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101話 5月6日 クライヴの本質?

「協力…?」

「そ」

 ライルの言葉に、ディアナは目を見張った。

「えっ? 協力? みのるが? わたしに? えー、そんなこと言われたの、PS4とドラゴンクエストの新作ソフトを一緒におねだりして以来だよー?」

「…いつの話だ、それ」

「えー、…いつだったっけ?」

「……十歳」

「おお~、そこまでちゃんと覚えてるんだー、さすがだねえ」

 みのるライルの記憶力にディアナは感心したけれど、当の本人にとってはどうでもいいことらしく。

「別に、覚えてる必要もないだろう、こんなこと」

 あっさりと流されてしまった。

「それよりさ、やって欲しいことなんだけど」

「うん」

「オランジュ嬢に、学年一位を狙ってるか聞いてみて」

 ライルの協力要請に、ディアナは即答した。

「それなら、狙ってると思うよ。ファルシナさま、毎日鍛錬も勉強もすっごくがんばってるもん。あんまり外で遊んだりもしてないみたい」

「―――――そうか。……彼女、野心家には見えないんだけどなあ………」

「えっ、野心って? ファルシナさまが将来政治家を目指してるとか? それは意外だなあ」

「違う」

「ん? じゃあ何?」

 ……野心と言えばやっぱり政治家さん? それとも大企業の社長さん? いやいやこの国で言うなら、花形職業の魔法庁長官さんとか。それともまさかの第二王子夫人とか? 枠空いてるし。

「多分、全部違う」

「あ、そう?」

 口にする前に否定されて、やっぱりとディアナは思う。

 ライルがはっきり言わないのは、ディアナには予想できないようなことが起ころうとしているからだ。

「じゃあ、将来の夢を聞いてみてよ。オランジュ嬢が、どうなりたいのか」

「うん。わかった」

「もし、彼女が――――」

 何かを言いかけて、ライルがはっと目を見張り、口を閉ざす。

「ん? どしたん?」

 ライルが緊張した様子で一点を見ているので、ディアナにそちらに視線を向けると、ディアナたちが向かっている側――――校舎の方から一人の少年が歩いて来るのが見えた。

 その姿に、ディアナの表情がほわんとほころぶ。

「クライヴさま…」

 名前を呼ばれたクライヴは、答えるようにディアナに微笑むと、ライルの前で立ち止まり、頭を下げた。

「戻ったのか、クライヴ」

「はい。殿下はこれからどちらへ?」

「カフェ。水分補給をしにね」

「………(そうだったのかー)」

 行先をみのるライルにまかせて歩いていたディアナは、ここではじめて目的地を知ったのだったりする。

「そうですか」

 クライヴはにこやかに答えると、やはりにこやかにディアナに問う。

「で、ディアナはどこに行くの?」

「えっ…」

 素直にライルと一緒だと答えたいディアナだったけれども、どうもクライヴの声がとげとげしているし、背負っている雰囲気も重苦しい。何より目がまったく笑っていない。それに、クライヴの体がどんどん近づいて来ているように思えて、いや確実に近づいて来ていて、圧迫感が半端ない。

「えっ…と」

 何だこれ。自分はクライヴの地雷でも踏んだのか。何と答えれば、クライヴのご機嫌は治るのだろうか。

 いろいろ考えようとするけれども、あせったおつむではいい案など何ひとつ思い浮かばない。

 ……ど、どうしよう~。

 いよいよディアナが半泣きになったところで、思わぬ…でもないところから、助け舟が入った。…かに思えた。

「サルーイン嬢も一緒にカフェに行く途中」

「!!!」

 しかしその言葉は、クライヴを落ち着かせるには到底及ばない…というかむしろ火に油をちょろりとそそぐかのようなものだった。

 案の定、ディアナが見上げたクライヴの顔は、かたくこわばっている。

「……そうですか」

「!!」

 ……うえ~んっ。クライヴさまの顔がこわいよ、声もこわいよ~っ。

 ディアナがびくびくと怯えていると、ライルのあきれ声が聞こえて来た。

「あのさあ、クライヴにどんなを夢を見てるのか知らないけど、こいつ、いつもはこんなもんだから」

「えっ…」

 それは、どうやらディアナに向けられた言葉だと気づき、驚きの目をクライヴに向ける。

「黙ってればいつもむすっとした顔してるし、クラスメイトとの交流も必要最低限。去年はダンスパーティのパートナーを申し込まれても速攻で断ってたし、会場で踊ったとしても愛想笑いひとつ浮かべない。君の婚約者は、そういう男だよ、サルーイン嬢」

「えっ? ――――――えええええっっっ?!!」

「うるさい」

「えっ、いや、だってだって、みの…ライル殿下、この方はクライヴさまですよ?! あの、いつも笑顔がまぶしくて、お日様の下がとっても似合う、きらっきらイケメンのクライヴさまですよ?!! お手紙には思いやりをたっぷりと込めて下さるし、ダンスパーティの時だって、エスコートが完璧すぎて、わたしどきどきしっぱなしだったんですからっ! そんな方が、コミュ症もどきのはずないじゃないですかっ!!」

