさの生き物を見つけた。餌だ。

 おれは、やわらかそうな丸い胴体に触れると、ぐいっとそれを引っ張ってみた。

 まるで顔のような模様を持つ羽はまずそうで、いくら空腹だとは言っても、腹の中には入れたくなかった。

 この羽をどうにか胴体から離さない事には、おれは腹を満たせない。

 試しに胴体を振ってみたが、おれの望み通りに羽は体から離れることはなかった。ただ、ぶらぶらと獲物の体をゆらしているだけ。これではどうしようもない。

 もう一本の腕で羽を捕らえれて引っ張れば、ちぎることは可能だろう。しかしいかんせんおれの腕は二本しかなく、今腕を窓から離せば、おれは地面まで転落してしまう。

 もしそうなって、身動きが取れなくなってしまったら、誰かに見つかってしまうかもしれない。

 狩りは人知れず行え――――これが『親』の意思だ。今のおれにはまだ、この命に逆らうことはできない。

 餌をぶんぶんと振りながらおれは思う。もしも手がもう一本あったなら、体を支えながら羽をむしり取ることができるだろうに。

 思い通りに行かない苛立たしさから、餌を振る手がどんどん早くなって行く。激しく振れば振るほど、餌は足をばたつかせるのを諦め、ただ、自分の羽を守っている黄色い粉が、はらはらと夜風に舞って行くのを見ているだけ。

 だが、そんな事おれには関係ない。

 おれは腹が減っているのだ。早くお前を腹の中に納めて、この自分ではどうしようもない空腹を満たしたいのだ。おれに腕がもう一本あれば、こいつを喰う事ができるのに。

 おれに腕がもう一本あれば。腕があれば。腕が。

 腕が、腕が欲しい………!!!!!

 その時、びくりとおれの体がこわばった。同時に空の内側から何かがせりあがってくる感覚に襲われる。

 それは、みしみしと軋む音を立てながら、おれの体の人間で言うところの肩の部分に、いびつな形の瘤を作る。

 突然起こった体の変化。しかしそんな事ですら今はどうでもいい。

 おれはただ、目の前のこの獲物を、貪り喰いたいだけなのだから。

 喰いたい喰いたいお前を喰いたい喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ―――っっっ…!!!!!

 その時、肩の瘤が大きく盛り上がった。体の中でめきめきと骨が伸びるのを感じていたら、やがてそれは、肩の皮膚を突き破るようにして一直線に伸びて行き、獲物の羽を掴んで一気に引き裂いた。

 やった…! やったやったやったぞー!!!

 おれは口を大きく開き、獲物を口の中にぶち込んだ。

 うまい…! うまいぞ、うまいっ!!

 おれは三回ほど噛んだだけで、獲物を胃袋の中に送り込むと、次の獲物を探し出す。

 たった今生えてきた、このもう一本の手があれば、次からは容易に狩りが出来るだろう。

 こうなれば、空を飛んでいる羽虫など、もはやおれの敵ではない。

 おれは、次から次へと手を伸ばし、腹が満たされるまで獲物を狩り続けた。

次回タイトルは『エドガー王の伝記』です。


ディアナ「誰がみじんこドちびだ~っ」

ライル「………それはエ〇ワード・エルリック」

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