表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中島の夏  作者: 鐵人
3/5

初レース

高校一年の夏


同級生のみんなが、カラオケや買い物、デートとかして夏を謳歌している中で


私たちトライアスロン部は、まさにシーズン真っ只中であり


全身が、小麦肌を通り越して


痛々しいほど黒く光っていた。


夏休みの練習は、基本的に一日に3種目をこなす。


午前中の涼しい時間帯にランのトレーニング。


その後、バイクに乗り、スイムの練習に移る。

あれだけへっぴり腰で、どうしようもなかったバイクも


今ではビンディングペダルにも慣れ


みんなのスピードについて走れるようになった。


デビュー戦まであと少し。


日々、充実していた。

同級生の春菜はるな千夏ちかは同じ中学出身で、さらに同じトライアスロンチームに所属していた。

子供の頃からトライアスロンに関わり、ジュニアトライアスロンと呼ばれる大会にも参加経験があった。



私は、水泳や陸上の大会の経験は豊富だったけど


トライアスロンの大会は


生まれて初めてだった。



トライアスロンの大会と言っても、すべての大会が同じ距離、コースで行われるわけではなく


距離が短かったり、長かったり、坂道があったり、周回コースだったりする。


今回私が参加することになった大会は、愛知にある有名なチームの所属する会社主催の大会で


高校生に限らず、一般人も多く参加する。



スタートも男女一緒だし、距離ももちろん男女一緒だった。




いよいよ大会当日。


前日は緊張して、寝付きが悪かったが、寝てしまえばこっちのもの♪


目覚ましの音に気が付かないくらい、爆睡していた。


いつものように、ねーちゃんに起こされる。


必要なものは前日にバックに詰めこんだ。


あとはがんばるだけだ。



会場へ向かう途中で、春菜と千夏と合流。


自転車で会場へ向かった。

到着して、まず私たちはバイクのトランジッションにバイクや荷物を置きに行った。


トランジッションとは、スイムからバイク。

もしくはバイクからランへ移行するときに、ウエットスーツを脱いだり、靴を履いたりする場所のことで


トランジッションは第4の種目とも呼ばれている。


日本のトップ選手になると、目にも止まらぬ早さでトランジッションを駆け抜けて行く。



その後、受付でナンバリング。腕や足に、自分のエントリーナンバーをマジックで書いてもらうのだ。


なんかかっこよくて、いい感じ(笑)


ただ、少々くすぐったかった♪



水泳や陸上のときもそうだったが、周りにいる他の選手たちがみんな速そうに見えた。


私自身も、周りからそう見られていたのだろうか。


緊張している私に、春菜と千夏が寄ってきて励ましてくれる。


「大丈夫だって!輝真は泳ぐのも走るのも速いんやし、みんなの度肝を抜いてやりな♪」




レース30分前の放送が流れた。


私たちはウエットスーツを身にまとい、スイム会場へ向かった。


たくさんの選手たちが海の中でアップをしたり、砂浜でストレッチをしている。


私も海の中へ入り、軽くアップをした。


調子は良かった。


これならいける。


上位デビューに向けて、心は踊っていた。


一度全員陸へ上がってくださいと放送が入った。

言われるがままにあがり、いよいよスタート、その合図を待った。


ふと周りを見たら、春菜と千夏の姿はない。

あとで聞いた話だけど、陸に上がった時点でじわじわと選手たちを掻き分け、できるだけ前の方にポジションを取ったらしい。




「ファーーーーン!!!」


一斉に水しぶきが上がった。


選手たちが海へ向かって走っていく。


膝元から腰辺りに海面が近づくと、イルカがジャンプするように、水中へダイブしていった。




しまった(;´д`)



随分と遅れをとってしまった。


気が付けば、先頭集団はもう泳ぎはじめていて


私はまだ、他の選手たちに紛れて、海を目指して歩いていた。


人が多すぎて走ることもできず、前にいる選手たちが入水するのを待ちながら、自分の番をただ指を加えて待つしかなかった。


でも、スイムは得意だ。


ここからでも上位まで追っていける!


