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中島の夏  作者: 鐵人
1/5

出会い

輝真てるま!遅れるよ!!」




「……ゲッ!!( ̄▽ ̄;)」




AM5時30分。


外は暗く、窓ガラスには明るく照らされた部屋の中が反射していた。



冬場の朝練は寒いし、外が暗いから、起きにくくて仕方がない(--;)


トライアスロンは大好きなんだけど、冬場の朝練、特にこの一日が始まる瞬間は憂鬱だ。


「輝真!!」


「ふぁ〜い…」




ねーちゃんは、朝が強い。


しかも、美人で、頭が良くて、人当たりもいい。


サラサラのロングヘアー。


触りたくなるような真っ白な極めの細かい肌。


少し切れ長だけど、ぱっちり二重の綺麗な目に、整ったアゴのライン。


大学生の姉は、すでに体も出来上がっており、世の男性の視線を釘付けにしている。


なのに私ときたら、年中ボサボサのショートカット。


顔は冬場でも真っ黒。

夏になると、日陰に入ると、どこにいるのかわからない。


シャドーとつけられたあだ名は、


そろそろ冬場でも


その役目をしっかり果たしそうだ。



姉と私の似ているところと言えば


白い歯と


無意味に膨らんだ胸(-_-;)


自分が女であることを恨みたくなるような代物だ。


でもまあ、男の子にも、なんだかブラブラしたものが付いていて、あれはあれで邪魔そうだ。



姉と比べると劣等感全開な私だが、唯一神が私に与えてくれた物がある。




それは



「持久力」




子供の頃からスイミングスクールに通っていて、小学生の頃には、全国大会(Jrオリンピック)にも出場し、自由形で決勝に残ったこともある。


中学では、以前から興味のあった陸上部に入部。


長距離を専門とし、成績も悪くなかった。



顧問の高瀬(英語教諭)は、35歳。


あと数年もすればメタボの下僕に間違いなくなるであろう。


昔は痩せていて、背も高く、それなりにモテたのであろうが、


すでに見る影もなかった。


高瀬は陸上をやっていて、100、200メートルのスプリンターだったらしい。


万年2位男の異名を持つ彼は、大事なレースでいつも体調を崩し、表彰台のセンタートップに立ったことはなかったらしい。


そんな高瀬だったが、2年の冬に以前勤めていた高校(高瀬は高校から来た)の教え子の女子高生に手を出して…なんと、できちゃた結婚!!


高瀬曰く、教え子に猛烈アタックされたらしいが、社会的に見れば、どう考えてもエロすぎるぞ高瀬…(--;)


