10話 4月10日 式、はじまる。
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そして、いざ入学式が始まってみると、壇上で話をしている学園長の言葉が、何度か繰り返したゲームの内容とほぼ同じな気がして、だんだんと不安が胸に広がって行く。
ゲームでは、講堂の右側に、ヒロインの攻略対象となった、イリュージア学園の教師とそして生徒会役員たちが、ずらりと並んで椅子に座っていた。
ディアナはちらりとそちらを見てみるけれど、残念ながら、誰が誰だかがよくわからない。プレイ中にそれこそ何度も見ていたはずなのに、登場人物の顔がほとんど思い出せないのだ。
ただ、髪の毛の色はなんとなく覚えているし、何より、ディアナの婚約者、クライヴもいるので、彼の周囲に生徒会役員がいるのは間違いないだろう。
クライヴは、壇上を向いて座る新入生の右横に座っている。その右側…壇上に近い方に三人の制服姿の男の人、左側に一人、丈の長めなスーツを着た男の人がいる。
……失敗したぁ…。生徒会の人たちが座る場所わかってたら、近くの席を選んだのに…。
ディアナは、うっかり壇上から左横の方の席に座ってしまったのだ。おかげで、生徒会の人たちはおろか、クライヴの顔でさえよく見えない。
攻略対象は、全員で七人。内訳は、生徒が六人の教師が一人。
たぶん、一番壇上に近い席にいる、明るめのサラサラ銀髪ヘアが、イリュージア学園の生徒会長で、フロンド王国の第一王子のカーサ・ガウス。二番目に座っている、ちょっとふんわりくせ毛の白にも近い金髪の持ち主が、第二王子で、副生徒会長のライル・ガウス。
三番目にいる、すこし青みがかった灰色の髪の毛を持つ、胸板厚めの彼が、辺境伯の長男で、体育委員長の、ロナンド・エンノルデン。そして。
四番目に座る、青みの入った金髪が、侯爵家の長男で、文化委員長の、クライヴ・フィクトル。
そして、クライヴの左側に座る明るめの茶髪が、生徒会の顧問を務める、マリス・レスタンク。表向きは子爵家の次男となっている。
攻略者は、このメンバーの他にあと二人いるけれど、彼らは新入生として式に参列しているはずだし、人数も一五〇人以上いるので、髪の色を知っていたところで、探し出すのはほぼ不可能。
けれど、この講堂のどこかにはいる筈。公爵家の長男で、父親が宰相を勤めているレダン・マッスーオと、男爵家の長男、ヨハンネス・メリカントが。
ちなみに、ディアナがゲームでクリアしたのは、ロナンド、クライヴ、ライル、マリス、ヨハンネス。逆ハーレムは四月までプレイした記憶はあるけれど、クリアした覚えはない。
クリアしていないのか、クリアしたのに思い出せないのか…。
いくら考えてもわからないので、今、ディアナの中にある四月までプレイした記憶と、ネットの攻略サイトをチラ見したプチ知識を生かして動くしかない。
まあ、みのりの時に、テレビや本で見た、前世の記憶を持つ人たちだって、前世ではこのあたりに住んでいた、とか、ここの教会に通っていた、とか、おおざっぱなことしか思い出せていなかったみたいだから、むしろ自分は記憶がある方なんじゃないかとディアナは思う。
そんなことを考えている間に、学園長の話が終わる。
……せっかく心が洗われるような美声でしゃべってくださったのに、ほとんど聞いていなくてごめんなさい。でも、あなたがこの学園を作ったことぐらいは知ってます。
ディアナは心の中でぺこりと頭をさげ、詫びておいた。
さて、問題はここからだ。次は、宣誓の儀が行われる。
新入生の中で一番魔力量の多い子が、三年間、学園で勤勉に学ぶことを、みんなの前で誓うのだ。
誓いの言葉をどうするかは、代表者に一任されている。
ゲームでは、代表者役を、ヒロインのファルシナが行った。
そして、いくつかの選択肢から、ヒロインがどの言葉を選ぶかによって、攻略者たちの親密度が変化するのだ。
ディアナの記憶では、逆ハーレムルートに入りたい時は、常に民衆と向き合って、成すべきことをする……とかいう、政治的なニュアンスが含まれていたと思われる。
この言葉は、逆ハーレムルートの他に、第一王子のカーサと、生徒会役員のロナンド、レダンのルートにも有効なもの。
ちなみに、クライブとヨハンネスルートに進みたい場合は、仲間同士、協力し合ってがんばろう的な言葉で、第二王子のライルと教師のマリスは、研究好きなので、技術の発展に努めます的な言葉が有効。
……さてさて、ヒロインファルシナちゃんは、どの言葉をお選びなさるのか…。ていうか、ヒロインが見当たらないんだけれども、ほんとにこの中にいるのかな?