そう自分に言い聞かせ、海の中に入って泳ぎ始めた。


いきなり蹴られた。


と思ったのもつかの間、今度は足を捕まれた。


人が上から乗ってくる

前に進もうと思っても、手が選手に当たって水をとらえることができない。



やばい!



溺れる!!




パニックを起こしてしまった私は、上手に空気を肺に入れることもできず


ウエットスーツの


「沈まない」という機能がなければ


本当に溺れてしまうところだった。

気が付けば、上位陣は遥か彼方。


私は一般の選手たちに囲まれ、前にも後ろにも進めない。


自分のペースで泳ぐどころか、激しいバトルに巻き込まれ


体力も気力も奪われ、あわや命までも奪われるところだった。




やっとの思いでスイムアップ。


時計は35分を刻んでいた。


1500メートル泳ぐのに、こんなに時間を有したのははじめてだ。


上位選手から遅れること15分。

こうなったら、どこまでも追いかけてやる!


スイムを終え、歩いている選手や、シャワーを浴びている選手を横目に


バイクのトランジッションエリアに向けて走る。


まずウエットスーツを脱ぐ。


しかし、脱ぎたいのだが


脱げない!!!(;´д`)



とくに足首のあたりがひっかかって


脱ぎにくくて仕方がない。


腕はスイムで(いや、バトルで)使い果たしていたため、力が入らない。

必死に手足をバタバタさせ、やっとの思いでウエットスーツを脱いだ。


次にヘルメットをかぶり、ゴーグルつける。

ゼッケンベルトを装着し、バイクシューズを履いてトランジッションエリアを飛び出した。


バイクシューズは、バイクに直接はめておき、走りはじめてスピードが乗ってから足をシューズにいれるという方法が主流だが


こけそうで怖いので私はやめておいた。


バイクも大会に向け、しっかり練習を積んできた。山岳コースでは1500メートルの標高差のコースを走り


休日の練習では、100キロを越えるロングライドを何度もこなした。


スイムの遅れを取り戻すかのように、私は前の選手を追った。


トライアスロンでは、バイクのすぐ後ろについて走ることは禁じられている。


その行為をドラフティングと呼んでいるのだが


このドラフティングをすると、後ろにいる選手は、

同じスピードで走る前の選手の3割とか4割の力で走れてしまうらしい。


バイクは風の影響を大きく受けてしまうのだ。


前の選手に追い付く度に、ドラフティングにならないように気をつけて走った。


40キロのバイクパートを終えたとき


時計は一時間49分。

サイクルコンピーターのバイクのタイムは1時間10分だった。


バイクパートは目標タイムを大きくクリアーしていた。


すぐにシューズを履き替え、帽子をかぶりランスタート。


沿道から、たくさんの方たちが声援を送ってくれる。


ここから得意のランで巻き返しだ!




しかし、足が動かない…


バイクのあとのランは、足が動かなくなる。


もちろん知っていたし、練習では何度も経験してきた。


スイムでの遅れを取り戻そうと、いつも以上にバイクパートをがんばってしまい


足が動かなくなってしまった。


止まって屈伸。


ストレッチ。


少しずつ前を目指した。


途中のエイド(給水所)では、何度も止まって給水をした。


ボランティアの中学生たちが


「がんばってください!」


とドリンクやスポンジを渡してくれた。


その声援に力をもらい前を向く。


いつもなら、あっと言う間に走りきる10キロが、とてつもなく長く感じた。


最後の直前


頭がぼーっとして、目線が定まらなかった。

ゴールテープを切った瞬間に、

春菜と千夏が私を迎え


私はその瞬間



号泣してしまった。



悔しかった。


とても悔しかった。


自分がとても小さく弱い人間に思え、今すぐにでもその場から消えてなくなりたかった。


ランのタイムは55分。


トータル2時間44分。


女子64人中


25位


女子高校生38人中


19位


こうして散々な結果で、初陣を飾った。


唯一の収穫は、完走できたこと。

そしてバイクが意外と速いということがわかったということくらいだった。


夜はねーちゃんにからかわれ、マジ泣きしたら、ねーちゃんがびっくりして


翌日の朝食は、大好きな卵焼きが


いつもの三倍分厚かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