教え子の両親からは、こっぴどく叱られたらしいが


高瀬の親父さんからは一言



「男のロマンやな」



と言われたらしい。


ある意味、35歳にして初めて掴んだセンタートップだった。


高瀬はそのまま別の中学に異動になった。

去らば高瀬よ…



3年に進学し、部活の仲間たちと、次に顧問になる先生の話で盛り上がった。


バレー部の顧問がめっちゃかっこよくて、是が非でも陸上部の顧問に代わってほしかったが


そんな甘い期待とは裏腹に、新しく顧問になった真鍋(またまた英語の教諭)は強気で美人、目が大きく


茶色のロングヘアーは外で陽に当たると、金色に見えた。


どことなくねーちゃんに似ていたが


からだは細く絞りこまれ余分なものはついてなく


顔や肌の色もかなり黒かった。


最初は英語教諭だったことから


まだ知恵の浅い私たちは、春休みにハワイにでも行って焼けたのだろうと決めつけ


さっそく

「ハワイアン」のあだ名を授けた。


勿論、本人の前では言ってない。


そんなことを口にしたら、一日中、いや、一年中フラダンスを踊らされるに違いない。


彼女は昭和52年生まれの蛇年で、しつこかった。


私は運動は好きだったが、あのビキニ姿に腰に干し草のようなものを巻いて腰を振るダンスは


見た目に厳しく、受け付けなかった。


もし踊ることになったとしたら


体操服にブルマ姿でやることになるのは間違いなかったから


実は不必要な心配だった。


そんなハワイアンの作る毎日の練習メニューは


あだ名から受ける陽気でハッピーなイメージとは程遠く


毎日遅くまで、汗と土にまみれ


足の豆は固くなってタコになった。


もう何がなんだかわからないくらい


クタクタに疲れて帰る毎日が続いた。


特に私は、スイミングスクールもやめることなく続けていたため


人の倍、体を動かす毎日が続いた。



中学最後の陸上の大会が終わり、私は長距離選手としてそれなりの成績を残し


高校でも陸上を続けていける自信をつけた。

というのも、とあるもの好きな私立高校から

陸上の特待生としての打診がきたのだ。


正直、めっちゃ嬉しかった!


唯一、夏用の制服がダサいという点を除けば、最高の環境で陸上に打ち込めることが約束されていた。


水泳も好きだったが、陸上はもっと好きだった。


残りの中学生活も、これから始まる高校生活も、楽しくなることは間違いない。


そんな予感がしてやまなかった。




夏の暑い日のこと


顧問のハワイアンが、黒い肌を、さらに真っ黒にして登校してきた。


サングラスの後が顔に焼け残って付いていて

目の回りが白く、他が黒いという

「逆パンダ」状態になっていた。


とうの昔に女は捨てましたといわんばかりの焼け方だった。


聞けば、彼女は地元で開催されたトライアスロンの大会に参加したとのこと。



トライアスロン?



とても長い距離を泳いだり、走ったり


自転車に乗ったりするという


つまりはちょっとナルシストな筋肉隆々な男たちがやるスポーツというイメージだ。



その大会に出場したハワイアンは、随分と無謀なことをする先生に見えた。



しかしまてよ?



長い距離を泳ぐことに関しては、なんの問題もない。


さらに長い距離を走ることも。


自転車はとりあえず補助輪なしで乗れる。




その瞬間、私の中で、何が熱いものが芽生え始めていた。


ハワイアンに声をかけ、大会の様子を映したDVDを借りた。


家に帰り、靴も揃えず、全速力でテレビの前に駆け寄った。



びっくりした。


水泳のスタートは、普段私が行っている、スタート台から飛び込むという方式ではなく


まるでマグロの大群が我先に目標とする栄養豊富な暖流を目指すかの如く


白波をたてながら突き進む。


よくもまああれだけ密集したスペースで


波もあるのに上手にブレス(息継ぎ)ができるもんだ。


海からトップで上がってきた選手には


手が届きそうなくらいの位置から、たくさんの応援者からの声が飛ぶ。


今、やっとのことで泳いできたというのに、息つく間もないほどのスピードで砂浜を掛けて行く。


その先には、何百台という自転車が所せましとならんでいた。


テレビで見たことがある、競輪選手が乗るやつだ。


ハンドルの形が、グニュッと曲がっているやつね。


あと、足元には水分補給をするための水筒が引っ付いていた。


テレビの画面に表示されたスピードを見て驚いた!


なんと時速40キロとか表示されているんですけど( ̄▽ ̄;)


下り道ではもっともっと速いらしい。


自転車がそんなに早く走れる乗り物だとは知らなかった。


あとで私のママチャリで挑戦してみよう。


今からワクワクする♪

しかし、スピードを測る道具がないことに気が付き、やめることにした。


炎天下の中、自転車に40キロも乗ったあと

選手たちは、ゴールに向かって走っていた。

苦しいことは知っている。


私も陸上をやっているのだから。


だけど、泳いで、自転車に乗ったあとに、続けて走った経験はない。


想像の世界を越えていた。


みんなとても苦しそうだった。




ゴールの瞬間



大人たちが、涙を流していた。


我が子を抱えてゴールする選手や隣にいる選手と手を取り合ってガッツポーズでゴールする選手。


力尽きて倒れ込む選手もいたが、みんなそれぞれに満面の笑みを浮かべていた。




これだ!!!



何故だか分からないんだけど、心がそう叫んでいた。



こうして、ひょんなことから私は水泳と陸上をリンクさせ


トライアスロンという競技をするようになった。

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