講堂に入った時には、人が多すぎて、……というものあるし、講堂の窓に埋め込まれたステンドグラスに目を奪われたというのもあって、いまだヒロインを探し出すことができていない。
……いや、ヒロインどころか、悪役令嬢AからEだって、ひとりも見つけることができなかったんだけれども。悪役令嬢の顔は知らなくても、髪の毛の色は何とか覚えているし、存在感もはんぱないだろうから、なんとなくわかるんじゃないかなーとか思っていたけど、………甘かったね、うん。
そもそも、自分の命がかかっているのに、なによそ見してんだコラ、なんてツッコミが、頭の中に響いてきたりするけれども、しかたないのだ。
……だってだってー。ステンドグラスがきれいだったんだもぉーん。
ディアナは、うんうんと心の中でうなずいた。
おもに、自分を納得させるために。
「次は、宣誓の儀を行います」
司会を務める先生の声が、講堂に響く。
さて、いよいよだ。先生は、誰の名前を告げるのか。
ディアナは、どきどきと強い鼓動をはじめる胸を、手のひらでぐっと押さえる。
……い、いよいよだ…! あれ、でも、でもだよ? なにせ、ここはゲームじゃなくて現実の世界。もしも、ヒロインのファルシナよりも高い魔力を持つ子がいたりしたら…? それどころか、ヒロインがイリュージア学園に、入学してなかったら?
「……わたし、助かるかも…」
ディアナは、口の中で小さくつぶやくと、祈るように両手をぐっと握り込んだ。
……どうかどうか…、ヒロインよりも魔力の高い子が存在していますように…!! そうでなければ、ヒロインが学園にいませんように…!
「新入生代表……」
ディアナは、心の中で必死で願った。
どうか、ヒロインの名前だけは言わないで欲しいと。
どうか、ファルシナとだけは―――――。
「ファルシナ・オランジュ」
「…」
どうやら、ディアナの願いは、さくっと聞き流されたようだった。
……あああ…。やっぱりそうなるのかー…。
ディアナは、目の前に突きつけられた事実に打ちひしがれながらも、名前を呼ばれて壇上にあがるファルシナに視線を向けた。
ストロベリーブロンドのくせ毛をふわふわとなびかせながら、毅然とした足取りで歩くファルシナ。
かまぼこ型の大きな瞳は、ゲームでは、夜の森のような奥深さを感じさせるとか言われていた。
まっすぐ伸びた高い鼻の下には、コーラルピンク色の唇。しっかりと口角が上がっている所からは、毅然とした印象を受ける。
たしか、ゲームのヒロインも、全体的にはやわらかい雰囲気なのだけれど、言うべきことははっきり言うキャラクターだったと、ディアナは記憶している。
……ヒロインが入学してるのはわかった。もうしかたないのて、認めよう。次なる問題は、壇上のファルシナが、どの宣誓の言葉を選ぶのか…!
壇上で新入生たちにまっすぐ向き直るファルシナを、ディアナは、ごくりと喉を鳴らして見つめる。
ファルシナは、大勢の新入生たちや、教師、そして、生徒会のメンバーの視線を一身に受けながら、大きく息を吸い込み、声をあげた。
「宣誓…! 私達は、フロンド王国の繁栄の為…」
……そうそう。たしか、ここまでは共通のセリフだった。変わるのはここから…! ……どうか、逆ハーレムルートだけはやめてください。あ、あと、クライヴさまルートもどうか…。……あれ? これだと「だけ」とは言わないような?
ひとり心の中でツッコミを入れながら、続きを待つディアナ。そんな彼女の耳に届いた宣誓の言葉は。
「……常に己と向き合い、民と向き合い、成すべき事を成し続ける事を誓います」
記憶にあった、逆ハーレムルート選択可能の文言だった。




