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中島の夏  作者: 鐵人
4/5

きっかけ

さんざんな結果に終わった初めてのトライアスロン大会


私に足りないもの、それは


「経験」


だった。



陸上の特待生を蹴ってまで進んだこの道


いつまでもくよくよしていたら、時間がもったいない♪


私はすぐに、別の大会に申し込んだ。


ひとつではない


3つの大会に申し込んだ。


最初に行われた大会は

「アクアスロン」


と呼ばれる大会だった。


トライアスロンはスイム、バイク、ランの3種目で競われるのだけれど


アクアスロンというのは、スイムとランの2種目で競われる。


まさに私にぴったりの大会だった。


その後の2つの大会は、3種目で競うトライアスロン大会。


ただし、2つとも、距離が短い


「スプリント」と呼ばれる大会だった。


オリンピックなどで競われる正式な距離の大会はを


「オリンピックデイスタンス」


または


「ショートディスタンス」と呼び


スイム1.5キロ


バイク40キロ


ラン10キロ


で構成される。


先日出場した大会は、ショートにあたる。


ショートよりも短い距離のレースのことを


「スプリント」と呼び


これについては、正確な距離は決まっていないのだ。


トライアスロンは、開催される地域の地形や交通状況。


開催者の好みなどにもよって、その距離や内容が大きく異なってくる。




アクアスロンには千夏が付き合ってくれた。

千夏は3つの種目を満遍なくこなすタイプのトライアスリートだった。


つまり、好き嫌いがない。


バイクが得意な春菜は

「アクアスロンには絶対でない!」


と、付き合ってくれなかった。


今回の大会は、近所の春日部公園にある室内プールで800メートル泳ぎ


その後、公園内の1周2.5キロのジョギングコースを2周する

非常に短い距離で争われる。

しかも参加者は4〜50人ほどしかいなくて

女性選手は私を含めて7人しかいない。


受付を済ませて、公園のプールの入り口で千夏と話していると


何人かの選手が、千夏に話しかけていた。


千夏は、子供の頃から地元でトライアスロンをしていて、成績も優秀なので


顔を覚えられているようだ。


そんな中、一人の選手が私に話しかけてきた。「きみ、この前のレースで、でらバイク速かった子よね?」


「え!?私ですか?」


「違ったっけ?トランジッション含まずに、1時間10分くらいやったでしょ?」


「えぇ、まあぁ」


「速いよね!けど、今日のレースはバイクないよ?スイムとランは苦手なんやないん?弱点克服のため?えらいねぇ〜♪」


「は・・はい・・・(涙)」



情けないなぁ。


スイムとランが苦手って言われてしまった。


幼い頃からがんばってきた水泳と


中学で、汗と土にまみれて走りに走った陸上を否定され


このまま黙っているわけにはいかなかったが


正直、言葉に詰まり、否定することはできなかった。


たしかに、前回の大会の結果を見れば


誰が見ても、バイクが得意でスイムとランは苦手


そう取られてもしかたがなかった。


私に話しかけてきたのは、ゼッケン7番


小柄な40代の男性だった。


負けたくない。


この人に、どうしても勝ちたい!


レース前にはあまり感じていなかった、熱く燃えるような闘争心が、メラメラと燃えたぎってきた。


「めっちゃ燃えてきたぁ〜〜〜!!!!負けたくない!!!!」




午前10時


1コースに6〜7人入り、10秒ごとにスタートする。


先に申請タイムの速い人からスタートする。


一応、スイムの得意な私は、一番一番前からのスタートとなった。


千夏も一緒だった。


ゼッケン7番は、どこにいるのかわからない。




スタートの合図とともに、私は頭を水につけ、壁を思い切り蹴って泳ぎ始めた。


50mのターン、100mのターン・・・・


隣で泳いでいた千夏を少しずつ引き離していたので、調子は悪くないようだった。


徐々に後発の選手との差が縮まってくる。


300mほど泳いだところで抜いた。


その後、何人も後発の選手を交わし


800mを10分12秒で泳ぎきった。


ベストタイムからは、程遠いが、前からどんどん後発の選手が落ちてきて


その選手たちを交わしたり、抜くタイミングを見計らったりと


なかなかスピードがあがらなかったのだ。




プールから上がり、建物の外へ飛び出した。


ゴーグルを外し、キャップを脱ぎ


トランジッションエリアへ駆け込む。


今回はスイムからランだったため、トランジッションも軽快だ。


ただ、公園を走るため、恥ずかしいのでTシャツを身にまとった。


シューズを履き、帽子をかぶり、サングラスを手にとってランスタート。


2.5キロを2周する5キロのコース。




「3位だよ!女子では1位!」


係員の方が私に向かってそう叫んだ。


「え!?女子1位!?」


いっきに心臓の鼓動が早くなった。


落ち着け・・・


走り始めて1kmほどで、前を走る男性選手を1名かわした。


1位の選手の姿は、全く見えなかった。


2.5kmのコースを1周し、2周目に入った。


プールの方向から走ってくる選手がちらほら見えた。


トライアスロンやアクアスロンに参加する選手の全てがトップアスリートと言うわけではない。


健康のため、体力づくりのため、ダイエットのためなど


様々な理由でトライアスロンに挑戦する選手たち。


70歳を越えたトライアスリートも少なくはない。


そんなホビートライアスリートを交わすたびに


「がんばれ!」と声が飛んでくる。


それは、競い合っている相手としてではなく


「同じ競技を愛する仲間」としての声援だった。


水泳をしていたころも、陸上をしていたころも


そんな声援を、同じプールを泳いでいる、同じ競技場を走っている選手からかけてもらったことなど1度もなかった。


なんて暖かい場所なんだろう。


スタミナという樽の中に、最大級レベルのダムの水を一気に放流したほどのパワーが流れ込んできた。


猛然と前の選手を追った。


周回遅れの選手たちがたくさんいたので、どの選手が1位の選手なのか、わからなかったけれど。


そして、私はゴールテープを切って、アクアスロン大会を総合1位(女性1位)で締めくくった。


私の前を走っていたのは、なんとあとゼッケン7番の40代、小柄な男性選手だった。


スイムを1位で上がり、そのまま2周目途中まで1位をキープしていたようだ。


私はいつ、ゼッケン7番の選手を抜いたのか気が付かなかったが、ゼッケン7番の選手はきっと


私に抜かれ、悔しがったに違いない♪


ざまーみろ(笑)




春日部公園でのアクアスロン大会は、規模は小さいながらも、優勝という形で終わり


私にとって忘れられない大会の1つとなった。




春日部公園での優勝をきっかけに、私は他の2つの大会でも、上位に入り、高校1年のシーズンを無事終えることができた。


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