 そうなのだ。ディアナの知っているクライヴは、明るい笑顔がとても似合う、やさしい人なのだ。ゲームのクライヴも、芝生の上に寝っ転がって日向ぼっこをするレベルのお日様好きだったし、ダンスパーティの時だって、誰とでも明るい笑顔で踊っていた。そんなクライヴが、実は、みのるライルの言うような暗い性格だなんて、とても信じられない。

 そんな信念のもと、舌打ちしながらディアナの立つ側の耳を押さえる第二王子にもかまわず、自分の考えを主張する。

 するとライルが、クライヴに顔を向けてにやりと笑った。

「……だそうだ。クライヴ」

「………」

「ん?」

 気がつくと、クライヴは、大きな手で顔を押さえつつ、明後日の方を向いていた。

「………? クライヴさま?」

 手のせいで顔の表情がわからないので、ちょっと背伸びをしてのぞいてみるけれど、今度はくるりと背を向けられてしまい、やはり見ることができない。

 ……あれ…。何か変なこと言ったかな、わたし………。

 すげなく思えるクライヴの態度に、ディアナが心配していると、クライヴが、ふうっと深呼吸をした。

 それからディアナの方を向いたクライヴは、もういつものやさしげな表情をしていた。

「カフェに行くの? だったらおれも行こうかな」

「! 本当ですかっ?」

 クライヴの言葉に、ディアナは飛び上がらんばかりに喜んだ。

 見たかぎりでは、もう怒っていないみたいだし、何より、これからの時間をクライヴと一緒に過ごせるのだ。

 たとえすこしの間でも、同じ時間を共有できることが幸せだった。

「うれしいです!」

 両手を胸のところで握りしめて、ディアナはクライヴを見上げる。

 すると、クライヴもすこし照れた様子で笑った。

「………うん」

 そうして、学園の廊下で二人だけの世界を構築し、堪能したところで、ディアナは言った。

「では、みんなでカフェへ行きましょうか………あれ?」

 まずクライヴと目を合わせて、ほほえみ合い、満足したところでライルに顔を向けたディアナだったけれど、先ほどまでライルがいたディアナの横には、誰もいなかった。

「? ライル殿下?」

 きょろりと視線をさまよわせると、カフェとは反対の方向の廊下に、ライルの姿を見つけた。

「殿下~? カフェはそっちじゃありませんよ~?」

「――――」

 ディアナがライルの背中に向かって呼びかけると、ライルは前を向いたまま、ただ腕をあげてみせた。

「? 殿下?」

 ……あれ? みのるって、方向音痴だったっけ?

 ディアナがライルを追いかけようとしたところで、呼び止められるかのように肩に手を置かれた。

「? クライヴさま?」

 ディアナが、不思議に思って手の持ち主を見上げると、その主は、まるで幼い子供に説明するような口調で言った。

「多分、気を使っていただいたんだと思うよ?」

「気…ですか?」

 いったい何の? とばかりに首をかしげるディアナに、クライヴは苦笑する。

「せっかくの休日だから、婚約者のおれ達を、二人きりにしてくれたんじゃないかな?」

「…ふぁっ」

 二人きりに~あたりから、すこし茶目っ気が入った口調になっていき、最後ににこっと笑顔までサービスされたディアナは、自分のほおが赤くなっていくのをつぶさに感じていた。

 それを見られるのが恥ずかしくて、ほおに両手を当ててうつむくディアナに、クライヴは言う。

「おれは、ライル殿下のご厚意に甘えさせてもらおうと思うんだけど、…どうかな?」

「…っ、…っ」

 愛しのクライヴに誘われてしまったなら、ディアナの選択肢などもはやひとつ。

 顔どころか耳や首まで赤くなるのを自覚しながら、ディアナはこくこくこくこくとうなずいた。

 そんなディアナの手がそっと握られ、頭の上にクライヴの声が降って来る。

「じゃあ、行こうか」

「……………はいっ」

 ディアナはうつむいていたので、クライヴの顔は見えなかったけれど、声がすこしはずんでいるように思えた。

 ……クライヴさまも、うれしいって思ってくれてるといいな…。

 ディアナは、これから過ごす時間に想いを馳せながら、クライヴの手をきゅうっと握るのだった。

次回のタイトルは『前世夢話・みのり、ケガをする。』です。


みのり「みのる~、ごはんよそって~」

みのる「……(無言でよそる)」

みのり「みのる~、マヨネーズ取って~」

みのる「……(無言で取る)」

みのり「みのる~、チャンネル変えて~」

みのる「それは自分で出来るよな?」

みのり「あ、バレた?」

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